国家試験記述式問題と解説 「民法」 氷見敏明
国家試験記述式対策
行政書士:民法
(住宅新報社専任講師)
氷見敏明
問題1
被保佐人Aは,保佐人の同意を得ないでBに土地を売却したが,1週間後に当該売買契約を取り消すことにした。Aは,当該売買契約を締結するときに,Bに対して積極的に行為能力者である旨を主張したわけではないが,被保佐人であることを黙秘していた場合でも,取り消すことができない場合がある。40字程度で記述しなさい。
解 説
本予想問題は,制限行為能力者と取引をした相手方を保護する制度からの出題であり,かつ,これに関する判例の見解を問う難しい問題です。
制限行為能力者(未成年者,成年被後見人,被保佐人および被補助人)と取引をした相手方は,立場が不安定です。というのは,制限行為能力者側が,契約を締結した後に,取り消す可能性があるからです。
契約が取り消されれば,その契約は無効になり,相手方から受け取った物を相手方に返還しなければなりません(民法121条)。しかし,取消しをするか否かは自由であり,取り消されるまでは,その契約は有効です。
本問の事例でいうと,
被保佐人Aが保佐人の同意を得ないで土地の売買契約を締結しているので,取り消すことができます。
しかし,Aまたは保佐人が取消しをするか否かは自由であり,取消しをする前であれば,売買契約は有効ですから,Bは,土地を使用することができ建物を建築することもできます。
しかし,後から取り消されると大変です。
なぜなら,契約は無効になり,Bは建物を撤去して土地を返還しなければならないからです。
このように,制限行為能力者と取引をした相手方の立場は,きわめて不安定です。そこで,相手方を保護する制度として以下のようなものがあります。
①制限行為能力者の詐術
②制限行為能力者の相手方の催告権
③法定追認
④取消権の期間の制限
本問は,①の制限行為能力者の詐術の問題です。つまり,制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは,その行為を取り消すことができません(21条)。
すなわち,被保佐人が,保佐人の同意を得ないで土地の売買契約を締結した場合でも,詐術を用いて締結していた場合には,取消権を失います。
詐術とは,19歳の未成年者が20歳であると偽って売買契約をする場合だけでなく,親(法定代理人)の同意がないのに,同意があると偽る場合もあります。
前者は「行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いた」に,容易に該当すると判断できますが,後者は,行為能力者でないのに,行為能力者であるかのように詐術を用いた場合ではありません。しかし,価値的に見て,同じであると解釈されており,後者の場合も詐術を用いたことに該当します。
法定代理人の同意書を偽造したり,戸籍を偽造して行為能力者であるかのように偽った場合や,他人に行為能力者であるかのように偽証させたりという積極的術策を用いた場合は,詐術に該当することは問題ありません。
また,単に行為能力者である旨を告げることが詐術に該当するかが次に問題となります。
これについて判例は,相手方が,行為能力について疑念を抱いていたときに,裁判所なり市役所に問い合わせをしてみろと主張する行為を詐術に該当すると判断し,単に行為能力者である旨を告げる行為も詐術に該当するとしました。
ただし,単に制限行為能力者であることを黙秘していた場合は,詐術に該当しないと解釈されています。
なぜなら,制限行為能力者は取引に際し,自分が制限行為能力者であることを黙秘するのが通常であり,これをも詐術に該当すると考えられるときは,制限行為能力者を保護するために取消権を認めた趣旨が,大きく損なわれるからです。
次に問題となるのは,単なる黙秘ではなく,制限行為能力者であることを黙秘していた場合でも,一定の場合には,詐術に該当するのではないかという点です。
判例は,制限行為能力者であることを黙秘していた場合でも,それが他の言動と相まって,相手方に行為能力者であると誤信させ,または誤信を強めた場合も詐術に当たると解釈しています。
なお,行為能力者であると誤信させるために詐術を用いただけでなく,その結果として相手方が行為能力を誤信したという因果関係が必要です。この誤信がなければ,取消権の消滅という効果を生じません。
なぜなら,制限行為能力者の詐術による取消権の消滅制度の存在理由は,詐術を用いた者への制裁というだけでなく,相手方の保護という点にもあるからです。
解答例
Aの黙秘が,他の言動と相まってBに行為能力者であると誤信させ,又は誤信を強めた場合。(42字)
問題2
18歳のAは,法定代理人Bの同意を得ないでCに建物を売却した。2カ月経過したが,AもBも取消しの意思表示をしないし,また,Bは追認の意思表示もしない。この場合,Cは,誰に,どのような行為をした場合に,この問題に白黒をつけることができるか(追認したものとみなされるとか取り消したものとみなされる等)。
40字程度で記述しなさい。
解説
本問も,制限行為能力者と取引をした相手方を保護する制度からの出題であり,制限行為能力者と取引をした相手方の催告権の問題です。
前述のように,制限行為能力者と取引をした相手方は,立場が不安定です。そこで,相手方に催告権を与えました。すなわち,1カ月以上の期間(熟慮期間)を定めて,取り消すことができる行為を追認するか,取り消すかを確答(明確な返事)するように,催告することができます。
①制限行為能力者の相手方は,その制限行為能力者が行為能力者となった後,その者に対し,1カ月以上の期間を定めて,その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができます。
この場合において,その者がその期間内に確答を発しないときは,その行為を追認したものとみなされます(民法20条1項)。
取り消したものとみなされるのではなく,追認したものとみなされるので,注意が必要です。
具体的にいうと,未成年者が成年者になった場合,その成年者に1カ月以上の期間を定めて催告をし,確答がなければ追認したものと扱われます。
また,成年被後見人・被保佐人・被補助人が行為能力者になった場合に,これらの行為能力者に1カ月以上の期間を定めて催告をし,確答がなければ追認したものと扱われます。
②制限行為能力者の相手方が,制限行為能力者が行為能力者とならない間に,その法定代理人,保佐人または補助人に対し,その権限内の行為について,1カ月以上の期間を定めて催告をした場合において,これらの者が,その期間内に確答を発しないときも,追認したものとみなされます(20条2項)。
この場合も,追認したものとみなされるのであり,取り消したものとみなされるのではないので,注意が必要です。
簡単にいうと,制限行為能力者の保護者に対し,1カ月以上の期間を定めて催告し,その期間内に確答がなければ,追認したものとみなされます。
③特別の方式を要する行為については,1カ月以上の熟慮期間内に,その方式を具備した旨の通知を発しないときは,その行為を取り消したものとみなされます。
この場合は,追認したものとみなされるのではなく,取り消したものとみなされるので,注意が必要です。
たとえば,後見人に後見監督人がいる場合,後見監督人の同意が必要なのに,後見監督人の同意を得た通知を発しない場合です(20条3項)。
④制限行為能力者の相手方は,被保佐人または被補助人に対しては,1カ月以上の期間内にその保佐人または補助人の追認を得るべき旨の催告をすることができます。
この場合において,その被保佐人または被補助人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときは,その行為を取り消したものとみなされます(20条4項)。
この場合は,追認したものとみなされるのではなく,取り消したものとみなされるので,注意が必要です。
なお,未成年者または成年被後見人に対し,1カ月以上の期間内にその法定代理人または成年後見人の追認を得るべき旨の催告をすることができるという制度は設けられていません。
このような催告をしても,その未成年者または成年被後見人がその期間内にその追認を得た旨の通知を発しないときでも,何の効果も発生しません。
なぜかというと,そもそも未成年者または成年被後見人には意思表示の受領能力が認められていないからです(98条の2)。
Cが,Bに対し,1月以上の期間を定めて追認するか否かを確答すべき旨を催告した場合。(41字)
問題3
Aは甲土地の所有者である。Aは,Bにだまされて,自己所有の甲土地をBに売却した。
その後Bは,詐欺の事情を知らないCに売却し,さらにCは事情を知っているDに売却したが,Dは移転登記を取得していない。
この場合,判例の見解によれば,Aは,詐欺を理由に契約を取り消し,Dから甲土地を取り返すことができるか? 40字程度で理由を示しながら記述しなさい。
解説
本問は,意思表示からの出題です。意思表示は出題の宝庫であり,判例の見解も十分勉強することが必要です。
詐欺または強迫による意思表示は取り消すことができます。そして,詐欺による意思表示の取消しは,善意の第三者に対抗することができません(民法96条3項)。
反対に,詐欺による意思表示の取消しは,悪意の第三者に対抗することができます。
他方,強迫による意思表示の取消しは,善意の第三者にも悪意の第三者にも対抗することができます(96条3項反対解釈)。

以上の結論は,Cに登記があるか否かは関係ありません。
また,Cに過失があるか否かも関係がありません。
たとえば,BがAを詐欺したことにより,AがBに土地を売却し,Bが善意のCに転売した場合(図1),Cに登記があろうがなかろうが,善意でさえあれば,保護されます。
この場合,Cに過失があっても,善意でさえあれば保護されます(判例)。
また,BがAを強迫したことにより,AがBに土地を売却し,Bが善意のCに転売した場合(図2),Cに登記があろうがなかろうが,保護されません。Cは善意かつ無過失で登記を備えていても保護されません。
①詐欺による取消しは、善意の第三者に対抗できない。悪意の第三者には対抗できる。
②強迫による取消しは、第三者が善意であろうと悪意であろうと対抗できる。
この違いはどこから来るかを,理屈で覚えましょう。
詐欺された者には,若干ながら,落ち度があると考えます。
したがって,そのような落ち度のある詐欺された者は,事情を知らない善意の第三者に取消しを対抗することができないとしました。
他方,強迫されたことにより意思表示をした者には,まったく落ち度がありません。
そのため,善意の第三者にも取消しを対抗することができるとしたのです。

さらに問題となるのは,図3にあるように,第三者Cから,さらに譲り受けた者がいる場合です。
考え方としては,2つあります。
CもDもAから見て第三者といいます。Dのことを第四者とはいいません。
第三者とは,自分と取引をしている相手以外の者をいいます。
図3で説明すると,AにとってBは取引相手です。Aは,Cとは取引をしていませんから,Aから見てCは第三者です。また,AはDと取引をしていませんから,DもAから見て第三者です。
そこで,民法の条文は,詐欺による取消しは善意の第三者には対抗できないと定めていますから,悪意の第三者には対抗できるということになります。
これを単純に,図3に当てはめると,Aは,詐欺による取消しを悪意の第三者Dに対抗できるという結論になります(これを相対的構成といいます)。
しかし,判例・通説は,この見解を採用しません。
すなわち,いったん善意の第三者(C)が出現すると,その後の譲受人が悪意でも保護されるとしたのです(これを絶対的構成といいます)。判例・通説は,絶対的構成を支持しています。
善意の第三者が出現すれば,その後の譲受人は悪意でも保護されるので,Aは,取り返せない。(43字)

