平成20年度:国家試験展望 匂坂和彦
平成20年度:国家試験を展望する(中)
(住宅新報社講師) 匂坂和彦
1.難易度はほぼ横ばい,19年度試験
こんにちは。住宅新報社講師の匂坂です。
試験おつかれさまでした。手応えはいかがでしたでしょうか。
本試験の全体的な難易度としては,総合的には昨年度と比較し,法令択一は若干やさしめであり,記述,一般知識の国語が難しかったため,難易度はほぼ横ばいかとみています。
択一で150点付近まで点を取ることはできたけど,あとは記述次第という受験生が多かったのではないでしょうか。
ただ,2回目以上の受験生では,手応えを感じられた方が多いので,個人的には合格率は昨年よりも上がるような気がいたします。
基礎法学
特に対策をしなくても,ほとんどの受験生が正解できる問題でした。
行政法
行政法は……昨年はゼロの個数問題が今年は4問あり,その分難しく感じたかもしれません。
ただ,基本的なことを聞いている問題も多いので,ここでのケアレスミスは合否に影響します。
地方自治法は,全問正解,行政法全体で8割くらいは正解したいところです。
民法
民法では学説問題が初登場し,受験生のみなさんには大変こたえたようです。
ただ,この学説問題は難易度が低いので,正解したいところです。
その他,事例問題など考えさせられる問題が多く,法令択一は民法が一番難しかったのではないでしょうか。
問題30(先取特権),問題32(直接強制)も行政書士の授業ではあまり触れないうえ,個数問題であり難しいです。過去問レベルの問題は,問題27,問題35の2問。
会社法(商法)
商法を含めると5問出題され,難しかったかもしれません。
会社法は旧商法に比べ,はるかに複雑ですし,行政書士試験では今年初めて登場する法律ということもあり,どのくらいのレベルのものが出題されるのか,予想が難しかったこともあります。
出題としては決して難しいレベルではありませんが,会社法が難しかったと感じられた方が多かったようです。
会社法は,まず,どのような機関があるのかを覚えないとどうしようもありません。
取締役(会)・株主総会・監査役(会)・会計監査人・会計参与・委員会。
それに加え執行役・特別取締役・社外監査役など,それぞれどのような役割をもっているのか,勉強する必要があると思います。
個人的には5問中4問は正解してほしいところ。
問題40は勉強すること自体難しいので,正解できなくても仕方がないでしょう。
憲法
問題4は学説問題であり,難しかったのではないでしょうか。
前年までのような条文を単純に聞いてくる問題がなくなり,判例,学説や法の説明について問う,いままでにない出題形式がみられました。
ただ,今年は難易度がそれほど高くなく,問題5,問題6は過去問レベル。憲法全体としては5問中4問正解したいところです。
一般知識
個人情報の2問は必ず正解したいです。
国語は若干難しくなっていますが,他の問題には過去問で解ける問題もあり,基準点の6問以上は取れると思います。
議院内閣制や選挙制度など懐かしい分野からの出題もあり,長期受験生にとっては有利に働いたのではないかと思います。
2.合否を分ける問題 問題46
記述行政法 問題44 やさしい 行政手続法7条
記述民法 問題45 難しい 正当防衛
記述民法 問題46 普通 金銭債務の特則
注目の記述式は,問題44(行政法)が比較的やさしく,条文どおりですので,普通に勉強していれば,ほとんどの受験生が解けたと思います。
問題45は難しいです。
民法上の正当防衛は,大変勉強が手薄になっているところだと思います。
正当防衛は刑法にもありますが,刑法の正当防衛と民法の正当防衛は逆の仕組みになっていて,仮に刑法を勉強していたとしても難しかったと思います。
問題45はハッキリ分からないながらも,なんとなく書けたという受験生も多かったのですが,正解ではなくても部分点がつけばラッキーだと思います。
問題46は本来,解ける範囲の問題なのですが,条文の正確な知識が必要で,記述は1問20点なので,問題46で,どれだけ得点を取ることができるか,で合否を分けると思います。
択一のみで160点以上の方は,なんとかいけます。140~160点の方は,問題46の出来次第でしょう。
3. 20年度試験対策~今こそ条文を読み込もう
今年の本試験,一番難しいのは問題45だと思いますが,実際に試験を受けた受験生としては問題46が一番難しかった……という感想が多かったです。
しかし,問題46は決して手も足も出ない問題ではなく,難易度もそれほど高いとはいえませんでした。
私も数年前まで受験生でしたから分かるのですが,行政書士試験はテキストを読めば,わざわざ六法など読まなくても合格できる,という考え方がどこかで存在するんですね。
残念なことに講師の中でも,そのようなことをおっしゃる方がいます。
しかし,そうではありません。
問題46は条文をしっかり勉強していれば,なんなく解けるのに,普段の勉強ではテキスト中心で,条文自体はあまり読んでいません。
テキストに条文が組み込まれているものもありますが,ここは,テキストとは別に六法を横に置いて,しっかり読み込まなければいけません。
条文を読み込むという作業は基本的なことですが,来年の記述式,法令択一式に対応する最も有効な手段だと思います。
4. 40字記述の流れ
18年度,19年度試験では,ともに民法2問,行政法1問でした。民法が記述式で重視されているのは,民法が,記述問題が非常に作りやすい分野といえるからだと思います。
しかし,個人的には,20年度は会社法や憲法など他の科目からも記述問題が出題されてもいいと思います。たとえば次のような問題です。
【予想問題】
東京商事株式会社の取締役Aは平成19年12月1日に破産手続開始決定を受けた。取締役Aの地位はどうなるのだろうか。理由を含めた結論を解答欄に40字程度で記述しなさい。
【解説】
旧商法では,破産手続開始決定は,取締役の欠格事由とされていた。会社法施行に伴い,破産手続開始決定は欠格事由でなくなったので,破産者も取締役に就任することができるし,破産を直接の原因として,退任することはない。
しかし,取締役と会社は民法上の委任関係にあるので,破産は委任の終了事由に該当し,委任の終了により取締役の地位を失うことになる。
【解答例】
破産手続開始決定により,会社との委任関係が終了し,Aは取締役の地位を失うことになる。
(42字)
会社法が施行されて1年以上たちますが,まだ,出題されそうな論点です。
その他,憲法や基礎法学でも40字記述問題は作れます。
こんなふうに,他の科目の記述問題も出題可能性としてはまだ残されているわけですので,民法や行政法だけでなく,他の科目も出題されることを想定しておいたほうがよいでしょう。
5. 40字記述に対策は必要か?
これは,みなさん意見が分かれるところだと思います。
講師の中でも,意見が分かれます。
個人的には,40字記述の対策は,できればしてほしいと思います。「できれば」でいいです。
無理にとはいいません。テキストを読んでいて,40字記述の自作問題を作って,解くという作業は,自分ではなかなかできないものです。
私がいっているのは,せめて,『不動産受験新報』や市販の問題集などに載っている予想問題等は積極的に解いてほしいということです。
市販の問題集は,どんなものでもいいです。
というのも,択一問題を通じて勉強するよりも,記述問題を通じて勉強するほうが,法律への理解度が全然違ってくるからです。
当然,択一の得点力もグンと上がるはずです。記述対策を不要と考えている方は,ここを理解してほしいです。
記述式の対策をすることによって,合格へ大きく近づくのではないでしょうか。
≪今後の記述予想テーマ≫
●心裡留保において第三者が保護される要件
●不動産売買の先取特権
●認知準正
※条文と解釈が異なる論点を挙げてみました。
6. 過去問題集は,どんなものがいい?
過去問を解くという作業は必要です。
年々試験が難しくなっていくとはいえ,過去問を解く意義がなくなるわけではありません。
過去問は各出版社からいろいろなものが出版されています。
ただ,よし悪しを見分ける方法としては,解説がしっかりしているものを選ぶべきだと思います。
解説が「○ 正しい」「× …条」で終わっているものは話になりません。
なぜ正しいのか。なぜ誤っているのか。理由づけがしっかりできているものでないと知識として定着しないからです。
誤っている肢については解説しているものが多いですが,できれば正しい肢についても解説が書かれているものを選んでください。
7. 基本的な問題で落とさない
行政書士試験は,これまで国家試験の中では比較的簡単に合格できる試験といわれてきました。
それではなぜ,難関資格といえるほど合格率が低いのでしょうか。
最近,毎年思うのですが,行政書士試験は他の国家試験に比べ,個数問題が圧倒的に多いです。
やはり1つ1つの肢は簡単な問題でも,個数問題で出題されると,それだけで正答率がグンと下がるものです。
今年でいえば,問題8がいい例です。
単純正誤問題であれば誰でも正解できる問題が,個数問題になると一変して難問に変わってしまう。
基本的な問題は,個数問題で出題されるというのが,最近の本試験の傾向です。
やはり,条文を読み,過去問は何回も解く。そのような手段が最も有効となるでしょう。
8. 各制度を比較してまとめノートを作ろう
今年は出題されませんでしたが,昨年行政法では,各制度間の比較を問うものが数問出題されました。
今後出題が予想される論点をいくつか挙げておきます。
各制度を比較し,まとめノートを作ると一層理解が深まると思います。
●行政事件訴訟法と行政不服審査法の比較
●国家賠償法と損失補償制度の比較
●株式会社と民法法人の比較
●株式会社と持分会社の比較
●委任と請負の比較
●使用貸借と賃貸借の比較
●公道に至るための他の土地の通行権と通行地役権の比較
【択一予想問題】
1 国家賠償法により国または公共団体が賠償責任を負うとされる損害には精神的損害も含まれるが,損失補償では,精神的損失は,補償の対象にならない。
2 株式会社も持分会社も設立登記が効力要件なので,設立登記の登記期間に定めはない。
【解答】
1 〇 国家賠償法により国または公共団体が賠償責任を負うとされる損害には精神的損害も含まれるが,損失補償では,精神的損失は経済的価値でない特殊な価値にあたり,補償の対象にならないとされている(最判昭63・1・21)。
2 × 株式会社では911条に掲げる日のいずれか遅い日から2週間以内に設立登記をしなければならない(会社法911条参照)。持分会社では登記期間は法定されていない。
9. 間違いノートを作ろう
←間違えた問題
←解答・解説
←間違えた問題
←解答・解説
←間違えた問題
←解答・解説
間違いノートを作ろう……と簡単にいってしまいましたが,これをどうやって作ればよいのか……大変悩むところです。
私も行政書士受験時代,何度かトライしたのですが,すべて途中で断念しました。間違えた問題が多すぎて手書きだと,時間がかかりすぎてしまうのです(笑)。
もし,同じことを思っているようでしたら,次にいうことを参考にしてください。
間違いノートは,コピーしたものを貼り付けるだけでもいいです。ただ,見栄えのよいものにしたい人もいるかもしれません。
私のやり方としては,まず,
①過去に答練等で間違えた部分をコピーします。
②それを切り取ってA4の紙に貼り付けます。
③そして,その紙をセットして,ルーズリーフをコピー機の横にある手差し印刷で流します。
この手順で,間違いノートをつくることにしました。
ただ,コンビニのコピー機を使用する場合は,手差し印刷やルーズリーフを使うことができないと思いますので,
③のところをそのままB5の紙でコピーして,アスクル等で購入できる「26穴パンチ」で穴を開ければ,普通のB5の紙もルーズリーフに変わります。
片面だけのノートになると思いますが,もう片面はまとめノート代わりにして,さきほど紹介した各制度を比較した表など,自分なりにまとめたものを書けばよいと思います。
上記はあくまで参考です。手書きでノートが作れない方はぜひ,トライしてみてください。間違いノートを作ることにより,失点が激減することでしょう。
10. 一般知識対策
〇個人情報保護法(17年,18年,19年)
〇行政機関個人情報保護法(18年)
〇行政手続オンライン化法(15年,19年)
〇公的個人認証法(19年)
〇迷惑メール防止法(17年)
〇著作権法(16年)
〇不正アクセス禁止法(13年)
※カッコ内は出題年度
一番の不安要素は一般知識という受験生も多いと思います。
ここ数年,情報・インターネット関連の法律が出題されています。
上の2つは毎年出題が予想されますので,当然勉強されると思います。
19年度試験は,行政手続オンライン化法(正式名称:行政手続における情報通信の技術の利用に関する法律)と公的個人認証法(正式名称:電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律)からの出題でした。
正解肢は条文どおりの素直な問題で,条文を読んでおけば,容易に正解できる問題であることが分かります。正解率が低いのは,ただ単に,勉強していない法律だった,というだけです。
一般知識は,何を勉強していいのか分からない人は上記の出題実績を目安に勉強してください。
条文数もそれほど多くないので,一通り目を通しておいてください。
少しでも得点の底上げができれば幸いです。
11. メールマガジンを活用しよう
まだ,すべての受験生の方に認知されるにはほど遠いのですが,行政書士試験に関するメールマガジンは結構出されています。代表的なものとして……,
前者は,不動産受験新報編集部が,後者は私が発行しています。
メールマガジンは基本的に無料ですが,マガジンによっては市販の問題集以上に内容が充実しており,それだけで,問題集が完成するというメリットがあります。
仕事の合間などに会社のパソコンで読んだりして勉強している,という方も結構います。
宅建関係では住宅新報社の他の先生方のものもあり,探してみると結構楽しいです。
独学で勉強されている方はぜひ,利用してみてください。
12. 最後に
冒頭の見出しで難易度はほぼ横ばい,と書きましたが,昨年よりは手応えがあったという感想が多く,1年間必死で勉強した人は努力が報われた人が多かったのでは…
…という印象を受けた試験でした。
最後になりましたが,今年1年の『不動産受験新報』のバックナンバーにぜひ,目を通してください。
3月号から記述対策がはじまり,記述民法26問,記述行政法35問,同じく行政手続法16問とこれだけでも,十分な問題集ができると思います。
連載を続けていて,ああ,こういう論点から出題しておけばよかったなと思うこともありましたが,できる限りのことをしてきたつもりです。
合格発表はまだ1カ月先ですが,よい結果が出るといいですね。読者のみなさんの合格を心からお祈りしています。
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