行政事件訴訟法第22回 「取消訴訟」 福田隆光
新事件屋行政書士
(行政書士) 福田隆光
○はじめに
今回も,行政事件訴訟法における取消訴訟について整理します。
○事 件
またまた八五郎があわてて熊五郎の家にやってきました。
八:オイッ,てぇーへんなことになっちまったぜ。熊公いるかい。
熊:ここはオイラの家だ。いるのは,あたりめぇーだ。また女房に追い出されちまったのか?
八:そんなんじゃねー。実はよー,お上から営業停止処分ってぇーのをくらっちまってよ,当分仕事ができなくなっちまったのさ。このままじゃ,一家心中でもするしかねぇーぜ。
熊:こらまた深刻な問題だな。ところで,オメェー,何かやらかしたのかい?
八:それがよー,まったく身に覚えがねぇーんだ。オメェーも知ってのとおり,オラッ,真面目だけが取り柄だからよ。お上のなんかのまちげぇーじゃねぇーかと思うんだがな。それでご隠居に相談したら,お上のまちげぇーなら,取消訴訟ってぇーのをやりゃ,営業停止を取り消してもらえるんだそうだ。
熊:じゃー早速,その取消訴訟ってぇーのをやったらどうなんだい。今日オイラは非番だから,ついていってやるぜ。
八:そうなんだけんどよ,1つだけ気になることがあってな。
熊:なんだい,そりゃー?
八:取消訴訟をやってもよー,裁判だからすぐには結論は出ねぇーよな。そうすると,仮に取消しが認められるとしても,結論が出るまでは営業停止は生きてるわけだから,それまでは仕事ができねぇーってことにならねぇーか。
それじゃ,それまでどうやって食えばいいんだい。裁判をやってる間も,営業停止を止めてもらうわけにはいかねぇーのかな。
熊:オメェーの言うことも一理あるな。いずれにしろ,オイラには難しいことは分からねぇーから,すぐご隠居のところへ行くかい。
八:そうだな。
2人は,ご隠居のもとに飛んでいきました。
○本試験での出題形式
設問
平成16年の行政事件訴訟法改正に関する次の記述は,正しいか否か。
選択肢
従来,きわめて厳格であった「回復の困難な損害があるとき」という執行停止の要件が,「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」とされ,改正前に比べ緩和された。
○解 説
1 争点は何か?
取消訴訟を提起した場合に,訴訟の対象となっている処分の効力は停止するのか,というのが今回の争点です。
2 執行不停止の原則
取消訴訟を提起した側からすると,一刻も早く処分の効力を止めたいわけですから,取消訴訟の提起と同時に,問題となっている処分の効力が停止するのがよいということになります。
しかし,処分の取消訴訟が提起されても,訴訟の対象となっている処分の効力・処分の執行,または手続の続行の全部もしくは一部を停止することはありません(行政事件訴訟法25条)。これを執行不停止の原則といいます。
取消しが認められるかどうかは裁判をやってみなければ分からないのに,取消訴訟の提起があると対象となっている処分の効力が停止するということになると,簡単に処分の効力を止められることになり,行政の円滑な遂行に支障が生じてしまうからです。
ただし,処分によって生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がある場合は,裁判所は,申立てに基づいて,決定をもって執行停止をすることができます。そして重大な損害を生ずるか否かを判断するにあたっては,裁判所は損害の回復の程度を考慮するものとし,損害の性質および程度並びに処分の内容および性質をも勘案するものとされています。
3 取消訴訟の基礎
次に,前回に引き続き,取消訴訟の基本的事項について整理しておきましょう。
(1) 職権証拠調べ(24条)
裁判所は必要があると認めるときは,職権で証拠調べをすることができます。ただ証拠調べの結果については,当事者の意見を聴かなければなりません。
(2) 釈明処分(23条の2)
裁判所は,訴訟関係を明瞭にするため,必要があると認めるときは,①処分または裁決の理由を明らかにする資料の提出を求めること,②審査請求における事件の記録の提出を求めること,ができます。これを釈明処分といいます。
(3) 違法判断の基準時
判例は,処分をした時点(処分時)を基準としてその違法性の判断をすべきとしています。
(4) 判決の種類
訴え却下の判決 訴えが法律上の要件を欠き,不適法であるとして,
本案の審理に入らずに門前払いをする。
請求棄却の判決 本案審理をした結果,請求に理由がないとして,その主張をしりぞける。
請求認容の判決 本案審理をした結果,請求に理由があるとして,
処分・裁決の全部または一部を取り消す。
事情判決 審理の結果,処分または裁決が違法であると判明した場合でも,裁判所は一切の事情を考慮したうえで,その処分または裁決を取り消すことが公共の利益に著しい障害を生ずると判断したときは請求棄却の判決を出すことができる。
◆事情判決の場合でも,判決主文で処分または裁決が違法であるときは宣言しなければならない。
(5) 判決の効力
請求認容判決が確定すると,次のような効力が発生します。
既判力 判決を受けた当事者と判決をした裁判所は,同一事項について,
確定判決の内容と矛盾する主張・判断をすることができなくなる。
形成力 判決によって,処分または裁決の効力はさかのぼって消滅し,
最初からなかったことになる。
拘束力 当事者だった行政庁および関係行政庁は,判決の趣旨に反する
処分・裁決をすることができなくなる。
○事件の結論
以上により,八五郎が営業停止処分の取消しを求める訴訟を提起したとしても,原則として営業停止処分の効力は停止しません。
ただし,「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」は例外的に執行を停止できますので,本試験の肢は正しいことになります。

