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民法1章 民法ってどんな法律?

1 民法ってどんな法律?
 「民法ってどんな法律?」ということが本当にわかるのは、民法全体をひととおり勉強した後です。「それなら、こんな話は後回しにしてくれ」ということになりそうですね。

 しかし、これから勉強する内容について、大まかなイメージぐらいはもっておいたほうが、勉強しやすいと思います。

初めて行く場所にドライブするとき、皆さんは、事前に地図を見て、目的地の方角や大まかなルートぐらいは頭に入れてから出発するでしょう。

北か南かもわからずに出発したのでは、すぐに道に迷ってしまいます(もっとも、最近はカーナビがあるから大丈夫かな)。民法を勉強する場合も、同じことがいえるのです。

 法律とは

私たちの生活関係を規律する存在ですが、その「生活関係」は国家とのかかわりの部分と、直接に国家とは関係しない部分とに区別することができます。前者は公的な関係で後者は私的な関係ということもできます。

 前者の公的な関係を定めた法律のグループを公法といいます。国家の組織や主権について定めた憲法、国家による刑罰について定めた刑法、納税義務について定めた税法などが該当します。

 これに対し、後者の私的な関係を定めた法律のグループを私法といいます。衣食住のための財産とその取引の関係、および夫婦・親子等の家族の関係などを対象とします。

仮に国家という組織が存在しなくても人が人として生きていくためには必ず必要となる生活関係です。こうした生活関係について定めている法律の代表が民法なのです。


2 財産法と家族法
 前述のように、民法は直接に国家とは関係しない生活関係を定めた法律(私法)ですが、その内容は大きく二つに分けることができます。一般的に、財産法と家族法(身分法ともいいます)という言葉で分類されています。

 財産法とは、衣食住その他の経済的欲望を満足させる財産を自分の物として持ち、これを取引する関係を定めた法律をいいます。

たとえば、財産を自分の物として持つことについて、民法は「所有権」という権利関係として規律します。また、生活に必要な財産を手に入れる手段として売買契約などの契約関係が民法に定められています。
 手元に六法がある方は、民法の目次のところを開いてみてください。民法は第一編から第五編までに分かれますが、そのうちの第一編「総則」、第二編「物権」、第三編「債権」が財産法を定めた部分です。

 これに対し、家族法とは、夫婦・親子・親族の関係を定めた法律をいいます。婚姻、親子、扶養などについて定められていますが、人が死亡した場合の財産関係の承継を定めた「相続」も家族法に含まれます。

相続関係は、財産の移動という面に着目すれば、財産法のようにも思われますが、夫婦・親子などの身分的な関係を基礎として、その身分関係に伴って当然に生じるものなので、家族法に含めてよいと考えられるからです。

 六法が手元にある方は、やはり目次を開いてみてください。民法の目次でいえば、第四編「親族」、第五編「相続」が家族法を定めた部分です。

3 民法の効力
 民法の効力というと、民法の時的・人的・場所的適用範囲、つまり民法の効力が及ぶ範囲を意味することが多いのですが、そのような話は受験上は重要でないので、ここでは別の観点の話をします。

ここでいう民法の効力とは、民法の適用を受けた結果として、法律的にどのような効力が生じるかという問題です。

 たとえば、交通事故で他人にケガを負わせた場合、被害者から加害者に対し損害賠償を請求することができます。

これは、被害者は加害者に対し損害賠償請求の「権利」を取得し、その反面、加害者は被害者に対し損害賠償の「義務」を負うということになります。

また、Aさんが自分が持っているカメラを一万円でBさんに売るという契約が成立した場合、AさんはBさんに対しカメラを引き渡す「義務」を負うと同時に、一万円の支払いを請求する「権利」を取得します。

これをBさんからみれば、Aさんに対しカメラの引渡しを請求する「権利」を取得し、一万円を支払う「義務」を負うということですね。

 このように、民法の効力とは、基本的に権利・義務の発生を意味しているわけです。もっとも、より正確に言えば、新たに権利・義務が発生する場合だけでなく、すでに生じていた権利・義務が消滅したり、変更したりする場合もあります。

たとえば、借金を負っている者がその返済をした場合は、貸主が有する借金の返済を請求する権利と借主の負っていた借金を返済をする義務が消滅することになります。

 民法の効力とは、基本的に権利・義務の発生を意味するとしても、権利・義務があるということはさらにどういう意味を持つのかということが問題になります。

 たとえば、損害賠償請求権があるというのは、損害賠償として金銭を取ることができるということであり、相手方は金銭を支払うべきだということです。

反対に、損害賠償請求権がないというのは、損害賠償として金銭を取ることができないということであり、相手方は金銭を支払わなくてもよいということです。

 理論的にはこのとおりなのですが、現実社会においては、権利・義務があるというだけで物事は解決しません。損害賠償請求権があっても、それを主張しなければ、相手方は払ってくれないでしょうし、主張しても相手方が素直に応じてくれるとは限りません。抽象的な「権利」という概念が認められても、それが現実社会で役立たなければ意味がないのです。

 それでは、権利を主張しても相手方が素直に応じなかった場合はどうなるのでしょうか。

この場合は、裁判所に訴えて、国家の保護を受けるということになります。裁判所は、損害賠償請求権があると判断すれば、相手方に支払いを命じ、それでも払わないときは国家権力を用いて強制的に支払わせます。「権利」があるということの本当の意味はここにあるのです。

 以上をまとめると、民法の効力とは、権利・義務を発生・消滅・変更させることであり、最終的には、裁判所(国家)の協力を得て、その結果を実現させることができるという点に結びつくことになります。


4 強行規定と任意規定
 皆さんは、法律はすべて守らなければならないものだというイメージをおもちでしょう。民法の条文に書いていることについて、われわれが勝手に条文とは異なる内容の契約を締結することなど許されないと思っているのではないでしょうか。

 刑法などでは、右に述べたことがそのまま当てはまります。たとえば、傷害罪について「われわれの間では犯罪とはならないことにする」なんて取り決めをしても、そのようなものは認められません。

 ところが、民法の規定には、異なる内容の契約を締結できないものと、異なる内容の契約を締結すれば、民法の規定より契約のほうが優先するものとがあるのです。

契約で変えられない規定を強行規定、契約で変えることができる規定を任意規定といいます。この任意規定の存在が、すべて強行規定である刑法などと比べた場合の民法の特徴といえます。

 次に問題になるのは、民法の条文のうち、どれが強行規定でどれが任意規定かというのをどのようにして区別するかということです。

 実は、この点についてスパッと切れる明確でわかりやすい基準はありません。一応、民法では「公の秩序に関しない規定」が任意規定であるとしていますが(民法九一条)、「公の秩序」といわれても、その具体的な中身はちっともわからないからです。

最終的には個々の条文ごとに検討するしかありません。しかし、すべての条文について覚えることは不可能なので、大まかな考え方の目安を次に紹介しておきましょう。

① 契約に関する規定は、おおむね任意規定
 売買契約など各種の契約の内容を定める規定は、基本的に任意規定です。契約は両当事者の合意によって成立するものなので、当事者の自由な意思を尊重するのです。民法には一三種類の契約が定められていますが、一三種類のどれにも当たらない契約をしても差し支えありません。

② 物権の内容に関する規定は、強行規定
 物権とは、所有権、抵当権など、物に対する権利の総称です。たとえば、私の所有物を奪う者がいたら、それがだれであれ所有権を主張することができます。このように物権はだれに対しても主張できる権利なので、当事者が勝手に権利の内容を決めたのでは、社会が混乱することになります。

③ 弱者保護の規定は、強行規定
 社会的・経済的な弱者を保護する趣旨で定めた規定について、当事者がこれと異なる内容の契約等をすることを認めたのでは、弱者保護の目的が達成できないからです。

④ 親族・相続に関する規定は、原則として強行規定
 親子・夫婦・相続などの関係は、それぞれの人格を尊重したうえで、すべて平等に取り扱うべきです。各自がそれぞれの考えに従って、勝手な関係をつくる自由を認めたのでは、社会秩序が乱れ、道義的にも問題が生じるでしょう。たとえば、婚姻関係において一夫多妻、あるいは一妻多夫の自由を認めるわけにはいかないでしょう。

⑤ 迷ったら任意規定と考える
 どうしても判断がつかないときは、とりあえず任意規定と考えておきましょう。個人の自由を尊重するのが民法の基本原理だからです。


5 民法の基本原理
 民法全体を貫く基本原理として、①権利能力平等の原則、②所有権絶対の原則、③私的自治の原則、というものがあります。これは、いわば民法的発想の原点ともいうべき考え方ですから、民法を勉強する際に頭の中に入れておいたほうがよいでしょう。

① 権利能力平等の原則
 すべての人は、国籍・職業・年齢・性別などによって差別されることなく、平等に権利義務の主体になる資格を有する、という原則です。人々の自由な経済活動によって社会の発展を図るという資本主義の考え方に基づくものです。

② 所有権絶対の原則
 所有権は、国家からも拘束を受けない絶対的な権利である、という原則です。財産を所有することによる自由な経済活動を認めることにより、資本主義社会の発展を図ろうという考え方に基づきます。

③ 私的自治の原則
 私的な法律関係においては、当事者の自由意思に基づく行為を尊重する、という原則です。これも、自由な経済活動を保障する思想に基づく原則ですが、半面で、人は自分の自由意思によらずに権利を取得し義務を負わされることはない、という原則も含みます。

そのため、私的自治の原則からは、さらに、「契約自由の原則」(契約の締結や内容は個人の自由であるとする原則)や「過失責任の原則」(自己の故意・過失による行為についてのみ責任を負うという原則)が導かれます。


6 基本原理の修正
 前述の基本原理は、社会の進展とともに修正を受けるようになってきました。基本原理を貫くと、さまざまな社会的ひずみが生まれる場合があるからです。

① 所有権絶対の原則の修正
 所有権が侵害された場合、所有者は侵害者に対し、侵害の排除や損害賠償を請求することができます。しかし、これを貫くと、わずかな侵害に基づいて過剰な請求をするなどということが起きます。

 次のような事件が実際に起きています。

ある者が湯元から木管で湯を引いて温泉を経営していたところ、その木管が一部、他人の土地を通過していたため、その土地の所有者が、土地全体を法外な値段で買い取るか、さもなくば木管を撤去しろと請求した事件がありました。

この土地は、ほとんどが急傾斜の草も生えないようなものだったのにもかかわらず、所有権を振りかざして過大な要求をしたわけです。

 このような場合にまで、所有権絶対の原則を貫くのは適当ではないので、裁判所も、土地所有者の請求を認めませんでした。民法には、「権利の濫用は、これを許さない」という規定(民法一条三項)があり、これを適用したのです。

 これは、社会全体の利益に基づいて、基本原理が修正されたものといえるでしょう。我々は社会の一員である以上、権利を行使する場合も、社会全体の調和や利益を害するものであってはならず、もし、そのような権利行使があれば、もはや権利の行使とはいえないのです。

② 私的自治の原則の修正
 前述のとおり、私的自治の原則から導かれる派生原理として、契約自由の原則があります。契約自由の原則は、対等な者同士が契約する場合には、そのまま妥当します。

しかし、資本主義社会の進展により貧富の差が広がると、契約自由の原則は、経済的強者のためだけの自由になりかねません。

 たとえば、不動産を所有していない者は、自分が住む家を確保するために、土地や建物を他人から借りるしかありません。

所有者が自分の不動産を他人に貸す契約をするかどうかは自由なので、自分にとって有利で都合のいい内容でなければ契約しないと主張します。借りる側は、住む家を確保するためには、一方的な内容の契約を承諾するしかない羽目におちいるのです。

 そこで、このような場合は、経済的弱者を保護するために、契約内容に法律が制限を加えることになるのです。

 また、過失責任の原則についても、修正が必要な場面があります。

 たとえば、工場設備、高圧変電設備、自動車、航空機など、文明の発達により、特殊な危険をはらむ企業設備や道具が増えてきました。これらの物から生じる損害には、企業が十分な注意をしていても防止できないものもあります。

 このような場合、企業には過失がないことになるので、過失責任の原則を貫くと、企業はこれらの設備等で多くの利益を上げる一方で、一般市民である被害者は泣き寝入りせざるを得ない事態が生じます。
 
そこで、一定の場合には、過失がなくても損害賠償責任を負わせるという修正が行われることになります。


7 民法の解釈の特徴
 それぞれの法律の条文の意味を明らかにするためには、法律を解釈しなければなりません。
 法律を解釈する場合は、その用いられている文章や語句のふつうの常識的な意味をできるだけ忠実に読み取っていくべきです。

文章や語句の常識的意味から離れた解釈は、恣意的な解釈を生んだり、法に対する信頼を失うことになるからです。言葉の意味に忠実な解釈方法を文理解釈といいますが、これは民法に限らず、あらゆる法律に共通する解釈方法です。

 法律解釈の出発点が文理解釈だとしても、場合によっては法律全体の論理的一貫性を維持するために、言葉の意味を狭めたり、広げたりするなど、文理に必ずしも忠実でない解釈をすべき場合があります。このような解釈方法を論理解釈といいますが、具体的には次のように分類されます。

① 目的論的解釈
 これは、論理解釈のやり方の姿勢を説くものです。すなわち、論理解釈をする際は、その規定の目的を考察する必要がありますが、そうした個々の規定の目的をつかむために、その法律全体の目的をも考えながら解釈する方法です。

② 反対解釈
 ある場合について規定が置かれていないということに着目して、規定のある場合と反対の解決を与えようという解釈方法をいいます。たとえば、「車馬通行禁止」とある場合、「人」はそこに規定されていないので、「人」は通行していいと判断するような場合です。

③ 拡張解釈
 法文の文字の意味が狭すぎて文理解釈だけでは法の意味を理解しがたいときに、その規定の言葉よりも広い内容のものとして解釈する方法をいいます。たとえば、「車馬通行禁止」とある場合、「牛」について書かれてないが、「牛」も「通常道路上を通る大きな動物」という点で「馬」と一緒に考え、「馬」という言葉を本来の意味から「牛」にも拡張して理解するような場合です。

④ 縮小解釈
 拡張解釈とは反対に、法文の文字の意味が広すぎるときに、その規定の言葉の意味よりも狭い内容のものとして解釈する方法をいいます。たとえば、「車馬通行禁止」とある場合、「車」とあっても重い大きなものがいけないのだから、これには「乳母車」は含まれないとして、「車」の本来の意味よりも縮小して理解するような場合です。

⑤ 類推解釈
 ある事項について法が直接規定していない場合に、それに最も類似した事項についての法を適用して、同じ法的効果を認めていこうとする方法をいいます。

たとえば、「他人を殺した者は被害者の配偶者に対して慰謝料を支払わなければならない」という規定があるときに、法律的には「配偶者」にいわゆる内縁の夫・妻(事実上夫婦同然の関係にあるが、婚姻届を出していない場合)は入らないのだけれど、内縁の夫・妻にも慰謝料の支払いを認めるような場合です。

 このような類推解釈が、民法では割合広く認められる傾向があります。刑法では死刑もあることからして安易に類推解釈を認めるわけにはいきませんが、民法で類推解釈を認めたとしても命まで奪われることはないからでしょう。


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