1 制限行為能力者
まず,制限行為能力者制度のやさしい問題から解いてみましょう。
問題1
民法は,自己の行為の結果を判断することの不十分な者のした法律行為を取り消すことができるものとして,制限行為能力者の保護を図っている。しかし,制限行為能力者であるか否かは外見上分からないことも多く,取引の安全を害するおそれもある。そこで,制限行為能力者が,保護に値しないような行為をした場合には,もはや取り消すことができないとして,制限行為能力者と取引をした相手方を保護する制度も規定している。民法は,どのような場合に取り消すことができないとしているか。40字程度で記述しなさい。
解説
民法は,人が権利を有し,義務を負うためには,その人の意思に基づくという「私的自治の原則」を基本原理としています。そこでは,意思こそが権利義務の発生する根拠であるとされます(意思主義)。
このように,意思主義を採用しますと,自己の行為の結果を弁識する能力(意思能力)のない者のした行為によっては,権利義務が発生しないということになるでしょう。
そこで,意思能力のない者のした行為は,無効であると考えられています。しかし,その行為をした当時に意思能力があったか否かを証明することは,とても困難なことです。
そこで,民法は,意思能力に関して,画一的な基準を設け,その基準に達しない者のした行為は,取り消すことができるとしています。この場合,その行為の時に意思能力があったか否かは証明の必要がありません。判断能力の不十分な人を制限行為能力者として,その保護を図ったものです。
このように,制限行為能力者の制度は,制限行為能力者の保護を目的としていますが,法律の保護にもとるような行為をした者まで保護を図る必要はありません。
そこで,制限行為能力者の側で,相手方を騙すような行為をした場合は,取り消すことができないとして,保護の手を引き上げることとしています。
すなわち,民法21条は,「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは,その行為を取り消すことができない」としているのです
。
本問は,この内容を記述すればよいでしょう。少し簡単すぎたかもしれませんね。
解答例
制限行為能力者が,行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたとき。(36字)
どのような行為が「詐術」に当たるかに関しては,旧法時代の「準禁治産者」に関して,次のような判例があります。
「『詐術を用いたとき』とは,無能力者が能力者であることを誤信させるために,相手方に対し積極的術策を用いた場合に限るものではなく,無能力者が,ふつうに人を欺くに足りる言動を用いて相手方の誤信を誘起し,または誤信を強めた場合をも包含すると解すべきである。
したがって,無能力者であることを黙秘していた場合でも,それが,無能力者の他の言動などと相俟って,相手方を誤信させ,または誤信を強めたものと認められるときは,なお詐術に当たるというべきであるが,単に無能力者であることを黙秘していたことの一事をもって,右にいう詐術に当たるとするのは相当ではない」(最判昭44.2.13)。



