5 不法行為
不法行為に関しては,使用者責任の問題を解いてみましょう。
問題5
ある事業のために他人を使用する者は,被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,使用者があることを証明したときは,その責任を免れる。どのようなことを証明したときか。40字程度で記述しなさい。
解説
(1)使用者責任とは
たとえば,タクシー会社A交通の運転手Bの過失により歩行者Cを負傷させたとしましょう。Cは,Bに対して不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求をすることができますが,Bが無資力だったときは,事実上,損害賠償請求は空振りに終わります。しかし,それでは被害者Cの救済が図れません。
そこで,タクシー会社に損害を賠償してもらおうというのが,「使用者責任」です。タクシー会社は,被用者Bの行為により利益を得ているので,Bの行為による損失もタクシー会社A交通に償ってもらうのが公平だという「報償責任」の考え方です。
(2)使用者責任の要件
ア 使用関係の存在
使用者責任は「ある事業のために他人を使用する者」でなければなりませんので,使用者・被用者間に雇用関係が必要といえます。しかし判例は,事実上の指揮監督関係があれば足り,雇用関係は不可欠の要素ではないとしています。暴力団に関する判例で,次のようなものもあります。
「階層的に構成されている暴力団が,その威力をその暴力団員に利用させることなどを実質上の目的とし,下部組織の構成員に対しても同暴力団の威力を利用して資金獲得活動をすることを容認していたなど判示の事情の下では,同暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立している」(最判平16.11.12)。
イ 「事業の執行につき」とは
使用者責任は,「事業の執行につき」被用者が不法行為をした場合でなければなりません。判例は「事業の執行につき」を広くとらえ「『事業の執行につき』というのは,必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのではなく,広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき,使用者の事業の態様,規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合で足りるものと解すべきである」(最判昭39.2.4)としています(外形理論)。
ウ 被用者の不法行為
使用者責任は,被用者の不法行為について,使用者が被用者に代わって負う「代位責任」だとされています。そこで,使用者責任が発生するためには,被用者に不法行為が成立していることが要件となります。
エ 免責事由の不存在
使用者は,被用者の選任およびその事業の監督について相当の注意をしたとき,または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは,責任を免れます。この免責事由は,立証責任の転換された「中間責任」であるとされています。
ただし,判例により,この免責事由の認められることはほとんどないことも周知の事実です。そこで,使用者の責任は,ほぼ無過失責任に近くなっています。
本問は,この免責事由に関する問題です。
解答例
被用者の選任・監督について相当の注意をしたこと,又は相当の注意をしても損害が発生したこと。(45字)
なお,使用者と被用者の債務は,不真正連帯債務となるとするのが判例です。
また,使用者が被害者の損害を賠償した場合には,被用者に求償できますが(715条3項),これに関しては,判例が求償権を制限しています。
すなわち,「使用者が,その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により,直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には,使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」(最判昭51.7.8)としています。
最後に,複数の加害者と複数の使用者間における求償に関して,「共同不法行為の加害者の各使用者が使用者責任を負う場合において,一方の加害者の使用者は,当該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは,その超える部分につき,他方の加害者の使用者に対し,当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で,求償することができる」(最判平3.10.25)との判例があります。
今回提示した判例は,いずれも重要判例ですので,ぜひ研究してみてください。



