民法2章6 信義誠実の原則他
13 信義誠実の原則
民法は、権利行使および義務の履行の基本原則として、信義に従い誠実に行動することを義務づけています(民法一条二項)。これを信義誠実の原則、略して信義則(しんぎそく)といいます。
この信義則は、民法全体を貫く原則ですが、特に契約関係において問題になります。契約は、当事者相互の信頼を基礎として成り立っているからです。平気で人を裏切り、約束を守らないような相手とは、だれも契約しないでしょう。
信義則における「信義」とか「誠実」という言葉は、抽象的で意味内容がハッキリしませんが、ハッキリしないぶん、かえって問題解決に困った場合に幅広く使える便利な原則となっています。たとえば、契約内容が不明確な場合など、信義則に適合するように解釈されることがよくあります。
また、たとえば、契約前日に火事で全焼していた建物の売買契約が締結されたという場合、そもそも契約自体が成立せず、無効な契約となります。この世に存在しない物を売買することは不可能だからです。
ただ、買主からすると、契約が成立したものと思って、借金して代金を用意したりするかもしれません。その借金の利息などは、まったく無駄な出費ということになります。
売主としては、目的物が滅失していないか確認して、買主が損害を受けないように配慮する信義則上の義務があるというべきです。そこで、このような場合、信義則を根拠にして、買主は売主に対して、損害賠償の請求ができるとされています。
14 契約の有効性
当事者が合意すれば、自由に契約内容を定めることができるのが原則ですが、もちろん一定の限界はあります。契約が有効であるためには、①確定性、②実現可能性、③適法性、④社会的妥当性、が必要であると考えられています。
① 確定性
確定性とは、契約内容が確定できるものでなければならないということです。たとえば、Aさんが「お互いに得になるような取引をしよう」ともちかけて、Bさんが「わかった。約束しよう」と返事をしたとしても、これでは契約の中身がさっぱりわかりませんね。法律上の権利義務を発生させ、法的強制力をもって裁判所が助力するのは無理です。
もっとも、確定性といっても、契約内容がガチガチに固まっていることまで要求するものではありません。あいまいな部分があっても、当事者の意思を推測するなどの法解釈によって内容を確定できれば、有効な契約とされます。
② 実現可能性
実現可能性とは、契約の内容が実現可能なものでなければならないということです。たとえば、太陽や月を売買する契約をしたとしても、実現は不可能です。このような契約に法律上の効果を発生させても無意味ですね。
なお、実現可能性は、事実的あるいは物理的な可能性だけでなく、法律的な可能性についても問題になります。たとえば、電気事業法で許された電力量を超えた電力供給契約は、物理的には可能でも、法的に不可能なので無効となります。
③ 適法性
適法性とは、契約の内容が法律の強行規定に反してはならないということです。これは、その規定に反する契約の定めを許さないという強行規定の性質から、当然に導かれる結論ですね。
④ 社会的妥当性
社会的妥当性とは、契約の内容が一つひとつの強行規定に違反していなくても、 公 (おおやけ)の秩序または善良の風俗に反してはならないということです(民法九〇条)。
「公の秩序」は、社会の一般的秩序、「善良の風俗」は社会の一般的道徳観念を意味すると解されていますが、両者の区別はあいまいなので、気にする必要はありません。
とにかく公序良俗とは社会的妥当性のことであり、反社会的な契約は無効になるのだと理解しておけば十分です。なお、「公の秩序または善良の風俗」を略して、「公序良俗(こうじよりようぞく)」といいます。
ただ、「公序良俗」という概念はあいまいでわかりにくいので、具体的な事例を少し紹介しておきましょう。
配偶者のある者が配偶者以外の者と結んだ愛人契約、母と子が同居しないという契約、ばくちで負担した債務の弁済に充てる資金を貸す契約、盗品の売却の委任を受ける契約、人身売買をする契約、村八分的な共同絶交を行う旨の契約、相手の弱みなどにつけ込んで暴利をむさぼる内容の契約、公務員に賄賂を贈る契約、などが実際の裁判において、公序良俗違反を理由に無効とされています。
これらの事例を暗記する必要はありませんが、公序良俗違反とはどのような場合を指すか、自分なりのイメージをもっておいてください。
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