ネコでも分かる民事訴訟法 「上訴2」 福田隆光
ネコでも分かる民事訴訟法第36回
行政書士 福田隆光
(1) はじめに
前回は上訴の種類まで学習しました。今回は,上訴の残りの部分についてまとめます。
(2) 上訴の要件
上訴は適法でなければなりません。上訴が不適法であるときは,本案の判断に立ち入らずに却下されます。これは,第1審の場合と同じです。
上訴が適法であるためには,次の要件を満たす必要があります。
① 原裁判が不服申立てのできる裁判であること
② 法定の期間・方式に合致して上訴が提起されていること
③ 上訴人に上訴の利益があること
④ 上訴をしない旨の合意ないし上訴権の放棄がないこと
⑤ 上訴権の濫用がないこと

(3) 控訴
①控訴とは
控訴は,第1審判決の取消し・変更を求めて,第2審裁判所に提起する上訴です。法令違反に限らず,事実認定の不当も控訴の理由になります。
その点で控訴審は第2の(かつ最終の)事実審となります。控訴の申立人を控訴人,相手方を被控訴人といいます。
控訴の対象となるのは,
簡易裁判所・地方裁判所が第1審の終局判決に限られます(281条1項)。高等裁判所が第1審(たとえば,公職選挙法203条,204条,207条,独占禁止法85~87条等)の終局判決に対しては,上告のみが許されます(311条1項)。
控訴の提起は,控訴期間内(判決の送達後2週間以内,285条)に,控訴状を原裁判所(第1審裁判所)に提出して行います(286条1項)。
控訴が不適法でその不備が補正できない場合には,第1審裁判所が決定で却下します(287条)。
控訴が適法であれば,訴訟記録は控訴裁判所に送付されます(規則174条)。
控訴裁判所の裁判長は,訴状に準じて控訴状を審査し(288条),適式と認めれば被控訴人に送達します(289条)。
適法な控訴提起があれば,控訴期間が経過しても原判決は確定しません(確定遮断の効果,116条2項)。
また,控訴の提起により,事件の係属は,第1審裁判所を離れ控訴審に移ります(移審の効果)。

②控訴の利益
控訴を提起して,第1審判決に対する不服の当否について控訴審の判断を求めることができるためには,当事者が控訴の利益を有しなければなりません。
控訴の利益の存在は,控訴の適法要件の1つであり,控訴の利益を欠く控訴は却下されます。
控訴の利益は,第1審判決により不利益を受け,判決に不服を有する当事者に認められます。
たとえば,請求の全部認容の場合には被告が,全部棄却の場合には原告が,一部認容の場合には原告・被告の双方が,それぞれ控訴の利益を有します。
これに対して,請求が全部認容された原告または請求の全部棄却を得た被告には,原則として控訴の利益は認められません(形式的不服説)。

なお,控訴人の控訴により開始された手続を利用して,控訴審の審理判断の範囲を自己に有利に拡張するための不服申立ての手段として,被控訴人に,附帯控訴(293条)をする権利が与えられています。
これは,控訴人の控訴だけでは,原判決が被控訴人に有利に変更されることはないので(不利益変更禁止の原則,296条1項,304条。
つまり,被控訴人は控訴審で全面勝訴しても原判決の状態が維持されるだけなので),公平の観点から,控訴審の審理につき合わされる立場にある被控訴人にも自己に有利な原判決の変更の可能性を認めるのが妥当であると考えられたために設けられた制度です。
③控訴審の審理・判決
控訴審の審理の方法は,第1審と無関係に最初から審理をやり直す(覆審制)のではなく,第1審で収集された資料を基礎にして,それに控訴審で新たに収集された資料を加えて,原判決に対する不服の当否を審理判断します。このような審理のやり方を,続審制といいます。
続審制の下では,控訴審の口頭弁論は,第1審で終結した弁論を続行するものであり,当事者には第1審で提出しなかった攻撃防御方法を提出する機会が与えられます。
これを,弁論の更新権といいます。しかし,その無制限な提出を認めると,当事者の第1審軽視を招き,審理の重点が控訴審に移って訴訟遅延のおそれがあります。
そこで,民事訴訟規則では,控訴人は控訴提起後50日以内に,原判決の取消し・変更を求める具体的な理由を記載した書面(控訴理由書)を提出しなければならず(規則182条),被控訴人にも,裁判長は相当の期間内に反論書の提出を命じうるものとしています(規則183条)。

控訴審手続には,特別の定めがある場合を除き,第1審手続に関する規定が準用されます(297条,規則179条)。
控訴人の不服申立てに理由がなければ,控訴は棄却されます。
これに対して,第1審判決を不当と認める場合や第1審の手続が違法であると認める場合には,控訴を認容して第1審判決を取り消さなければなりません(305条,306条)。
この取消し後には,控訴審による自判または原審への差戻しの措置が採られます(307条,308条)。
(4) 上告
①上告とは
上告は,終局判決に対してなされる法律審に提起する上訴です。
原則として,控訴審判決に対してなされます(311条1項)が,例外として,高等裁判所が第1審の場合および当事者間に飛越上告の合意がある場合(311条2項,281条1項ただし書)には,第1審判決に対して上告をすることができます。
上告審は法律審ですから,上告裁判所は原判決をもっぱら法令に違背するか否かの観点から審査するものであって,原判決の審査に際しては,原判決が適法に確定した事実に拘束されます(321条1項)。
②上告提起の方式等
上告裁判所は,簡易裁判所が第1審の事件については管轄高等裁判所であり,地方裁判所または高等裁判所が第1審の事件については最高裁判所です(311条)。
上告の提起は,上告期間内(判決の送達後2週間内,313条,285条)に,上告状を原裁判所に提出して行います(314条1項)。
上告人は,上告の提起に際して上告理由を主張しなければなりません。
一般に,上告理由は,憲法違反(312条1項),絶対的上告理由(重大な手続違反,312条2項)および相対的上告理由(判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反,312条3項)に限られます。
ただ,最高裁への上告については,法令違反は上告理由にならず,法令違反を主張する当事者は上告受理の申立てをしなければなりません(318条)。
これは,最高裁への上告理由を,憲法違反と絶対的上告理由に限定し,原判決に最高裁の判例等と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むと認められる事件に限り,最高裁が,当事者の申立てにより決定で上告審として事件を受理することができるとする制度です。
最高裁の負担を軽減し,重大な事件の充実した審理を可能にするために設けられたものといえます。
③上告審の審理・判決
控訴の規定は,特別の定めがある場合を除き,上告および上告審の手続に準用されます(313条,規則186条)。
上告審の審理は,職権調査事項(322条)を除き,上告理由に基づく不服申立ての限度でのみ行われます(320条)。上告審は,書面審理が原則であり,口頭弁論を開かずに判決で上告を棄却できます(319条)が,上告を認容する際には必ず口頭弁論を開かねばなりません。
上告審の終局判決には,上告却下,上告棄却および上告認容・原判決破棄の判決があります。
(5) 抗告
抗告は,判決以外の裁判の形式である決定・命令に対する上訴です。
終局判決前の中間的な裁判に対して不服がある場合は,終局判決に対する上訴とともに判断を受けるのが原則です(283条)。
しかし,手続の進行に付随し,またはそれから派生するような事項の解決をすべて控訴審・上告審まで持ち越すのは,手続を煩雑にし,審理を遅延させることになります。
そこで,本案との関係が密接でなく派生的かつ分離可能な場合(たとえば,除斥または忌避を理由がないとする決定,補助参加の拒否の決定など)や,終局判決に対する上訴で争う機会がない場合(たとえば,訴状却下命令,第三者に対する文書提出命令など)などについての決定・命令に対して,簡易な上訴を認めたのが抗告制度です。
抗告審の手続には,控訴審に関する規定が準用されます(331条本文,規則205条本文)。
なお,現行法は,許可抗告の制度(337条)を新たに設けました。これは,高等裁判所の決定または命令に対しては,その高等裁判所が許可した場合に限り,最高裁判所に抗告することが認められるというものです。
許可の基準は,判例相反その他の法令の解釈に関する重要な事項を含む場合であり,上告受理の基準とパラレルです。
抗告の許可があったときは,抗告があったものとみなされ(337条4項),最高裁判所は原裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令違反のある場合に,原裁判を破棄することができます(337条5項)。
(6) 再審
①再審とは
再審は,確定した終局判決に対して,その訴訟手続に重大な瑕疵があったことや,その判決の基礎資料に犯罪に相当する違法行為があったことなどを理由として,その判決の取消し(既判力の廃棄)と事件の再審判を求める非常の不服申立てです(338条)。
ここで「非常」とは,単に「通常でない」という意味です。
終局判決が確定して訴訟手続が終了した以上,その判決が尊重されなければ当事者の法的利益の安定した保護は図れません。
しかし,他方で,その判決に重大な瑕疵がある場合にまで,なお判決を覆せないというのでは,かえって正義に反し,裁判に対する信頼も損なわれてしまいます。
そこで,両者の調整として,再審事由(338条1項1号~10号)がある場合に限り,当然無効とはせずに訴えという明確な形式で,判決の取消しを認めるのが再審制度です。
ただ,再審事由は,当事者が判決確定前に,その事由に当たる事実を上訴により主張したが棄却された場合,または,それを知りながら上訴によって主張しなかった場合には,これを主張することはできません(338条1項ただし書)。これを,再審の補充性といいます。
②手続
再審の訴えには,その性質に反しない限り,その審級の訴訟手続に関する規定が準用されます(341条,規則211条2項)。
再審の訴えを不適法と認める場合には,裁判所は決定で訴えを却下します(345条1項)。
訴えを適法と認める場合には,再審事由の存否を判断し,再審事由がないと判断するときには,決定で請求を棄却します(345条2項)。
再審事由があると判断するときには,再審開始決定をし(346条1項),不服申立ての限度で審理を行います(348条1項)。
その結果,原判決を正当でないとする場合には原判決を取り消し,これに代わる判決を行います(348条3項)が,原判決を正当とするときには,再審請求を棄却することになります(348条2項)。
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