国家試験記述式対策 民法 氷見敏明
(住宅新報社専任講師)
氷見敏明
問題1
Aは,土地を購入する代理権限をBに授与した。Cは,代理人Bに,「自分の土地は,まだ,世間には公表されていないが,工業団地の敷地になる予定で値段が確実に上がるから,少し高めに購入してほしい」とだました。
それを信じたBは,AのためにCと売買契約を締結した。
この場合,Aは,Cから直接,詐欺されたわけではなく,詐欺の事情をまったく知らないのに,取り消すことができる。その理由を40字程度で記述しなさい。
解説
代理において相手方に意思表示をするのは,代理人です。
民法99条1項によれば,「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は,本人に対して直接にその効力を生ずる」と規定しているところからも,うかがい知ることができます。
そこで,代理において,実際に意思表示をするのは代理人ですから,代理行為に瑕疵があるか否かは,代理人について判断するのが原則となります。
以上の考え方を民法101条1項に「意思表示の効力が意思の不存在,詐欺,強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は,代理人について決するものとする」と定めました。
具体的に言うと,代理人Bが,相手方Cから詐欺または強迫されて本人Aの土地をCに売却した場合に,本人Aは,取り消すことができます。

ただし,代理人が,特定の法律行為をすることを委託された場合において,代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは,本人は,自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができません。
また,本人が過失によって知らなかった事情についても,同様に扱われます(民法101条2項)。
たとえば,Aが,Cの建物を購入する代理権をBに授与し,BがCから建物を購入したとしましょう。
ところが,この建物に隠れた瑕疵があり,Bはその瑕疵の存在を知らず,知らないことに過失がなければ,Aは,Cに対し瑕疵担保責任を追及することができます。
しかし,本人Aが,その瑕疵を知っていた場合には,Bが善意無過失でも,瑕疵担保責任を追及することはできません。
解答例
意思表示をするのは代理人なので,代理行為の瑕疵は代理人について判断するからである。(41字)
問題2
平成元年,Bは,Aからその所有する土地を賃借し,引渡しを受けたが,その賃貸借契約は,錯誤により無効であった。
Bは,それを知らずに賃料を支払いながら,平穏かつ公然に,善意無過失で土地の使用を継続していた。その後,平成12年に,Aは,当該土地をCに売却したが,まだ移転登記をしていない。Bは,Cに対抗して土地の使用を継続する方法があるか。40字程度で記述しなさい。
解説
(1) 時効の意義
時効とは,一定の事実状態が永続する場合,それが真実の権利関係と異なっていても,その事実状態をそのまま尊重し,権利関係として認めようとする制度のことです。
長い間継続した,真実に反する事実であっても,そのうえにさらに法律関係が出来上がっていくので,後からそれらを真実に合わせて覆すのは,法的安定性を害し,社会に混乱をもたらすことになるからです。
そして,時効によって,真実の権利者が権利を失うことになったとしても,長期間放置していたのだから仕方がないと割り切ることにしたのです。
(2) 時効の種類
時効には,2つのタイプがあります。権利を取得するタイプの取得時効と権利が消滅してしまうタイプの消滅時効です。
20年間,所有の意思をもって,平穏,かつ,公然に他人の物を占有した者は,その占有の開始の時に,悪意または善意有過失であれば,その所有権を取得します(民法162条1項)。
10年間,所有の意思をもって,平穏,かつ,公然に他人の物を占有した者は,その占有の開始の時に,善意無過失であったときは,その所有権を取得します(162条2項)。
①占有開始時に悪意または善意有過失⇒20年
②占有開始時に善意無過失⇒10年の占有
ところで,時効によって取得できる権利は,所有権だけではありません。
所有権以外の財産権を,自己のためにする意思をもって,平穏に,かつ,公然と行使する者は,悪意または善意有過失の場合は20年,善意無過失の場合は10年経過した後,その権利を取得します(163条)。
所有権以外の財産権には,地上権や地役権などがありますが,問題となるのは,不動産賃借権も時効によって取得できるか否かです。
これにつき,不動産賃借権は,占有を伴い,取得時効の前提となる長期間の占有継続が行われます。また,不動産賃借権は債権とはいっても物権化しており,地上権とほとんど変わらないといえますので,不動産賃借権も時効により取得できると解釈されています。
判例は,①土地の継続的な用益という外形的事実の存在と,②賃料の支払など賃借の意思が客観的に表現されていれば,不動産賃借権を取得できると判断しています。判例の2つの要件は必ず覚えてください。
問題2のBは,賃貸借契約が,錯誤により無効であるのに,それを知らずに賃料を支払いながら,平穏かつ公然に,善意無過失で土地の使用を継続しているので,平成11年に時効により不動産賃借権を取得したと考えることができます。
(3) 時効と登記

時効によって権利を取得したBは,真実の所有者Aから,その不動産を取得したCがいる場合に,登記なくしてCに権利を対抗できるか否かが問題となります。
判例によれば,真実の所有者が,時効完成前に目的物を譲渡していた場合は,時効取得者は,登記なくして権利を対抗できます(※1の場合)。
しかし,時効完成後に真実の所有者から譲り受けた者に対しては,時効取得者は,登記がないと権利を対抗することができません(※2の場合)。
【時効取得者に登記が必要か?】
①時効取得者と時効完成前の譲受人
⇒登記不要
②時効取得者と時効完成後の譲受人
⇒登記必要
問題2のCは,時効完成後に譲り受けた者に該当しますので,不動産賃借権の時効取得者Bは,Cが移転登記を受ける前に登記をしないと自己の不動産賃借権を対抗することができません。
解答例
Bは,不動産賃借権を時効により取得したことを主張し,Cより先に登記すればよい。(39字)
問題3
Aは,Bにだまされて,自己所有の甲土地をBに売却し移転登記したが,直ぐに,だまされたことに気づいて売買契約を取り消した。
Aが,売買契約を取り消した直後に,Bは,詐欺の事実につき善意無過失のCに甲土地を売却した。
Aが甲土地をCから取り戻すには,どのような行為をすればよいか。40字程度で記述しなさい。
解説
(1) 取消し前の第三者
甲は,乙からだまされて自己所有の土地を乙に売却し,さらに乙は丙に売却したとしましょう。
その後,甲が売買契約を取り消した場合には,丙が善意であれば,甲は,取消しを対抗できません(図1)。

丙は,取消し前に現れた第三者であり,登記の有無,過失の有無を問わず,善意であれば保護されます。反対に丙が悪意であれば,取消しを丙に対抗できます。
(2) 取消し後の第三者

Ⅹが,自己所有の土地をYに売却した後に,もっと高い値段で買ってくれるというZが現れたので,Ⅹは,同じ土地をZにも売却しました。
この場合,Ⅹは,同じ土地の二重譲渡をしたことになりますが,YまたはZのうち,早く登記を受けた者が勝ちます。たとえば,Zが悪意でも,Yより早く登記をすれば勝ちます。
Zが早く登記すれば,Yの立場はどうなるでしょうか?
この場合,Ⅹは,故意にYに対して債務不履行(契約違反)をしたことになります。Ⅹの行為は,債務不履行の1つである履行不能に該当します。
債務不履行された被害者は,契約を解除し,損害賠償請求をすることができます。
そもそも,Ⅹが,自己所有の土地をYに売却すれば,土地の所有権がⅩからYに移転し,Ⅹは無権利者になるはずです。
無権利者になったⅩが,Zに売却しても,Zは権利を取得することはできないはずです。すなわち,二重譲渡はできないはずではないかとの疑問があります。
これをどう説明するかについては,いろいろな考え方がありますが,不完全物権変動説という考え方を少し勉強しましょう。
売買契約をしただけで所有権が移転します。
したがって,ⅩがYに土地を売却すれば,所有権はⅩからYに移転しますが,登記を移していないときは,所有権が不完全にのみ移転しますが(たとえば,30%くらいしか所有権が移転しない),登記を移転すると所有権は100%移転すると考えます。
これを不完全物権変動説といいます。
ⅩがYに売却すると所有権が移転しますが,登記をYに移していないときは,不完全ながら所有権がⅩに残っています。
ですから,Ⅹは,Zにも売却することができ,Zが登記を取得することにより100%の所有権を取得すると,他のⅩとYは所有権を失います。

次に,Bは,Aをだまし,だまされたAが自己所有の土地をBに売却し,移転登記したとしましょう。この時点で,所有権は,AからBに100%完全に移転したと考えることができます。
その後,Aは,だまされたことに気づき,AB間の契約を取り消せば,所有権は,BからAに戻ってきます。これを復帰的物権変動といいます。
Aが取り消すことによって,所有権がBからAに復帰することになりますが,登記をAに戻していない場合には,不完全にしか所有権が戻ってこないと考えます。
したがってBには,不完全ながら所有権が残っていると考えられるので,Cにも売却することが可能となります。
結局,Bを中心にして,Bが土地をAとCに二重譲渡しているのと同じように考えることができ,どちらか早く登記したほうが勝ちます(図2)。
二重譲渡と同じように考えるので,Cは悪意でも早く登記すれば勝つことになります。
問題3は,Cは,取消し後に現れた第三者ですから,Aは,Cよりも早く登記しないと自己の所有権を対抗することができません。
(3) 解除と登記(関連論点)
ついでに,関連論点である解除と登記の問題も補足しておきます。

Aは,Bに土地を売却し,BはさらにCに売却し移転登記しました。
ところが,BはAに代金を支払わないので,債務不履行を理由にAは売買契約を解除しました。この場合,AはCに対し,解除による無効を対抗することができません。
解除における第三者Cに登記があれば,保護されます。Cは債務不履行により解除されるということを知っていても(悪意),Aは,解除による無効を対抗することができません。
解除における第三者は,登記さえあれば保護されます。善意・悪意を問いません。
解答例
Cが登記を取得する前に,Aが登記を得れば,Aは,Cに所有権を対抗することができる。(41字)

