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民法2章7 意思表示

15 意思表示
 契約は、申込みと承諾の意思表示の合致によって成立するわけですが、それは意思表示が正常に行われたことを前提にしています。なんらかの理由で、意思表示が正常に行われていない場合は、その意思表示の効力を否定する必要があります。

そこで、意思表示が正常に行われなかった場合として、どのようなものがあるか問題になります。

 なお、ここでいう「意思表示」とは、当然ながら、法律的な効果が生じることを意図した意思の表示を指します。日常用語的には、「あなたが好きです」とか「今日は暑いですね」というのも意思表示の一種といえますが、これは法律的な意味がないので、ここでいう「意思表示」には含まれません。

① 制限行為能力者
 まず、意思表示を行う意思決定そのものに問題がある場合があります。これは、すでにお話しした制限行為能力者の意思表示が該当します。

制限行為能力者は、判断能力が十分ではないので、たとえば、土地を買う意思表示をした場合であれば、「この土地を買おう」という意思決定自体に問題があります。

通常の判断能力がある者なら、契約しないと思われるようなケースでも、「買う」といってしまうおそれがあります。それゆえ、制限行為能力者が単独で行った意思表示は、後で取り消すことができるとされているのです。

② 自由に意思決定できなかった場合
 次に、他人の不当な干渉により、意思表示を行う意思決定が自由に行われなかった場合があります。具体的には、相手方の詐欺または強迫によって意思表示を行った場合です。


 ●詐欺
 詐欺とは、文字通り人をだますことです。たとえば、AさんがBに「今度新しい法律ができるため、もうすぐ土地の価格が暴落しますよ」とだまされて、自己所有の土地を売却したような場合です。詐欺による意思表示がそのまま有効では、本人がかわいそうです。

制限行為能力者同様、この者を保護してあげる必要があります。そこで、詐欺による意思表示は取り消すことができることとされています(民法九六条一項)。


 ●強迫(きようはく)
 強迫とは、人をおどすことをいいます。たとえば、Cさん所有の土地を手に入れたいと考えたDがCさんをおどし、恐怖心にかられたCさんが、やむなくその土地をDに売却する意思表示をしたような場合です。
強迫によって意思表示した者も、詐欺同様、保護してあげる必要があります。そこで、強迫による意思表示も取り消すことができます(民法九六条一項)。

 なお、刑法では人をおどすことをあらわす場合「脅迫」という文字を使いますが、民法ではこれと区別する意味もあって「強迫」と表記します。

③ 真意ではない意思表示
 表面上は普通の意思表示が行われているのですが、実は意思表示をした者の内心とその意思表示とが一致していない場合があります。心裡留保、虚偽表示、錯誤という三つのパターンがあります。


 ●心裡留保(しんりりゆうほ)
 心裡留保とは、本心(真意)でないことを自分でわかっていながら意思表示することをいいます

。たとえば、Aさんが、自分の土地を本当は全然売却する気がないのに、Bさんに対して冗談で「この土地を一〇〇〇万円で売ってあげよう」と意思表示するような場合です。「心裡留保」という文字を見ると、いかにも難しそうですが、単に冗談で意思表示する場合ですから、中身は難しくありません。

 心裡留保の場合、本人は冗談のつもりでも、相手は本気にしてしまうかもしれません。こういう冗談を軽々しく言った本人が悪いといえます。

他方、言葉を信頼して取引した相手方を保護する必要があります。そこで、心裡留保による意思表示は、原則として有効とされています(民法九三条本文)。

 しかし、心裡留保による意思表示を原則として有効としたのは、相手方を保護するためです。だとすれば、本心でないことについて、相手方が知っていた場合や不注意で知らなかった場合(ふつうは冗談と気づくべきなのに、相手方がそそっかしくて気づかなかった場合)は、相手方を保護する必要がなく、意思表示は無効とされます(民法九三条ただし書)。


 ●虚偽表示
 虚偽表示(通謀虚偽表示ともいいます)とは、相手方と通じ合って、ウソ(虚偽)の意思表示をすることをいいます。たとえば、Cは借金を返せなかったので、自分の土地が債権者から差押さえを受けそうになりました。そこで、自分の土地でなくなったように見せかけるため、友人のDとぐるになって、虚偽の売買契約を締結するような場合です。

 虚偽表示の場合、表面(表示)上は契約したように見えますが、それに対応する意思がありません。意思と表示が一致しておらず、本来の意思表示としての効果を認めることはできません。それゆえ、虚偽表示による意思表示は、無効とされています(民法九四条一項)。

 心裡留保の意思表示は、原則として有効であり、相手方が真意を知っている(悪意、悪意の意味については、次項で説明)か不注意(過失、過失の意味については、次項で説明)で知らなかった場合だけ無効になりましたが、虚偽表示にはこのような区別はなく、すべて無効です。

心裡留保の意思表示を原則として有効としたのは、意思表示を信じた相手方を保護するためです。これに対し、虚偽表示の場合は、相手方も通謀しているので、相手方保護の必要性がないからです。


 ●錯誤
 錯誤とは、勘違いで意思表示をすることをいいます。たとえば、Eさんは、自宅を建てて使用している土地(甲)と現在空地になっている土地(乙)を所有しているとします。

そこで、Eさんは、乙土地をFさんに売ろうと思ったのですが、勘違いをして「甲土地を売る」といってしまったような場合です。

 勘違いで行った意思表示が有効になってしまうと本人が困るので、錯誤による意思表示は無効となります(民法九五条)。ただ、勘違いによる意思表示がすべて無効になったのでは、相手方に迷惑がかかります。

そこで、無効を主張できる場合を限定するために、無効が認められるためには、意思表示の重要部分に錯誤(要素の錯誤)があることと、意思表示をした者に重大な過失(勘違いした際の不注意の程度がひどい場合)がないことが条件とされています。

たとえば、ささいな勘違いの場合は無効とはなりません。


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