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国家試験記述式対策「商業登記法」 齋藤隆行

 (司法書士)齋藤隆行

問題
 司法書士法務太郎は,平成20年6月2日に事務所を訪れたAB運送株式会社(変更前商号 A運送株式会社)及びB倉庫株式会社の代表取締役から,別紙1から6までの書類のほか必要書類の交付を受け,必要な事情を聴取した。司法書士法務太郎は,登記すべき事項や登記のための要件などを説明したところ,必要な登記申請書の作成及び登記申請の代理を依頼された。司法書士法務太郎は,この依頼に基づき,同月3日,AB運送株式会社を管轄する登記所に登記を申請した。

 以上に基づき,…

AB運送株式会社についてする登記申請については答案用紙の第1欄の,同時に申請するB倉庫株式会社についてする登記申請については第2欄のそれぞれアからエまでの項目ごとに登記申請書に記載すべき事項を記載し,第3欄には,司法書士として登記の申請を代理すべきでない事項があるときは,その事項及びその理由を簡潔に記載しなさい。

(答案作成上の注意事項)
1 AB運送株式会社(変更前商号 A運送株式会社)及びB倉庫株式会社においては,明記されている場合を除き,定款に法令の規定と異なる別段の定めはないものとする。
2 別紙中,(省略)又は(以下省略)と記載されている部分は,有効な記載があるものとする。
3 登記申請書に添付すべき書面は,すべて調えられているものとし,別紙6の取締役会の議事録には,甲子太郎については登記所に提出されている印鑑が,その他の出席者については市区町村に登録されている印鑑がそれぞれ押印されているものとする。
4 申請書に添付すべき書面について,他の書面を援用することができることが明らかなときは,これを援用しなければならない。
5 登録免許税の額については,内訳の記載を要しない。
6 解答欄に記載すべき事項がない場合には,該当の解答欄に斜線を引く。
7 東京都港区を管轄する登記所は,東京法務局港出張所であり,東京都中央区を管轄する登記所は,東京法務局である。

別紙1
 
登記事項証明書の概要
商 号 A運送株式会社        
本 店 東京都港区新橋一丁目2番3号 
公告をする方法            
 日本経済新聞に掲載する方法により行う。
目 的 1 一般貨物自動車運送事業  
    2 前号に附帯する一切の業務 
発行可能株式総数 3,200株       
発行済株式の総数 1,600株       
資本金の額 金8,000万円        
株式の譲渡制限に関する規定      
 当会社の株式は,取締役会の承認がなければ譲渡することができない。      
役員に関する事項           
 取締役 甲子太郎 平成19年5月25日就任
 取締役 乙野次郎 平成19年5月25日就任
 取締役 丙野三郎 平成19年5月25日就任
東京都新宿区四谷一丁目2番3号    
代表取締役 甲子太郎 平成19年5月25日就任
監査役   丁野四郎 平成19年5月25日就任
会社状態に関する事項         
 取締役会設置会社          
 監査役設置会社           


別紙2
 
登記事項証明書の概要
商 号 B倉庫株式会社        
本 店 東京都中央区月島一丁目2番3号
公告をする方法            
 官報に掲載してする。        
目 的 1 倉庫業          
    2 前号に附帯する一切の業務 
発行可能株式総数 8万株        
発行済株式の総数 2万株        
資本金の額 金1,000万円        
役員に関する事項           
 取締役 戊田太郎 平成19年5月31日就任
 取締役 己野次郎 平成19年5月31日就任
 取締役 庚野三郎 平成19年5月31日就任
東京都中野区中野一丁目2番3号    
代表取締役 戊田太郎 平成19年5月31日就任
監査役   辛野四郎 平成19年5月31日就任
会社状態に関する事項         
 取締役会設置会社          
 監査役設置会社  

         
別紙3
 
A運送株式会社の平成20年4月1日付臨時株
主総会の議事概要           
 議決権のある株式の株主,全員出席  
 (省略)              
議案 定款一部変更の件        
 議長は,下記のとおり定款を変更したい旨を述べ,その承認を議場に諮ったところ,満場一致によって,これを承認可決した。 
変更案                
第1条(商号)             
 当会社は,AB運送株式会社と称する。
第2条(目的)             
 当会社は,次の事業を営むことを目的とする。                
 1 一般貨物自動車運送事業     
 2 倉庫業             
 3 前各号に附帯する一切の業務   
 (以下省略)             
 

別紙4
 
平成20年4月10日付吸収分割契約書の概要
 東京都港区新橋一丁目2番3号AB運送株式会社(以下「甲」という。)と東京都中央区月島一丁目2番3号B倉庫株式会社(以下「乙」という。)とは,次のとおり吸収分割契約を締結する。            
第1条 甲及び乙は,甲を吸収分割承継会社,乙を吸収分割会社とする吸収分割を行う。
第2条 乙は,倉庫業に関する権利義務の全部を分割し,甲はこれを承継する。
第3条 ① 甲は,第6条に定める日において,乙が倉庫業のために有する資産その他これに付随する一切の権利義務を承継する。
 ② 倉庫業のために勤務する乙と雇用契約を締結している者については,第6条に定める日において,甲が乙から雇用契約を承継する。
第4条 甲は,吸収分割に際して,普通株式200株を発行し,第6条に定める日において,そのすべてを乙に対して交付する。
第5条 ① 甲が吸収分割に際して増加する資本金の額は,1,000万円とする。
 ② 甲が吸収分割に際して増加する資本準備金の額は,会社計算規則第63条第1項第1号ロに規定する株主払込資本変動額から上記①の額を控除した額の全額とする。
第6条 吸収分割の効力発生日は,平成20年6月1日とする。
 (以下省略)             
 

別紙5
 
AB運送株式会社の平成20年4月27日付臨時
株主総会の議事概要          
 議決権のある株式の株主,全員出席  
 (省略)               
第1号議案 吸収分割契約の承認に関する件
 議長は,平成20年4月10日付吸収分割契約書(省略)記載のとおりB倉庫株式会社との間で,B倉庫株式会社から,その有する倉庫業に関する権利義務の全部を承継する吸収分割契約を締結した旨を述べ,当該吸収分割契約の承認を議場に諮ったところ,満場一致により,これを承認可決した。      
第2号議案 取締役2名選任の件    
 議長は,吸収分割に伴い経営陣を強化するため,取締役を選任する必要がある旨を述べ,取締役として戊田太郎及び庚野三郎を平成20年6月1日付で選任することにつき議場に諮ったところ,満場一致をもって,これを承認可決した。なお,被選任者は,その席上就任を承諾した。           
 (以下省略)
 

別紙6
 
AB運送株式会社の平成20年4月27日付取締
役会の議事概要             
 取締役全員出席           
 (省略)               
 議案 代表取締役選定の件      
 議長は,戊田太郎(住所 東京都中野区中野一丁目2番3号)が取締役に就任することを条件に,同人を代表取締役に選定したい旨を述べ,その可否を議場に諮ったところ,出席取締役は満場異議なくこれを承認可決した。なお,被選定者は,席上その就任を承諾した。                
 (以下省略)             
 

別紙7
 
 平成20年6月4日付司法書士の聴取記録 
1 AB運送株式会社(変更前商号 A運送株式会社)及びB倉庫株式会社は,会社の分割をしようとする場合でも,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第15条の2第3項の規定により公正取引委員会に届け出る必要のない会社である。  

2 AB運送株式会社は,自己株式を保有していない。また,それぞれ株式を相互保有していない。            
3 AB運送株式会社は,平成20年4月11日,債権者が平成20年5月11日まで異議を述べることができる旨その他の会社法所定の事項を,官報及び日本経済新聞に掲載する方法により公告したが,知れたる債権者に対しては一切の通知をしていない。なお,異議を述べた債権者はいなかった。

4 B倉庫株式会社は,平成20年4月11日,債権者が平成20年5月12日まで異議を述べることができる旨その他の会社法所定の事項を,官報に公告し,知れたる債権者(10名)に対しては各別に通知し,同通知は翌日には到達した。なお,異議を述べた債権者はいなかった。     
     
5 B倉庫株式会社においても,平成20年4月27日開催の臨時株主総会において,平成20年4月10日付吸収分割契約書記載のとおりのAB運送株式会社との吸収分割契約が適法に承認されている。

6 AB運送株式会社の吸収分割後の資本金の額は,会社法第445条第5項の規定に従って適法に計上されている。     
7 AB運送株式会社及びB倉庫株式会社の定款には,「当会社の事業年度は,毎年4月1日から翌年3月31日までの1年とする」旨の規定がある。
 

答案用紙

第1欄
ア 登記の事由
 
イ 登記すべき事項
 
ウ 登録免許税の額(内訳の記載を要しない)
 
エ 添付書面              
 

第2欄
ア 登記の事由             
 
イ 登記すべき事項           
 
ウ 登録免許税の額(内訳の記載を要しない)
 
エ 添付書面              
 

第3欄                 
 
登記の申請を代理すべきでない事項
その理由 

解説

〈本問の出題の趣旨〉
 商号変更,目的変更,取締役の変更,吸収分割による変更登記の手続,取締役の地位にない者を代表取締役に予選することの可否についての理解を問うものである。


第1欄
1.商号変更
(1)商号の変更の実体上の手続
 株式会社は,定款に商号を定めなければならない(絶対的記載事項,会社法27条2号)。商号は,定款の絶対的記載事項であることから,これを変更する場合には,株主総会の定款変更決議をもって行う(特別決議,466条,309条2項11号)。この定款変更決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない(特別決議,309条2項11号)。

(2)本問の検討
 平成20年4月1日開催の臨時株主総会において,商号を変更する旨の定款変更決議がなされている(別紙3)。この決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(議決権のある株式の株主全員出席),出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数(満場一致)をもってなされており,有効に成立する(別紙3)。したがって,同日付で商号変更の効力が生じる。

(3)商号変更の登記手続(申請書作成上のポイント)

ア 登記の事由
「商号変更」と記載する。

イ 登記すべき事項
 商号変更については,商号を変更した旨,変更後の商号およびその年月日を記載する。

ウ 登録免許税
 登記事項の変更分に該当するので,申請1件につき金3万円を納付する(登免税法別表第一24(1)ネ)。

エ 添付書面
(ア) 株主総会議事録(商登法46条2項)
 定款変更決議が有効になされたことを証するために平成20年4月1日付の臨時株主総会議事録を添付する(別紙3)。
(イ) 委任状(商登法18条)
 代表取締役から司法書士へ宛てた委任状を添付する。


2.目的変更
(1)目的の変更の実体上の手続

①定款変更決議
 株式会社は,定款に目的を定めなければならない(絶対的記載事項,会社法27条1号)。目的は,定款の絶対的記載事項であることから,これを変更する場合には,株主総会の定款変更決議をもって行う(特別決議,466条,309条2項11号)。

②目的の適格性
 目的とは,会社の営む事業をいい,会社の権利能力の範囲を画するものである。したがって,目的は適法でなければならず(適法性),かつ,明確でなければならない(明確性)。ただし,必ずしも具体的な事業を掲げる必要はなく,目的を登記する際,その具体性については審査されない(平18・3・31民商第782号通達)。


(2)本問の検討
 平成20年4月1日開催の臨時株主総会において,目的を変更する旨の定款変更決議がなされている(別紙3)。この決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(議決権のある株式の株主全員出席),出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数(満場一致)をもってなされており,有効に成立する(別紙3)。そして,目的を「倉庫業」と定めることも差し支えない(別紙3)。したがって,同日付で目的変更の効力が生じる。


(3)目的変更の登記手続(申請書作成上のポイント)

ア 登記の事由
「目的変更」と記載する。

イ 登記すべき事項
 目的変更については,目的を変更した旨,変更後の目的(変更前の目的を含むすべての目的)およびその年月日を記載する。

ウ 登録免許税
 登記事項の変更分に該当するので,申請1件につき金3万円を納付する(登免税法別表第一24(1)ネ)。


エ 添付書面

(ア) 株主総会議事録(商登法46条2項)
 定款変更決議が有効になされたことを証するために平成20年4月1日付の臨時株主総会議事録を添付する(別紙3)。

(イ) 委任状(商登法18条)
 代表取締役から司法書士へ宛てた委任状を添付する。


3.取締役会設置会社における取締役の変更

(1)取締役会設置会社における取締役の変更の実体上の手続
取締役の就任
 取締役は,株主総会において選任される。そして,被選任者がその就任を承諾することにより,取締役就任の効力が生ずる。

(2)本問の検討
 戊田太郎および庚野三郎は,平成20年4月27日開催の臨時株主総会において,平成20年6月1日付でそれぞれ取締役に選任されている(別紙5)。そして,同総会において席上就任を承諾している(同別紙)。したがって,同日付で取締役に就任する。

(3)取締役の変更登記手続(申請書作成上のポイント)

ア 登記の事由
「取締役の変更」と記載する。

イ 登記すべき事項
 就任した取締役につき氏名,就任した旨およびその年月日を記載する。

ウ 登録免許税
 資本金が1億円以下の会社においては,役員変更分として,申請件数1件につき1万円を納付する(登免税法別表第一24(1)カ括弧書)。

エ 添付書面

(ア) 株主総会議事録(商登法46条2項)
 取締役の選任決議を証するために,平成20年4月27日付の臨時株主総会議事録(別紙5)を添付する。

(イ) 取締役の就任承諾を証する書面(商登法54条1項) 
 平成20年4月27日開催の臨時株主総会で取締役が選任され,その議事録に被選任者が席上就任を承諾している旨が記載されているので,就任承諾を証する書面として,議事録の記載を援用することができる。本問では必ず援用しなければならないことに注意する(答案作成上の注意事項4)。

(ウ) 委任状(商登法18条)
 代表取締役から司法書士へ宛てた委任状を添付する。


4.株式会社間の吸収分割

(1)株式会社間の吸収分割の手続

①吸収分割契約の締結
 吸収分割をする場合においては,吸収分割株式会社と吸収分割承継株式会社との間で,吸収分割契約を締結しなければならず(会社法757条後段),吸収分割契約において,一定の事項を定めなければならない(758条)。

②債権者に対する公告および催告
 吸収分割後吸収分割株式会社に対して債務の履行(当該債務の保証人として吸収分割承継会社と連帯して負担する保証債務の履行を含む)を請求することができない吸収分割株式会社の債権者(会社法758条8号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては,吸収分割株式会社のすべての債権者)は,吸収分割株式会社に対し,吸収分割について異議を述べることができる(789条1項2号)。また,吸収分割承継株式会社の債権者は,吸収分割承継株式会社に対し,吸収分割について異議を述べることができる(799条1項2号)。

 吸収分割株式会社,または,吸収分割承継株式会社の債権者の全部または一部が異議を述べることができる場合における吸収分割株式会社は,会社法所定の事項および債権者が1か月を下らない一定の期間内に異議を述べることができる旨を,官報に公告し,かつ,知れている債権者(異議を述べることができるものに限る)には,各別にこれを催告しなければならない(債権者保護手続,789条2項・1項2号,799条2項・1項2号)。

 そして,債権者が当該期間内に異議を述べなかったときは,当該債権者は,当該吸収分割について承認をしたものとみなされるが(789条4項・2項4号,799条4項・2項4号),債権者が当該期間内に異議を述べたときは,吸収分割株式会社は,当該債権者に対し,弁済し,もしくは相当の担保を提供し,または当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等(信託会社および信託業務を行う金融機関,449条5項)に相当の財産を信託しなければならない(789条5項本文,799条5項本文)。ただし,当該吸収分割をしても当該債権者を害するおそれがないときは,当該債権者に対し,弁済し,もしくは相当の担保を提供し,または当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託することを要しない(789条5項ただし書,799条5項ただし書)。

 なお,吸収分割に際して,債権者保護手続における債権者に対する公告を,官報のほか,定款で定めた公告方法に従い,時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法または電子公告によりするときは,知れている債権者に対する各別の催告(吸収分割会社にあっては,不法行為によって生じた吸収分割株式会社の債務の債権者に対するものを除く)は,することを要しない(789条3項・2項,939条1項2号・3号,799条3項・2項,939条1項2号・3号)。

③吸収分割契約の株主総会による承認
 吸収分割株式会社および吸収分割承継株式会社は,効力発生日の前日までに,原則として,株主総会の特別決議によって,吸収分割契約の承認を受けなければならない(783条1項,795条1項,309条2項12号)。

④効力発生時期
 吸収分割の効力は,原則として,吸収分割契約で定めた効力発生日に生じる(759条1項・4項)。


(2)本問の検討
 AB運送株式会社とB倉庫株式会社は,平成20年4月10日に吸収分割契約を締結し,B倉庫株式会社が倉庫業に関して有する権利義務の全部を分割し,分割後AB運送株式会社に承継させる旨,分割に際してAB運送株式会社は,普通株式200株を発行し,そのすべてをB倉庫株式会社に交付する旨の吸収分割契約書を作成した(別紙4)。

 また,吸収分割契約書によれば,AB運送株式会社は,当該吸収分割に際して資本金の額を1,000万円増加するものとしているが(同別紙),これは,会社法445条5項の規定に従って計上された額であるため問題はない(別紙7の6)。そして,AB運送株式会社は,平成20年4月11日,債権者が平成20年5月11日まで異議を述べることができる旨その他の会社法所定の事項を,官報および日本経済新聞に掲載する方法により公告しているが(別紙7の3),異議を述べた債権者はいなかった(同別紙)。

 なお,知れたる債権者に対しては一切の通知をしていないが(同別紙),官報および日本経済新聞に掲載する方法により公告しているので差し支えない。B倉庫株式会社は,平成20年4月11日,債権者が平成20年5月12日まで異議を述べることができる旨その他の会社法所定の事項を,官報に公告し,知れたる債権者に対しては各別に通知し,同通知は翌日には到達したが(別紙7の4),異議を述べた債権者はいなかった(同別紙)。

 また,AB運送株式会社においては,平成20年4月27日開催の臨時株主総会で,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主(議決権のある株式の株主全員)が出席し,その議決権の3分の2以上に当たる多数(満場一致)により吸収分割を承認する旨の決議が有効に成立している(別紙5)。
 また,B倉庫株式会社においても,平成20年4月27日開催の臨時株主総会において,平成20年4月10日付吸収分割契約書記載のとおりのAB運送株式会社との吸収分割契約が承認されている(別紙7の5)。したがって,当該吸収分割は,吸収分割契約書に記載された平成20年6月1日に生じる。


(3)吸収分割による変更の登記手続

①登記申請手続
 株式会社が吸収分割をしたときは,その効力が生じた日から2週間以内に,その本店の所在地において,吸収分割株式会社および吸収分割承継株式会社についての変更の登記をしなければならない(923条)。

 本店の所在地における吸収分割株式会社がする吸収分割による変更の登記の申請は,当該登記所の管轄区域内に吸収分割承継株式会社の本店がないときは,吸収分割承継会社の本店の所在地を管轄する登記所を経由してしなければならず(商登法87条1項),また,吸収分割株式会社の本店の所在地における吸収分割株式会社がする吸収分割による変更の登記の申請と,吸収分割承継株式会社がする吸収分割による変更の登記の申請とは,同時にしなければならない(87条2項,85条)。

 本問では,B倉庫株式会社の本店の所在地を管轄する登記所の管轄区域内にAB運送株式会社の本店がないため(答案作成上の注意事項7,別紙1,2参照),B倉庫株式会社がする登記の申請は,AB運送株式会社の本店の所在地を管轄する登記所を経由してしなければならない。


②申請書作成上のポイント
吸収分割承継株式会社における変更登記

ア 登記の事由
「吸収分割による変更」と記載する。

イ 登記すべき事項
 吸収分割承継株式会社がする吸収分割による変更の登記においては,吸収分割の効力発生日のほか,分割をした旨ならびに吸収分割株式会社の商号および本店をも登記しなければならない(84条1項参照)。また,発行済株式の総数および資本金の額の変更の年月日は,吸収分割の効力発生日を記載する。

ウ 登録免許税額
 吸収分割による変更の登記の登録免許税は,吸収分割に際して吸収分割会社の資本金の額が減少しない限り,増加した資本金の額に1000分の7を乗じた額である。ただし,以上により算定した税額が3万円に満たないときは,申請件数1件につき3万円となる(登免税法別表第一24(1)チ)。本問においては,吸収分割会社の資本金の額に変動がなく,増加した資本金の額1,000万円に1000分の7を乗じた額は金7万円である。

エ 添付書面
(ア) 吸収分割契約書(商登法85条1号)
 平成20年4月10日付の吸収分割契約書(別紙4)を添付する。

(イ) 株主総会議事録(商登法46条2項)
 吸収分割契約の承認決議がそれぞれ有効になされたことを証するため,平成20年4月27日開催の臨時株主総会の議事録(別紙5)を添付する。

(ウ) 公告をしたことを証する書面(商登法85条3号)
 AB運送株式会社において,吸収分割に伴う債権者に対する公告を行ったことを証する平成20年4月11日付官報および日本経済新聞(別紙7の3)を添付する。なお,異議を述べた債権者はいなかったため(同別紙),その旨を申請書に記載する。

(エ) 資本金の額が会社法第445条第5項の規定に従って計上されたことを証する書面(商登法85条4号) 
 吸収分割に際して資本金として計上された額が法務省令(計算規則63条~67条)の規定に従って計上されていること(別紙7の6)を証するため添付する。具体的には,代表取締役の作成に係る証明書(計算規則63条1項1号イおよびロ等の額を示す等の方法により,資本金の額が会社法および会社計算規則の規定に従って計上されたことを確認することができるもの)等がこれに該当する(平18・3・31民商第782号通達)。

(オ) 吸収分割会社の登記事項証明書(商登法85条5号本文)
 AB運送株式会社の本店の所在地を管轄する登記所の管轄区域内にB倉庫株式会社の本店がないため(答案作成上の注意事項7,別紙1,2),B倉庫株式会社の登記事項証明書で作成後3か月以内のもの(商登規則36条の2)を添付する。

(カ) 吸収分割会社の株主総会議事録(商登法85条6号) 
 B倉庫株式会社において,吸収分割契約の承認決議が有効になされたことを証するため,平成20年4月27日開催の臨時株主総会の議事録(別紙7の5)を添付する。

(キ) 公告及び催告をしたことを証する書面(商登法85条3号) 
 B倉庫株式会社において,吸収分割に伴う債権者に対する公告および催告をしたことを証するため,平成20年4月11日付官報および知れたる債権者(10名)に対する催告書の控え10通の合計11通(別紙7の4)を添付する。
 なお,異議を述べた債権者はいなかったため(同別紙),その旨を申請書に記載する。

(ク) 委任状(商登法18条) 
 AB運送株式会社の代表取締役から司法書士への委任状を添付する。

第2欄
吸収分割株式会社における変更登記

ア 登記の事由
「吸収分割による変更」と記載する。

イ 登記すべき事項
 吸収分割の効力発生日のほか,分割をした旨ならびに吸収分割承継株式会社の商号および本店をも登記しなければならない。

ウ 登録免許税額
 吸収分割による変更登記の登録免許税額は,登記事項変更分として,金3万円である(登免税法別表第一24(1)ネ)。

エ 添付書面
(ア) 印鑑証明書(商登法87条3項前段)
 登記所が作成したB倉庫株式会社の代表取締役の印鑑証明書で作成後3か月以内のもの(商登規則36条の2)を添付する。

(イ) 委任状(商登法18条)
 B倉庫株式会社の代表取締役から司法書士法務太郎への委任状を添付する。


第3欄 
取締役会設置会社における代表取締役の予選の可否

(1)取締役会設置会社における代表取締役の予選の可否
 取締役ABCが存する場合において,取締役会において,将来Dが取締役に選定される(就任する)ことを条件に予めDを代表取締役に選定するような代表取締役の予選は認められない(商事法務1296P42参照)。これは,代表取締役の選定決議をする時点における取締役会の構成員と代表取締役の就任の時点における取締役会の構成員が同一でないため,代表取締役はその監督機関である取締役会において,その選定決議をする時点で取締役の地位を有する者の合議によって,取締役の地位を有する者の中から選定しなければならないとする会社法の規定(会社法362条3項)の趣旨に反するからである。

(2)本問の検討
 平成20年4月27日開催の取締役会において,現在取締役の地位にない戊田太郎を,同人が取締役に就任することを条件に代表取締役に選定する旨の決議がなされている(別紙6)。しかし,このような決議は,現に取締役の地位を有する者の合議によって,それらの者の中から代表取締役を選定すべきであるとする会社法の規定の趣旨に反するため認められない。したがって,この決議は無効となるため,この事項は登記の申請を代理すべきでない事項となる。

解答例

第1欄
ア 登記の事由             
 
商号変更               
目的変更               
取締役の変更             
吸収分割による変更          
 
イ 登記すべき事項           
 
平成20年4月1日次のとおり変更    
 商号 AB運送株式会社       
同日変更               
 目的 1 一般貨物自動車運送事業  
    2 倉庫業          
    3 前各号に附帯する一切の業務
平成20年6月1日次の者就任
 取締役 戊田太郎,同 庚野三郎   
平成20年6月1日東京都中央区月島一丁目2
番3号B倉庫株式会社から分割     
平成20年6月1日次のとおり変更    
 発行済株式の総数 1,800株
 資本金の額  金9,000万円      
 
ウ 登録免許税の額(内訳の記載を要しない)
 
金11万円              ※1
 
エ 添付書面              
 
吸収分割契約書           1通
株主総会議事録           2通
公告をしたことを証する書面     2通
 異議を述べた債権者はいない     
資本金の額が会社法第445条第5項の規定に
従って計上されたことを証する書面  1通
吸収分割会社の登記事項証明書    1通
吸収分割会社の株主総会議事録    1通
取締役の就任承諾を証する書面     
 株主総会議事録の記載を援用する   
公告及び催告をしたことを証する書面 11通
 異議を述べた債権者はいない     
委任状            1通 ※2
 

第2欄
ア 登記の事由             
 
吸収分割による変更          
イ 登記すべき事項           
平成20年6月1日東京都港区新橋一丁目2番3号AB運送株式会社に分割

ウ 登録免許税の額(内訳の記載を要しない)
金3万円  
             
エ 添付書面              
 
印鑑証明書             1通
委任状               1通


第3欄                 
 
登記の申請を代理すべきでない事項
代表取締役戊田太郎の就任
その理由 
 AB運送株式会社においては,平成20年4月27日開催の取締役会において,現在取締役の地位にない戊田太郎を,同人が取締役に就任することを条件に代表取締役に選定する旨の決議を行っている。しかし,このような決議は,現に取締役の地位を有する者の合議によってそれらの者の中から代表取締役を選定すべきであるとする会社法の規定の趣旨に反するため認められない。したがって,この決議は無効となるため,この事項は登記の申請を代理すべきでない事項となるからである。

※1 本問においては,吸収分割による資本増加分金7万円(登免税法別表第一24(1)チ),役員変更分として金1万円(同カ),商号変更および目的変更の変更分として金3万円(同ネ)の合計額として金11万円となる。

※2 代理人に対し,複数の登記申請に関する事項を委任する旨が記載された委任状1通を添付すれば足りる。