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抗告訴訟「義務付け訴訟,差止訴訟」 福田隆光

事件屋行政書士行政法 第23回

(行政書士) 福田隆光


 はじめに
 前回は,抗告訴訟のうち取消訴訟を中心に整理しました。
 今回は,抗告訴訟のうちの義務付け訴訟,差止訴訟の概要について整理します。


 事 件
 気管支喘息を患い,また,いじめで心身症が悪化するなどして不登校状態になっている大阪市在住の小学校2年生の男子児童A(小1からほとんど地域の小学校に通えていない)は,大阪市教育委員会に対し,自分を病弱者が対象の大阪市立K養護学校へ転入させるよう求めました。

 この求めに対し,大阪市教育委員会は,大阪市立の特別支援学校(盲,聾,養護学校)への学校指定を行う権限と責務を持っていないとして,AをK養護学校へ転入させませんでした。

 そこでA側は,大阪市教育委員会が一定の処分(学校指定)をしないことにより,Aに重大な損害を生ずるおそれがあるとして,大阪市教育委員会に対してその処分等をすべき旨を命ずることを求める義務付け訴訟を提起しました。また同時に,仮の義務付け申立ても行いました。


 本試験での出題形式


設問
 平成16年の行政事件訴訟法改正に関する次の記述は,正しいか否か。


選択肢

 従来,無名抗告訴訟の一種として位置付けられたきた義務付け訴訟や差止訴訟が,改正後は法的抗告訴訟とされたのに伴い,仮の義務付け及び仮の差止めの制度が設けられた。

 解 説

1 争点は何か?

 この事件の一番の争点は,大阪市教育委員会に編入先として養護学校を指定する権限があるかということです。
 もう一点は,Aが義務付け訴訟の要件を満たしているかどうかです。


2 義務付け訴訟
 まず,義務付け訴訟とはどういうものかについて整理しておきましょう。

(1) 義務付け訴訟の種類
 義務付け訴訟とは,平成16年の改正により法定されたもので,行政庁が一定の処分をすべきことを命じることを求める訴えをいいます。次の2つのパターンがあります。
 

 ①申請権を前提とせず,行政庁が一定の処分をすべきことの義務付けを求める。

 ②行政庁に対して申請した者が原告となって,行政庁が一定の処分または裁決をすべきことの義務付けを求める。


(2) 義務付けの訴訟の要件

 上記①の義務付け訴訟は,一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り,提起できます(行政事件訴訟法37条の2第1項)。

 上記②の義務付け訴訟は,次の場合に限り提起できます(37条の3第1項)。

ⅰ)法令に基づく申請または審査請求に対し相当の期間内に何らの処分または裁決がされない場合

ⅱ)法令に基づく申請または審査請求を却下しまたは棄却する旨の処分または裁決がされた場合において,当該処分または裁決が取り消されるべきものであり,または無効もしくは不存在である場合


3 差止訴訟
 今回の事件とは直接に関係はありませんが,平成16年の改正により,義務付け訴訟とともに法定されたのが差止訴訟です。
 差止訴訟とは,行政庁が一定の処分または裁決をすることを事前に差し止める訴えをいいます(3条7項)。


 差止訴訟は,一定の処分または裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り,提起することができます(37条の4第1項本文)。
 ただし,その損害を避けるため他に適当な方法があるときは提起できません(37条の4第1項但書)。


4 仮の義務付け・仮の差止め
 義務付け訴訟・差止訴訟については,仮の義務付け・仮の差止めが新たに認められました(37条の5)。
 すなわち,義務付けの訴えの提起があった場合において,その義務付けの訴えに係る処分または裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり,かつ,本案について理由があるとみえるときは,裁判所は,申立てにより,決定をもって,仮に行政庁がその処分または裁決をすべき旨を命ずることができます。


 また,差止めの訴えの提起があった場合において,その差止めの訴えに係る処分または裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり,かつ,本案について理由があるとみえるときは,裁判所は申立てにより,決定をもって,仮に行政庁がその処分または裁決をしてはならない旨を命ずることができます。


 事件の結論

 以上のように,義務付け訴訟そして仮の義務付けという制度が平成16年の改正により認められたために,本事件は提訴されたわけです。

 Aは,気管支喘息を患い,また,いじめで心身症が悪化するなどして不登校状態に陥り,小1からほとんど地域の小学校に通えていないという状態にあるわけですから,養護学校への編入という処分がされないことにより,事実上学校教育を受けられないという重大な損害を生ずるおそれがあり,かつ,その損害を避けるため他に適当な方法がないといえるでしょう。

 したがって,Aは義務付け訴訟の要件を満たしていることになります。


 問題は大阪市教育委員会が挙げている,学校教育法施行令は,市町村教育委員会はその設置する小中学校への学校指定を行わなければならない,都道府県教育委員会はその設置する特別支援学校への学校指定を行わなければならないと規定しているが,

 政令市(市町村)が特別支援学校(盲,聾,養護学校)への学校指定を行うことを規定した条文がないという理由は妥当かです。

 この点につき,大阪地方裁判所は,同種の事件において「視覚障害者等を就学させるべき特別支援学校を設置している市町村においては,その設置する小学校又は中学校に就学予定者を就学させる場合に準じ,当該市町村の教育委員会において,当該視覚障害者等を就学させるべき特別支援学校の指定及びその保護者に対する入学期日の通知を行うことが,同令上予定されていると解するのが相当である」

 また「男児は病弱者で,このままでは不登校の状態が続き,健全な発達が阻害される」(大阪地決平19・8・10)として,転入を認めるよう大阪市に仮に義務付ける決定を行いました。


 以上により本試験の肢も正しいといえます。