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「行政書士」 記述式徹底攻略 民法その5 氷見敏明

行政書士
5か月短期攻略法
記述式徹底攻略民法
住宅新報社専任講師 氷見敏明


問題5

 Aは,Bに強迫されて,自己所有の甲建物をBに売却し移転登記した。その直後に,強迫を免れたAが,当該売買契約を取り消した。


Aが,売買契約を取り消した直後に,Bは,強迫の事実につき善意有過失のCに甲建物を売却した。Cが甲建物を完全に取得するには,どのような行為をすればよいかを40字程度で記述しなさい。

解説
(1) 取消し前の第三者(丙)

翔子:意思表示の復習をしてみようか。図3にあるように,甲は,乙から強迫されて自己所有の建物を乙に売却し,さらに乙は丙に売却したとしましょう。


この場合,甲は契約を取り消して,丙から建物の返還を請求することができる?

奈々:できるわ。

翔子:たとえ,丙が善意無過失で登記があっても,甲は契約を取り消して,建物を取り戻すことができる?

【図3】

  ①強迫       善意無過失
甲         乙        丙

   ②売却       ③売却
④取消しを対抗できる

奈々:できるわよ。丙が善意無過失でも,善意有過失でも,悪意でも,さらに登記のあるなしに関係なく,甲は売買契約を取り消して,建物の返還を求めることができるわ。


翔子:大正解。そのとおりよ。丙は,取消し前に現れた第三者であり,登記の有無,善意悪意を問わず,過失の有無を問わず,甲は売買契約を取り消して,取り戻すことができるのよ。ところが,取消し後に現れた第三者に関しては事情が異なってくるから注意が必要ね。

(2) 取消し後の第三者

翔子:その前に,建物の二重譲渡の復習をしておこうか。

奈々:図4にあるように,Ⅹが,自己所有の建物をYに売却した後に,もっと高い値段で買ってくれるというZが現れたので,Ⅹは,同じ建物をZにも売却したという事例で説明してね。


【図4】
   ①売却   ②売却
Y     Ⅹ      Z善意
              登記
 ※YまたはZは,早く登記すれば勝つ


翔子:この場合,Ⅹは,同じ建物の二重譲渡をしたことになるから,YまたはZのうち,早く登記を受けた者が勝つことになる。

奈々:たとえば,Zが悪意でも,Yより早く登記をすれば勝つんだったよね?

翔子:そのとおりよ。たとえ悪意でも,早く登記すれば勝つのよ。

奈々:Zが早く登記すれば,Zの所有物になってしまうよね。それじゃ,Yの立場はどうなるの?

翔子:この場合,Ⅹは,故意でYに対して債務不履行(契約違反)をしたことになるわよね。

奈々:そうか。Ⅹの行為は,債務不履行の1つである履行不能に該当するわね。わざと売買契約上の債務の履行を不可能にしたんだものね。そうすると,債務不履行された被害者は,契約を解除し,損害賠償請求をすることができるわね。

翔子:ちょっと難しい話をするね。そもそも,Ⅹが,自己所有の土地をYに売却すれば,土地の所有権がⅩからYに移転し,Ⅹは無権利者になるはずだよね。

奈々:そうだよね。前から変だなと思っていたの。ⅩがYに売却すれば,Ⅹは無権利者になり,Ⅹが,Zに売却しても,Zは権利を取得することはできないはずよね。そもそも,二重譲渡はできないはずではないかとの疑問があるのよね。


翔子:これをどう説明するかについては,いろいろな考え方があるのよ。そこで,不完全物権変動説という考え方を少し勉強しましょう。売買契約をしただけで所有権が移転するということになっているよね。

したがって,ⅩがYに建物を売却すれば,所有権はⅩからYに移転するけど,登記を移していないときは,所有権が不完全にのみ移転すると考えるの(たとえば,50%くらいしか所有権が移転しない)。

そして,登記を移転すると所有権は100%移転すると考えるの。

これを不完全物権変動説というのね。

  ⅩがYに売却すると所有権が移転するけど,登記をYに移していないときは,不完全ながら所有権がⅩに残っている。だから,Ⅹは,Zにも売却することができ,Zが登記を取得することにより100%の所有権を取得すると,他のⅩとYは所有権を失うと考えるのよ。


奈々:それじゃ,次はいよいよ応用問題ね。

翔子:そうよ。図5を見て。

【図5】
   ①強迫   登記
A        B         C
   ②売却       ④売却   善意

   ③取消し


 Bは,Aを強迫し,強迫されたAが自己所有の建物をBに売却し,移転登記したとしましょう。この時点で,所有権は,AからBに100%完全に移転したと考えることができるわね。


その後,Aは,強迫をまぬがれ,AB間の契約を取り消せば,所有権は,BからAに戻ってくるよね。これを復帰的物権変動というのよ。


 Aが取り消すことによって,所有権がBからAに復帰することになるけど,登記をAに戻していない場合には,不完全にしかAに所有権が戻ってこないと考えます。


したがってBには,不完全ながら所有権が残っていると考えられるので,Cにも売却することが可能となるわね。

奈々:結局,Bを中心にして,Bが建物をAとCに二重譲渡しているのと同じように考えることができ,どちらか早く登記したほうが勝つことになる。二重譲渡と同じように考えるので,Cは悪意でも早く登記すれば勝つことになるわね。

 問題5の事例は,Cは,取消し後に現れた第三者だから,Cは,Aよりも早く登記しないと自己の所有権を対抗することができなくなるわね。

翔子:そのとおり。まったく正しいわよ。完璧な理解ね。


(3) 解除と登記(関連論点)

翔子:ついでに,関連論点である解除と登記の問題も補足しておくわね。図6を見てね。

【図6】

   ①売買     ②売買
A      B        C登記 

 ③債務不履行を理由に解除

  Aは,Bに土地を売却し,Bは,さらにCに売却し移転登記した。ところが,BはAに代金を支払わないので,債務不履行を理由にAは売買契約を解除した。

この場合,Aは,Cに対し解除による無効を対抗することができない。


奈々:そのとおりよね。解除における第三者Cに登記があれば,保護されるものね。Cは債務不履行により解除されるということを知っていても(悪意),Aは,解除による無効を対抗することができない。


翔子:解除前に現れた第三者は,登記さえあれば保護される。善意・悪意を問いません。


 次は,解除後に現れた第三者と解除の問題ね。
【図7】
   
     ①売買        ③売買
A          B               C

  ②債務不履行を理由に解除

奈々:図7にあるように,Aは,Bに土地を売却し,移転登記した。その後,Bが代金をAに払わないので,AはAB間の売買契約を解除したとしましょう。その後,Bは,同じ土地をCに売却してしまった。


翔子:はい。この場合は,Bを起点として,BがAとCに二重譲渡したと同じように考えればいいのね。そうすると,AまたはCのどちらかが,早く登記したほうが勝つということになるわね。

解答例

 Aが登記を取得する前に,Cが登記を得れば,Cは,Aに所有権を対抗することができる。(41字)


類似問題

 Aは,Bにだまされて,自己所有の甲土地をBに売却し移転登記した。その直後,Aは詐欺の事実に気づいて売買契約を取り消した。


Aが,売買契約を取り消した直後に,Bは,詐欺の事実につき善意無過失のCに甲土地を売却した。Aが甲土地をCから取り戻すには,どのような行為をすればよいかを40字程度で記述しなさい。



解答例
 Cが登記を取得する前に,Aが登記を取得すれば,Aは,Cに所有権を対抗することができる。(43字)