民法判例 「抵当権の及ぶ範囲」 山本有司
事件屋司法書士 民法判例 第25回
弁護士 山本有司
こんにちは,山本有司です。
事件屋司法書士民法判例第25回へようこそ。
今日の事件は,とても古くて,とても有名な,抵当権の及ぶ範囲に関するものです。
事 件
Aは,大正14年10月28日,Yと,自己所有の家屋を目的物とする抵当権設定契約を締結しました。

この建物は,抵当権設定契約設定時には,ほぼ完成していたものの,本件で問題となった「表入口用檜腰高硝子戸2枚,外側雨戸用杉硝子戸7枚,その他数十点の畳建具」(以下「建具等」といいます)は備え付けられておらず,同年11月8日から翌12月25日にかけて備え付けられました。

Aは,昭和2年7月21日,Xに対し,建具等を,担保目的で売り渡し(売渡抵当),買い受けたⅩは,買受けと同時にこれを,賃貸借期間2年,賃料月額22円でAに貸し渡しました。
Xは,昭和3年2月10日,Aが建具等の賃料を滞納したことから,賃貸借契約を解除し,建具等の返還を求めて訴えを提起しました。

一方Yは,
昭和3年8月24日,建物を目的とした前記抵当権を実行しました。競売の結果Y自らがこれを競落し,建物所有権を取得しました。

これによりAは,Yに家屋を明け渡し,Yは建具等が備え付けられた本件建物を占有するに至りました。

昭和3年11月7日,XがAに対し,建具等の返還を求めた前記訴訟について,Aが本件係争の建具等をⅩに返還することを内容とする和解が成立しました。

そこでXはYに対し,本件建具等について,所有権に基づき返還請求をしました。これが本件です。
事案の整理
XとYの間で争われているのは,建具等の帰属です。
本件建具等は,抵当権設定契約後に付属させられたものです。建物上の抵当権の効力が設定後に付属させられた本件建具等に及んでいるとすれば,抵当目的物の競落人Yは,競売目的物である本件建物とともに建具等をも取得することになります。
一方,本件建具等に抵当権の効力が及んでいないとすれば,建具等を当時の所有者から譲り受けたXに所有権が認められるはずです。Xは,建具等を手に入れるため,建具等に建物抵当権の効力が及んでいないことを裁判所に認めさせたいところです。
抵当権の効力に関する規定を確認してみましょう。
関連条文
抵当権の効力の及ぶ範囲については,370条が定めています。
370条
抵当権は,抵当地の上に存する建物を除き,その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし,設定行為に別段の定めがある場合及び第424条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は,この限りでない。
本条は,抵当権の効力は「付加一体物」に及ぶと規定しています。そこで問題となるのが,「付加一体物」の範囲です。付合物は不動産の所有に帰属する(242条本文)ので,付合の時期を問わず付加一体物にあたり,抵当権の効力が及ぶことに争いはありません。
しかし,本件建具等は付合物ではなく,従物の典型です。そして,従物が付加一体物に含まれるかについては争いがあります。従物に関する87条を見ましょう。
87条
物の所有者が,その物の常用に供するため,自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは,その附属させた物を従物とする。
従物は,主物の処分に従う。
原審は,本件建具等が「容易ニ建物ヨリ分離シ自由ニ取り外シ得ルモノ」(「容易に建物より分離し,自由に取り外すことができるもの」)であり,従物にすぎないとして,Yの主張を斥けました。
すなわち,従物は民法370条の付加一体物にはあたらず,したがって,抵当権の効力は及ばない,と判断したのです。
これに対してYは,本件係争物件中,畳建具を除いた硝子戸については,これは建物の付加一体物であり,建物上の抵当権の効力は,これらにも及ぶと主張して上告しました。
裁判所の見解
大審院昭和5年12月18日第一民事部判決は,原判決を破棄し差し戻しました。
畳建具ノ類ハ其ノ建物ニ備付ケラレタルトキト雖一般ニ独立ノ動産タルノ性質ヲ失ハザルヲ通例トスルモ,雨戸或ハ建物入口ノ戸扉其ノ他建物ノ内外ヲ遮断スル建具類ノ如キハ一旦建物ニ備付ケラルルニ於テハ建物ノ一部ヲ構成スルニ至ルモノニシテ,之ヲ建物ヨリ取外シ容易ナルト否トニ不拘,独立ノ動産タル性質ヲ有セザルモノト云ハザルベカラズ。
蓋此等ノ建具類ハ取引ノ目的物タル建物ノ効用ニ於テ其ノ外部ヲ構成スル壁又ハ羽目卜何等ノ択ブトコロナキヲ以テナリ。
(口語訳)
畳や建具等は,これらがその建物に備え付けられた場合であっても,一般的には独立の動産であるという性質を喪失しないのが通常であるが,雨戸や建物入り口の扉その他の建物の内外を遮断する建具等は,一旦建物に備え付けられた後は建物の一部を構成するものとなるのであり,取外しが容易か否かにかかわらず独立の動産としての性質を失うものである。
原判決ハ,本件ニ於テⅩガ引渡ヲ求ムル物件ハ建物ノ畳建具類ナルモ何レモ容易ニ建物ヨリ分離シ自由ニ取外シ得ルモノナルガ故ニ,之ヲ目シテ建物ニ附加シテ之卜一体ヲ為セルモノト解スルヲ得ズト云フモ
(口語訳)
原判決は,本件においてXが引渡しを求めている物件は建物の畳建具等であるが,どれも簡単に建物から取り外せるものであるというが
表入口用檜腰高硝子戸・外側雨戸用杉硝子戸・其ノ他建物ノ内外ヲ遮断スル多数ノ物件ヲ包含スルコト明ニシテ,此等ノ物件ガ建物卜一体ヲ為スヤ否ヤハ,単ニ建物ニ対スル物理的関係ノミニヨリ之ヲ観察スベキモノニアラズ。
宜シク其ノ箇々ニ就キ建物ノ取引上ノ効用ニ照シ之ガ性質ヲ判断スベキモノ
(口語訳)
表入口用檜腰高硝子戸・外側雨戸用杉硝子戸,その他建物の内外を遮断する多数の物件を含んでいることは明らかであり,これら多数の物件が建物と一体をなすものであるかどうかは,単に建物に対する物理的関係だけで結論づけるべきものではない。
個々の物について,建物の取引上の効用に照らしてその性質を判断すべきである。
大審院はこのように判示して,原審の審理のみからではYの所有物でないとは断定できないとしました。
これでいいのか
本判決が述べる内容をまとめると,次のようになります。
① 畳や建具は,建物に備え付けられたからといって,動産としての性質を失うものではない。
② 付加一体物であるか否かは「建物ニ対スル物理的関係」のみではなく,「建物ノ取引上ノ効用」に照して判断すべきであり,「建物ノ内外ヲ遮断スル建具類」は「建物ノ一部ヲ構成スル」ものだから,「独立ノ動産タル性質」を有するものではない。
③ 抵当権設定後に備え付けられた付加一体物にも抵当権の効力は及ぶ。
そもそも370条にいう「付加一体物」に87条の「従物」は含まれるのでしょうか。
付加一体物に従物が含まれると解すれば,従物は370条を根拠として抵当権の効力の及ぶ範囲に含まれることになります。
付加一体物の「一体」性を物理的観点からではなく,経済的観点から理解しようという考える立場は,不動産と経済的に一体性と認められる物を付加一体物と考えます。この立場によれば,従物は,主物たる不動産との経済的一体性を根拠に,付加一体物と認められることになります。
本件で問題となった畳や建具は,建物の従物の典型ですから,これらについて,抵当権の効力は370条によって及ぶことになります。
しかし本判決は,内外遮断の建具等を除き,原則として建具等に独立の動産としての存在を認め,民法370条の付加一体物には該当しないと解しました。判例は,付加一体物にいう「一体」性につき,物理的一体性を重視したものと評価できます。
判例のような立場に立つと,370条によって従物を抵当権の効力の範囲に置くことはできません。
そこで主張されるのが,87条2項によって従物に抵当権の効力を及ぼすことです。82条2項は,従物は主物の処分に従うと規定していますから,この「処分」として抵当権の効力を及ぼそうとするのです。この立場では「処分」とは何かが問題とされます。
「処分」を抵当権の「設定」と考えれば,抵当権設定契約時に存在した従物には,87条2項により抵当権の効力が及びます。しかし,この考えでは,本件のように抵当権設定契約後に備え付けられた従物に抵当権の効力を及ぼすことはできません。
そこで,「処分」を抵当権の「設定」と解するのではなく,抵当権の「実行」と解する立場が登場します。これによれば,抵当権「実行」までに備え付けられた従物に抵当権の効力を及ぼすことができます。
もちろん,以上は論理の問題であり,抵当権の効力を何処まで拡大するのが妥当なのかという価値判断とは別物です。取引の拡大のために担保権の充実が不可欠と考えるのか,それとも……。
その判断は,おのおのが行うべきことでしょう。
では,また。
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