「行政書士」 記述式徹底攻略行政法その1 氷見敏明
不動産受験新報 2008年 夏号
問題1
法治行政の原則は,「法律による行政の原理」を要請し,この原理が法治国家成立の必須条件ともいわれる。「法律による行政の原理」とは何かを40字程度で記述しなさい。
解説
奈緒:綾香先輩,法治国家って何ですか?
綾香:法治国家とは,国家の活動が,すべて法律に基づいて行われている国家のことよ。
奈緒:ということは,国家におけるすべての決定,判断は,国民代表議会(国会)が定めた法律に基づいて行うということですね。
綾香:そうよ。どんな場合でも,法律にやってよいと書いてあることしかできない国家よ。こういう法治国家を理想とする考え方を法治主義というのね。
奈緒:それじゃ,刑法も法律だけど,刑法235条によれば,泥棒をした者は10年以下の懲役に処すると書いてあるけど,泥棒をした者に,国家が死刑にするとか,二度とさせないために鞭で100回叩いてから刑務所に入れるということはできないんですね。
綾香:そうよ。法律に書いてあることしかできないのよ。特に刑法では,「法律なければ犯罪なし,法律なければ刑罰なし」といって,これを何ていうか知ってるよね?
奈緒:罪刑法定主義といいます。
綾香:そのとおりよ。
奈緒:それじゃ,不倫をしても,刑法には犯罪とするとは書いてないから罰することはできないんですね。
綾香:なんていう例を出すの。でも,そのとおりよ。法治主義は,どういう歴史的背景から唱えられたか分かりやすく説明して。
奈緒:えっと,昔ヨーロッパでは,絶対君主制(専制君主制)の時代がありました。
綾香:16世紀のスペイン,イングランド,17世紀のフランス等が絶対君主制だったわね。
奈緒:はい,そうです。絶対君主制とは,国家を支配している君主(王様)の権力が,憲法や法律によって制限されていない政治形態のことです。
このような君主は,市民の同意がなくても,勝手に税金を課したり,人を逮捕したりなど自由を奪い,人権を侵害していたんです。
綾香:そうね。そこで,市民が立ち上がり,行政の担い手である君主の権力を国民代表議会の制定する法律で拘束することで,市民の自由を守り,国家権力の行使による不当な干渉や侵害を排除しようとしたのね。
奈緒:もう一度まとめていうと,法治主義とは,司法・行政などの国家作用は,市民が参加している国民代表議会により制定された法律に基づいて行われるべきである,とする原理です。
綾香:罪刑法定主義や租税法律主義なども,この原理から派生したものなのね。
そして,行政権の行使を法の拘束の下に置き,行政権の行使の濫用を防止する原則を「法治行政の原則」といいます。
そして,法治行政の原則は,法律による行政の原理を要請するのよ。
奈緒:なるほど。租税法律主義とは,どんな人でも法律の根拠がなければ,租税を課され,徴収されることはないという制度ですよね。
たとえば,現在の憲法でも「あらたに租税を課し,又は現行の租税を変更するには,法律又は法律の定める条件によることを必要とする(84条)」と定めています。
綾香:特に法治主義は,国家権力の作用を担当する行政においては,「法律による行政の原理」となるのね。
奈緒:すなわち,「法律による行政の原理」とは,行政権の行使は,国民代表議会の制定した法律によらなければならないという原理といえるわけですね。ところで,行政って何だろう。
綾香:それを勉強する前に,ジョン・ロックやモンテスキューによって発展した権力分立主義ってあるけど,これについて日本国憲法ではどうなっているか,簡単にいってみて。
奈緒:国家の作用(国家の活動)を立法,司法,行政に分けて,それぞれ国会,裁判所,内閣に帰属させています。
日本国憲法の具体的な条文でいうと「国会は,国権の最高機関であつて,国の唯一の立法機関である(41条)」「行政権は,内閣に属する(65条)」「すべて司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する(76条1項)」となっています。
綾香:そのとおりよ。立法とは法律を作ることで,司法とは具体的な事件に対し,法を適用して紛争を解決することね。行政っていうとどういうものがあるかしらね?
奈緒:たとえば,ごみの収集,税金の徴収,出生届・婚姻届・離婚届・死亡届を受け取る,義務教育を実施する,自動車免許を与える,都市計画を策定する,災害対策,警察や消防などの活動は行政の典型的な例ですよね。
あまりにもいっぱいあるので,統一的に行政とは何かという定義をするのは難しいんじゃないですか? 行政とは内閣(行政府)が行う活動であるという定義もあるんですか?
綾香:あるわよ。それを形式意味での行政というの。でも,ほとんど内容のない定義よね。そこで,実質的な意味の行政とは何か,が求められるのね。
奈緒:行政権が執行すべき活動には,警察,教育,社会保障,社会福祉,公務員の人事などがあり多種多様なので,1つの定義にまとめるのは困難なように思います。
綾香:そのとおりなのよ。定義が難しいけど積極的な定義づけをしようという積極説もあるけど,実質的な意味の行政について正面から定義づけることを断念する消極説が支配的なの。消極説は,立法および司法を定義したあとに,国家のすべての作用から立法と司法を除けば,実質的な意味の行政が残ると考えるので,控除説ともいうのよ。
奈緒:これでは,行政の具体的な内容や特性が明らかにされていませんよね。
綾香:確かにね。とはいうものの,歴史的には,当初君主が国家権力をすべて掌握していたけど,その後,市民階級が力をつけ,彼らの代表が議会を作り,君主から立法権を奪い,司法権を奪っていったという事実に合致する。また,控除説のほうが,幅広い行政を統一的に捉えやすいという大きな利点があるのよ。
奈緒:行政は,権力的な手段を行使することがあるし,非権力的な手段を行使することもあります。また,規制をすることもあるし,給付をすることもあるというように幅が広いですものね。
解答例
行政権の行使は,国民代表議会の制定した法律によらなければならないという原理。
(38字)
類似問題
行政の定義に関し,行政の範囲には,警察,教育,社会保障,社会福祉,公務員の人事などがあり多種多様なので,実質的に1つの定義にまとめるのは困難であるとの批判が消極説からなされている。
この消極説を別の名称で何説と呼び,また,その内容を40字程度で記述しなさい。
解答例
控除説という。控除説によれば,国家作用から立法と司法作用を除いたものを行政という。(41字)

