民法2章1 財産法の全体像
1 財産法の全体像
財産法とは、衣食住その他の経済的欲望を満足させる財産を自分の物として持ち、これを取引する関係を定めた法律をいいますが、その内容はおおむね次の三つに分類することができます。
① 取引の主体
取引の主体とは、取引を行う者のことです。取引を行うのは「人」ですから、取引の主体に関する部分には、「人」に関することが規定されているわけです。
取引の主体については、たとえば子供のように独力で取引することが難しい者のことや、会社など生身の人間ではないけれど、「人」と同じように取引の主体となれる「法人」のことなどが定められています。
② 取引の客体
取引の客体とは、取引の目的となるもののことです。まず、経済的価値を生み出す物質として、土地や建物などの不動産とそれ以外の動産とがあります。また、不動産と動産を支配して利益を得る権利として、所有権や賃借権などが問題になります。
③ 取引の手段
取引の手段とは、どのような行為によって取引が行われるかということです。財産に対する権利を移転したり、設定したりする行為は、基本的に契約によって行われます。
したがって、取引の手段に関する規定とは、契約に関する定めのことです。契約の締結や履行に関すること、各種の契約に関することなどが定められています。
2 取引の主体――権利能力と行為能力
権利能力と行為能力という用語には、どちらも「能力」という言葉がついているので、少しまぎらわしいですね。
① 権利能力
権利能力とは、権利の主体となることができる能力のことをいいます。赤ん坊からお年寄りまで生きている人間は、すべて平等に権利能力があります。
なお、生きている人間のことを法律用語で「自然人」といいます。「自然」という言葉から、なにやら野性的な人間を連想するかもしれませんが、もちろん、法律的にはそのような意味はありません。野性味ゼロの人でも、「自然人」です。
自然人として権利能力を有するのは、出生から死亡までです。したがって、出生前の胎児の段階では、原則として権利能力はありません。
しかし、相続関係や損害賠償請求については、胎児でも特別に権利能力が認められています(民法八八六条、九六五条、七二一条)。
たとえば、出生直前に父親が死亡したケースなどで相続権をまったく認めないのは、すでに生まれている子との関係で不公平だと考えられたからです。なお、胎児についてはこのように例外的な扱いがありますが、死亡後の人間(幽霊?)にまで権利を認める例外はありません。
権利能力を有するのは、自然人だけではありません。会社などの法人も権利能力を有します。「法人」とは、法が人と同じように権利の主体として認めたということです。
② 行為能力
行為能力とは、単独で完全に有効な法律行為ができる能力のことをいいます。法律行為とは、契約など、行為者の意思に基づいて法律上の効果を発生させる行為のことです。
権利能力と違って、行為能力はすべての自然人に認められるわけではありません。たとえば、子供などは、合理的な取引をするだけの十分な判断能力をもっていないので、行為能力が制限されています。
なお、「行為能力」における「行為」とは、行為一般を指すのではなく、法律行為を指すことに注意してください。たとえ子供でも、歩いたり、食事をしたり、しゃべったりする「行為」をする能力はあるのですから。
子供のように行為能力が制限されている者のことを「制限行為能力者」といいます。制限行為能力者には、①未成年者、②成年被後見人、③被保佐人、④被補助人の四種類があります。
未成年者とは、二〇歳未満の者(二〇歳の誕生日が来る前日までの者)をいいます。成年被後見人、被保佐人、被補助人は、いずれも精神的な障害や認知症(老人性痴呆症)などにより、合理的な取引をする判断能力に問題がある人たちです。
成年被後見人〓被保佐人〓被補助人の順に、だんだん能力が高くなります。条文のキーワードで区別すると、成年被後見人は判断能力が「欠けている」人、被保佐人は「著しく不十分な」人、被補助人は「不十分な」人です。
これらの制限行為能力者の制度は、判断能力に問題のある者を保護するという思想に基づいて設けられています。判断能力に問題のある者が、単独で契約などを行うと、不利な契約を知らぬ間に押しつけられるおそれがあります。
そこで、単独では有効に契約できないことにして、制限行為能力者の財産等を守ろうとしているのです。能力がない者の行為を縛りつけるというマイナスイメージではとらえないでくださいね。
制限行為能力者を保護する仕組みとしては、保護者の存在とその権限が重要です。
制限行為能力者には、必ず保護者がつけられます。未成年者には親権者(親権者がいない場合などは未成年後見人)、成年被後見人には成年後見人、被保佐人には保佐人、被補助人には補助人という保護者がつきます。未成年者の保護者である親権者とは両親のことですが、他の保護者は多くの場合、配偶者や兄弟などの親族から選ばれます。
制限行為能力者は単独で契約等をすることができませんが、人が社会生活を営む以上、契約はどうしても必要になります。アパートを借りたり、物を買ったりする行為はすべて契約だからです。
そこで、制限行為能力者に代わって契約したり、制限行為能力者が契約を行う際に同意を与えるなどして、制限行為能力者をサポートする存在として、保護者が選任されるのです。
制限行為能力者の保護者には、取消権、同意権などの権限が与えられています。権限の種類および内容の詳しい説明は省略しますが、さしあたって取消権の存在だけ覚えておいてください。
取消権とは、制限行為能力者が単独で行った契約などを取り消すことによって、はじめから契約しなかったのと同じ状態にする権利です。制限行為能力者が、単独で契約してしまった場合に、その効果を失わせて、制限行為能力者の財産の回復等を図ることができるのです。
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