はじめての民事訴訟法「判決効力2」安部一郎
(住宅新報社講師) 安部一郎
1はじめに
皆さん,こんにちは。はじめての民事訴訟法の第11回を始めます。
前回は,判決の成立手続,そして判決が成立したときの効力のさわりをお話ししました。
今回は,判決の効力の続きです。
たとえば,AがBに対して「金1,000万円支払え」との訴訟を起こしたところAが勝訴し,その判決が確定した場合,その判決には,どのような力が生じるのでしょうか。
まず,既判力というものが生じます。簡単にいえば,「判決で宣言した権利関係について,不服をいえなくなる(拘束される)」という効力です。
〈民訴の基本〉
既判力=不服をいえなくなる力(拘束力)
ここで問題となることが3つあります。
(1) どのような法律関係について拘束されるのか(既判力の「客観的範囲」といいます)
(2) いつの法律関係なのか(既判力の「時的限界」といいます)
(3) 誰が拘束されるのか(既判力の「人的限界」といいます)
この3つ,「誰が」「いつの時点の」「どういう法律関係」について拘束されるのかを,これからみていきます。
2既判力の客観的範囲
(1)原則
民事訴訟法114条1項では,「確定判決は,主文に包含するものに限り,既判力を有する」と規定しています。
判決文には,主文とその理由が記載されています。主文というのは,その判決の「結論部分」,理由というのはその名のとおり「結論にいたった理由」が記載される部分です。
判決には,さまざまなことが書かれますが,そのすべてについて既判力が生じるわけではなく,「主文」に記載されている事項についてだけ既判力が生じるのです。
では,主文には何が記載されるのでしょうか。
それは,訴訟物です。主文には,「訴訟物があるか,ないのか」が記載されます。
そして理由には,「訴訟物があると判断した理由」「訴訟物がないと判断した理由」が記載されるのです。
回りくどくなりましたが,ここで既判力の対象が分かると思います。
〈民訴の基本〉
既判力は,訴訟物について生じる。
事例で説明しましょう。
事例1
①XがYを被告として,甲土地の売買代金債権の支払請求訴訟を提起
②訴訟の中でYが「平成○年×月△日に代金債務を弁済した」という主張をしたところ,それが認定される。
③Xの敗訴判決が出される。
ここで,「平成○年×月△日に代金債務を弁済した」という事実について,既判力が生じるのでしょうか。
既判力は,訴訟物について生じます。
では,この訴訟の訴訟物は,何でしょうか。
代金債権です。
そして,原告Xが敗訴したので,「代金債権は存在しない」ということについて既判力が生じます。
「平成○年×月△日に代金債務を弁済した」という事実は理由に記載されることなので,この事実については既判力が生じません。
事例2
①XがYに対して,甲土地の売買を原因とする移転登記請求訴訟を提起
②訴訟の中で,Yが同時履行の抗弁権を主張し,認定される。
③引換給付判決が出される。主文には「被告は残代金50万円の支払と引き換えに原告に対し,所有権移転登記をせよ」と記載されている。
ここで,被告が残代金が実は100万円であったとして100万円の支払を求める訴えを提起することが許されるのでしょうか。
この訴訟の訴訟物は移転登記請求権です。そして,その移転登記請求権について存在するという認定がされています(そうでなければ,移転登記をせよ,という判決は下しません)。
したがって,売買代金債権は訴訟物ではないので,「主文には記載されていますが」既判力は生じません。
したがって,後日に100万円の支払訴訟を提起することは認められます(司法書士試験 昭和59年第5問肢3参照)。
事例3
①Xが不法占有しているYに対して,占有訴権を提起
②Ⅹが敗訴
ここで,後日XがYに対して「所有権に基づく物権的請求権」を行使して返還請求訴訟を起こすことができるでしょうか。
この訴訟の訴訟物は「占有権」です。Xに占有権がないことについて既判力が生じます。
したがって,所有権に基づき同一物の返還を請求することは可能です。訴訟物が異なるからです。
(2)例外 ~相殺の抗弁~
民事訴訟法114条2項では「相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は,相殺をもって対抗した額について既判力を有する」と規定しています。
相殺をしたという事実は「理由」に記載されることなのですが,既判力が生じるのです。
事例4
①AがBに対して,貸金100万円の支払訴訟を提起
②BもAに対して,貸金100万円を有していることを主張し,訴訟で相殺の抗弁を提出(訴訟で相殺を主張した)したところ,それが認定された。
③A敗訴の判決が出される(AがBに対して支払え,という訴訟を起こしているところ,Aの債権が消滅しているのでAが敗訴することになります)。
主文には,「原告の請求を棄却する」と記載されており,理由には「BはAに対して債権を有しており,Bの相殺の意思表示によって消滅した」と記載されている。
既判力は,何について生じるのでしょうか。
まず,訴訟物であるAからBに対する債権について生じます。AからBに対する債権が存在しないことについて,既判力が生じます。
また,相殺の事実について判決理由中に記載されていますが,そのことについて既判力が及ぶので,Bの反対債権が相殺によって消滅したことについても既判力が生じるのです。
なぜかといいますと,もし,Bの債権消滅について既判力が及ばないとすると,理論上,後日BはAに対してその100万円の債権について返還請求訴訟を提起できることになってしまい,不公平となるのです(相殺で一度行使したにもかかわらず,もう一度行使することを認めるのは不公平でしょう)。
そのため,相殺については理由に記載されることだとしても,既判力が生じることとしているのです。
事例5
①AがBに対して,貸金100万円の支払訴訟を提起
②BもAに対して,貸金150万円を有していることを主張し,訴訟で相殺の抗弁を提出したところ,それが認定された。
③A敗訴の判決が出される。
この後,Bが「50万円」の支払請求訴訟を提起することは許されるのでしょうか。
これは許されます。相殺の抗弁には既判力が生じますが,それは「相殺をもって対抗した額」だけなのです(114条2項)。
この事例では「相殺をもって対抗した額」は100万円なので,残額50万円については既判力が生じません。
3既判力の時的限界
判決によって,「権利があるか,権利がないか」の判断をしますが,では,それはいつの時点のことでしょうか。
たとえば,甲が乙に対して「貸金返還請求訴訟」を提起したところ,甲が勝訴したとします。下記のいつの時点で,甲に貸金債権があると認定されたのでしょうか。
1/1 訴訟提起
2/1 口頭弁論開始
3/1 口頭弁論終結
4/1 判決の言渡し
5/1 判決確定
正解は3/1の時点,つまり口頭弁論終結の時に権利があると認定されるのです。この時点に権利があるということが確定するので,これに反する主張は認められなくなります。
それでは,この訴訟の後「訴訟ではいわなかったけど,実は1/15には弁済をしていました」という乙の主張は認められるでしょうか。これは認められません。
なぜなら,この主張を認めると3/1の時点では権利が存在しないことになるでしょう。「3/1の時点では権利がある」ということに矛盾する主張になるのです。
このように,判決が確定すると「いかに真実であっても口頭弁論終結前の主張はシャットアウトされる」ことになります。これを既判力の遮断効といいます。
「弁済をしているのにそれを主張できないのは,かわいそうだなぁ」と思う必要はありません。1/15の時点で弁済をしているのであれば,そのときは訴訟の最中だったはずです。
その訴訟でいわなかったのですから,その後,いえなくなったとしても,それは自己責任でしょう。
一方,この訴訟の後「5/1に弁済をしました」という乙の主張は認められるでしょうか。
これは認められます。この主張を認めても「3/1の時点では権利がある」ということに矛盾することにはなりません(3/1には権利があったが,5/1に弁済して消滅したということになるのです)。
4主観的範囲(人的限界)
ここまでで,既判力は「口頭弁論終結時の訴訟物」についての判断であることが分かりました。それでは,その判断について誰が拘束されるのでしょうか(誰がもう不服をいえなくなるのでしょうか)。
これは民事訴訟法115条に規定されています。これは非常に重要な条文です。
(1)原則
既判力は,訴訟の当事者(原告・被告間)にだけ及ぶのが原則です(115条1項1号)。
たとえば,AがBに対して所有権確認訴訟を提起したところAが勝訴したとします。
「口頭弁論終結の時点ではAに所有権がある」ということが確定しました。
その後,BがAに対して所有権確認訴訟を起こすことはできませんが,第三者(C)が所有権確認の訴えを提起することはできます。
ABの訴訟の結果は,その訴訟で主張等をした「当事者AB」を拘束しますが,その訴訟に関与していないCを拘束することはできないからです。
(2)例外 ~当事者以外の第三者にも既判力が及ぶ場合~
①口頭弁論終結後の承継人(115条1項3号)
口頭弁論終結後に,訴訟物を当事者から承継した者は既判力を受けます。一例を出しましょう。
アAがBを被告として,甲土地の所有権確認を提起
イAが勝訴
これによって,「口頭弁論終結時に,甲土地の所有権がAに帰属すること」につき既判力が,AB間において生じます。
ウ口頭弁論終結後に,CがBから甲土地を買い受けた。
では,このCにも既判力が及ぶのでしょうか。
もし,既判力は及ばないとすると今度はAとCとの争いになるでしょう。AはCに対して訴訟を起こすことになります。その訴訟でAが勝訴したとしても,その訴訟の口頭弁論終結後にCがDに譲渡すればAとDの争いになります。
これでは延々と紛争は解決しません。そのため,紛争解決のためにCに既判力が及ぶ,とするしかないのです。結果として「AB間訴訟の口頭弁論終結時において所有権がAに帰属する」ことをCも争えなくなります。
では,次の事例を考えてください。
事例6
①甲土地の所有者BからAが売買により所有権を取得。しかし,Bが登記手続に応じない。
②AがBに対して所有権移転登記請求訴訟を提起
③Aが勝訴
④口頭弁論終結後に,CがBから甲土地を買い受け,登記を完了。
では,このCにも既判力が及ぶのでしょうか。
確かに,Cは口頭弁論終結後の承継人にはあたります。ですが,Cに既判力を及ぼすことはできません。実はCは実体法上,Aに対抗できるからです。
この事例はAを起点とした二重譲渡となっています。そしてCが登記をしている以上,BはCに対して所有権を主張することはできません。実体法の秩序でCが勝つことができるため,上記の訴訟の既判力は,Cに及ぼすことはできないのです(最判昭41・6・2)。
②請求の目的物の所持人(115条1項4号)
たとえば,AがBに対して建物明渡請求訴訟を提起したとします。ここでAが勝訴しました。それにより,Bに明渡義務があることが確定します。
実は,この建物はBがCに管理をゆだねている状態でした。現在Cが占有しています。
この場合,Cに対しても既判力が生じます。訴訟で問題となっている物を持っているという事実だけで既判力を及ぼしてしまうのです。悪い言い方になりますが「訴訟で問題になっている物を持っているのなら,既判力が及ぶ」ということです。
③訴訟担当の場合の利益帰属主体(115条1項2号)
債権者代位訴訟が典型例です。AがBに対して債権を有していて,BもCに対して債権を有しているとします。
ここで,Aが債権者代位をして,BのCに対する債権をCに対して請求したところCが拒否したので,AがCに対して訴訟を提起しました。原告はA,被告はC,訴訟物はBのCに対する債権です。
この訴訟でAが勝訴したとします。すると,「口頭弁論終結の時にBC間に債権があること」について,ABCが拘束されることになります。訴訟に参加していないBにまで既判力が生じるのです。


