「はじめて行政書士 民法」
植杉伸介著
住宅新報社刊
定価1995円(本体1900円)
31 債務不履行の要件
債務不履行が成立すると、債務者は損害賠償の請求を受けたり、契約を解除されるなどの不利益を受けます。このような不利益を受けるのは、債務不履行について、債務者に責任があるからです。
債務者には全く責任がないのに、不利益を受けたのではかわいそうです。
そこで、債務不履行が成立するためには、原則として、不履行の結果について債務者の責めに帰すべき事由がなければならないこととされています。
これは債務者の「せめにきすべきじゆう」と読むのですが、略して帰責事由(きせきじゆう)ともいいます。
もっとも、「債務者の責めに帰すべき事由」といわれても、もうひとつ意味がハッキリしませんね。これは、具体的には、履行遅滞や履行不能などの結果が生じたことについて、債務者に故意(わざとすること)または過失(不注意であること)があることを意味します。
たとえば、契約の一か月後に建物を引き渡す約束だったのに、その日は都合が悪くなったので、わざと引渡しを遅らせた場合は、故意によって履行遅滞が生じたことになります。
また、契約後、売主のたばこの火の不始末で、建物を全焼させてしまった場合は、過失によって履行不能が生じたことになります。
これに対し、たとえば、大地震で建物が全壊した場合のように、不可抗力に基づくものであり、債務者に故意も過失もない場合は、債務者の債務不履行責任は発生しません。
32 債務不履行による損害賠償
債務不履行が成立すると、債権者は、債務者に損害賠償を請求できます。損害賠償は、原則として金銭で行います。
賠償額について話し合いがつかないときは、最終的に債権者が裁判で証明した金額になります。なお、債権者にも過失があったため、損害が広がったような場合は、その分賠償額を減額されたりします。これを(過失相殺 か しつそうさい)といいます。
たとえば、期日に建物の引渡しがなかったため、当日予定していた引っ越しを中止し、依頼していた運送会社からキャンセル料を取られた場合、買主は売主に対し、キャンセル料を損害として賠償請求できます。
しかし、買主も運送会社への連絡を怠ったため、キャンセル料が高くなった場合は、その高くなった分を差し引いたりするのです。
損害賠償の対象は、原則として、債務不履行によって通常生ずべき損害の範囲に限られます。債務不履行との因果関係をどんどんたどっていくと、とてつもなく賠償の範囲が広がるおそれがあるからです。
たとえば、期日に建物引渡しを受けられなかったので、やむをえずホテルに宿泊したところ、慣れないベッドなので風邪をひいてしまいました。その風邪のせいで翌日会社を休んだところ、会社での評価が下がり、子会社に出向させられ給料が下がりました。
そして、出向のことで悩みボーと歩いていたら、誤って赤信号で横断歩道を渡ってしまい、交通事故でケガをしました。このような場合、損害賠償の範囲はホテル代ぐらいまでに限られます。

