「はじめて行政書士 民法」
植杉伸介著
住宅新報社刊
定価1995円(本体1900円)
20 売買契約
各種の契約のなかで、我々にとって最も身近な契約が売買契約でしょう。いまさら説明するまでもないかもしれませんが、法的な説明を加えることによって、法律的な発想や感覚を身につけてもらうことにしましょう。
売買契約を法律的に定義すると、「売主が所有権その他の財産権を買主に移転することを約し、買主が売主に代金を支払うことを約することによって成立する契約」ということになります。
売買契約が成立すると、売主・買主の双方に債務が生じます。買主は、売主に対し代金を支払う債務、売主は、買主に対し売買の目的物を引き渡す債務を負担します。これを権利者の側面から見れば、売主は買主に対し代金の支払いを請求できる債権、買主は売主に対し売買の目的物を引き渡すよう請求できる債権を取得したと表現することもできます。
たとえば、Aさんの土地をBさんが一〇〇〇万円で購入する売買契約が成立した場合であれば、AさんはBさんに対し「一〇〇〇万円を支払え」と請求し、BさんはAさんに対し「土地を引き渡せ」と請求できるわけです。
右の説明でわかるとおり、売買契約では契約当事者双方が債務を負担します。このように「双」方が債「務」を負う契約のことを「双務(そうむ)契約」といいます。
ちなみに、契約のなかには贈与契約のように契約当事者の一方だけが債務を負うものもあります。このように当事者の一方のみが債務を負う契約は、「片務(へんむ)契約」といいます。
21 所有権の移転時期
売買契約が締結されたことにより、目的物の所有権が最終的に買主に移転することはいうまでもありません。問題は、具体的な所有権の移転時期です。
まず、所有権の移転時期として考えられるものを列挙してみましょう。一般的な動産の売買では、①契約を締結した時、②代金を支払った時、③目的物を引き渡した時、不動産の場合は、さらに④登記をした時、などが考えられます。これらのうち、どのタイミングで所有権が移転するのでしょうか。
この点についても、契約自由の原則が当てはまります。すなわち、当事者が契約において所有権の移転時期を定めたら、その定めどおりに所有権が移転します。たとえば、「代金支払いの時に所有権が移転する」という定めがあれば、所有権の移転時期は代金支払いの時になります。
しかし、すべての契約において、所有権の移転時期が定められるとは限りません。それどころか、所有権の移転時期を定めないほうが普通かもしれません。
そこで、契約で所有権の移転時期が定められていない場合、法律的にはいつ所有権が移転するかということを明確にしておかなければなりません。この点について判例は、当事者の意思表示のみで所有権が移転するとしています。
つまり、代金支払い、引渡し、登記などが行われなくても、当事者の申込みと承諾の意思表示が合致して契約が成立しただけで所有権は移転するのです。
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