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「不動産業の歴史入門」2 蒲池紀生


「不動産業の歴史入門」 蒲池紀生
  定価1785円

第1章●江戸時代~明治時代

4 江戸時代の地所家屋の賃貸経営
自己(自社)所有の土地・建物を他者(他社)に貸して地代・賃料を収納する不動産賃貸経営は、不動産業の分野の一つであり、具体的な形としては貸地、ビル・アパート・貸家経営などがあります。

 こうした土地・建物の賃貸経営は江戸時代にも、豪商(大商人)や家作(貸家)持ちの富裕な人たちによって営まれていました。そして、こうした経営の収益は初期には本業(商売)の付属収入とされていましたが、江戸中期以降になると次第にその経済的ウエイトが高くなったといわれます。

 では、その利回り(元本〈土地・建物価格〉への収入の割合・率)はどれくらいだったでしょうか。―地価の高い日本橋などでは、かなりの高率だったようです。

東京・池袋の老舗不動産業者で不動産研究家であった西邨謹太郎さんは、次のような事例をあげています。
 

「元禄年間、ある豪商が日本橋本石町にある所有土地・店舗を賃貸していたが、貸地170坪(約561平方m)の1年分の地代が年28両、店舗家賃収入が同63両銀9匁、計91両銀9匁の収入になったとの記録があります。

この収入に対して支出は、1年間の町内入費が10両銀9匁、不時のための(不意に発生した事態に備えての)積み金が同4両、家守(管理人。俗に大家ともいわれた)給金同7両、計21両銀9匁、差引70両の収益ということです。

貸し出している土地・建物の沽券面の価格(時価)は1200両だったので、利回りは年5分8厘3毛(5・83%)ということになります」
 日本橋のような一等地では、かなり有利な利回りでした。

5 管理業務担当の家守(大家)
 現代では、「大家さん」といえば、貸家の所有者「家主さん」のことである場合が多いのですが、「長屋の花見」などの落語でおなじみの江戸時代の「大家さん」は、正確にいえば「家守」(差配、管理人)でした。

 つまり、通常「大家さん」は、一般庶民が住む町方地の裏長屋の管理人で、「家主」に従属し、「家賃の取立てや長屋管理の万般の仕事」を担当していました。

さらに借家人(店子)が何か事件を起こして奉行所に出頭させられるときは同道しなければならないという連帯関係がとり決められており、店子の犯罪に連帯責任を問われることもありました。

「大家といえば親も同然、店子といえば子も同然」という言葉は、こうしたことからのものでした。町方地行政の末端の仕事も受け持たされていたわけです。

 こういう立場にある「大家さん」を単純に「不動産管理業者」と見なすことには問題があるでしょうが、「大家業=生業」ということで、「江戸時代の不動産業の一類型」と見ることができる面もあります。

 「家守」の収入は「家主からの給金」がメーンでしたが、新しい長屋入居者から“お祝儀”のお金をもらうことがあり、また、店子たちの糞尿代(長屋の便所の糞尿の代金)は“家守のもの”とされていました。

江戸郊外の農家が肥料として引き取り、その際の礼金(お金のほか農作物のこともありました)を家守に納めたのです。多くの戸数の長屋を抱えている家守には、かなりの収入(みいり)になったようです(このしきたりは、明治以降にも見られ、昭和初期ごろまで続いていたようです)。

6 不動産業成立の要件 ― 法制・人口移動

江戸時代にも貸家経営・管理など「不動産関連の仕事」はありましたが、今日見るような不動産業は明治以降に成立したもので、その成立は2つの要件で実現しました。

 1つは、土地の売買を許可し、その手続を定めた法令の制定です。明治政府は1872(明治5)年の太政官布告・土地永代売買禁制解禁と大蔵省通達・地券渡方規則、翌1873年の地租改正条例で、新しい土地制度を定め、国民に土地の売買・所有権を認めました。

 これらの法制下の土地売買では、地券の交付で所有権が立証され、地券記載の地価により地租(土地所有の税金)が課せられました。この売買の自由化で、不動産の売買・仲介、開発などを担当する不動産業が登場しました。

 いま1つの要件は、不動産の売買・貸借、その仲介などの需要を発生させる人口の移動です。たとえば、地方から上京し、東京や大阪などに住みつく人が住まいを求めるのに対応する業務の必要性の発生です。

 明治時代から、近代商工業の発生・発達などによって、大都市圏への人口集中が進行し、この要件も不動産業発生に有効に作用したとみられます。


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