ネコでも分かる会社法9 「取締役会」 太田雅幸
(弁護士) 太田雅幸
前田 うちの会社も,月に一度くらい,取締役会をやっていますね。何を話し合っているのやら……。
吉田(係長) 出前でコーヒーを運んでいく喫茶店の店員さんが言っていたけど,監査役はテーブルの上に鼻毛のお地蔵さんをお祀りしているらしいね,毎回。
前田 なんだか,会社法に書いてあることとのギャップがすごいですね。
吉田 まぁ,うちみたいな小さな会社がきちんと取締役会を開催しているというだけでも,ほめてもらわないとね。だれもほめちゃあくれないから,せめて自分たちでほめ合わないとね。
◇取締役会の仕事①~業務執行の決定~
吉田 会社法は,取締役会の仕事としては,鼻毛地蔵以外に何て書いてあるかな。
前田 362条2項に書いてあります。1つ目が,取締役会設置会社の業務執行の決定です。
吉田 業務執行の決定というのは,具体的には……。
前田 工場を建設することを決めたり……契約を締結することを決めるというようなことですね。
吉田 そうすると,取締役会の席にコーヒーを運んでもらうことも取締役会で決議するということかねぇ。その決定に基づいて,代表取締役が喫茶店に注文をするということか。
前田 いや,そこまで小さなことは,いくらなんでも……。大きなことを決めているだけで,小さなことは下々の者に任せているんじゃないでしょうか。
吉田 そうだね。一定の重要事項は取締役会が自ら決定しないといけないが,そうでない事項は代表取締役や業務執行取締役(363条1項)に意思決定を委任することができるのだね。
条文的にも,362条4項をみると「取締役会は,次に掲げる事項その他重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない」となっている。ということは,逆にいえば,
重要でない業務執行の決定は委任することができるということを含意しているわけだ。
第8回講義では,取締役会設置会社における業務執行について,次のように説明したはずだ。
取締役会設置会社
----------------------------
業務執行
取締役会(362条2項1号)が業務執行の意思決定
代表取締役および業務担当取締役(363条1項)が業務執行
----------------------------
しかし,こう考えてくると,次のように考え直したほうがよいようだ。
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取締役会設置会社
業務執行
取締役会(362条2項1号)が業務執行の意思決定
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代表取締役および業務担当取締役が意思決定
代表取締役および業務担当取締役(363条1項)が業務執行
----------------------------
前田 その重要事項を例示したのが,362条4項の各号列記の部分ということですね。
吉田 そうだね。ところで,362条4項1号の「重要な財産の処分および譲受け」,また2号の「多額の借財」というのは,いくらくらいのことをいうのだろうね。
前田 ……。1億円くらい以上ですか。
吉田 よく考えてごらん。君にとって1,000万円は,すこし多額の借財だろうが,私にとって1,000万円は,たかだか1月の小遣いくらいのものだ。
そうすると,会社によって重要かどうか,多額かどうかは違うということになるねぇ。つまり,会社の純資産や売上げ,規模などによって決まってくるのであって,一概にはいえないということだね。
世界のソニーが20坪くらいの所有地を売るのと,下町の町工場が同じことをするのとでは意味合いが違うということだ。
前田 よく分かります。ということは,ソニーであれば,代表取締役限りの判断で売却することができるのに,町工場では取締役会決議が必要ということになるわけですね。
吉田 次に362条4項3号の支配人等の選任および解任や4号の支店等の設置,変更および廃止も取締役会決議事項だ。会社の人的物的設備は重要ということだね。
それから,社債の募集に関する一定の事項(362条4項5号,会社法施行規則99条)も取締役会決議事項だ。
いまは詳しく説明しないけれど,社債発行の大枠だけは取締役会で決めるけれども,それ以外は代表取締役でどんどん決めていいよという仕組みになっている。
これらのほかに,株主総会の招集(298条4項),募集株式の募集事項の決定(201条1項)など,会社法の個別の条文で取締役会が決めなければならない事項を書いていることもあるね。
前田 362条4項6号は,最近流行りの内部統制というやつですね。
吉田 取締役会設置会社においては,コンプライアンス確保のために必要なものとして法務省令で定める体制(内部統制システム)の整備を行うときは,取締役会で決定しなければならないとしているね。
じゃあ,内部統制に関する体制というのは具体的に何なのかということだね。謝罪会見のとき社長にこっそり科白を仕込むときは,記者たちには聞こえないような仕組みをつくるとか?
前田 聞こえちゃあ,具合悪いですよね。内部統制ができていないことを隠すための体制をつくってどうするんですか。
そうじゃなくて,内部告発の仕組みをつくるとか,お客さま苦情相談係をつくるとか……ですか。
吉田 会社法施行規則100条1項を読むと,内部統制の大体のイメージをもつことができる。
①取締役の職務の執行に係る情報の保存・管理に関する体制,
②損失の危険の管理に関する規程その他の体制,
③取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制,
④使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制,
⑤当該会社並びにその親会社および子会社からなる企業集団における業務の適正を確保するための体制と書いてある。
文書管理,リスク管理,経営の効率性確保,従業員の法令遵守等,親会社・子会社間の利益の付替えや粉飾決算の防止等についての体制づくりについては,代表取締役だけで決めるな,取締役会で議論して決めなさいということだ。
前田 この内部統制の体制は,すべての会社が整備しなければならないのでしょうか。
吉田 いや,そうじゃない。362条5項をみれば分かるように,大会社はやらないといけないが,それ以外の会社は体制づくりそのものが任意で,体制づくりをする場合には取締役会付議事項となるという整理だね。
ただ,このような体制づくりを怠っていたとなると,従業員が会社に大損害を与える不祥事を起こしたなどというときは,取締役の責任が問われることになるだろうねぇ。
それから,もう1つ。362条4項7号があるが,取締役の会社に対する責任を取締役会決議によって軽減するという仕組みだ。混乱するといけないから,取締役の責任の部分で勉強することにしよう。
◇取締役会の仕事②
~取締役の職務執行の監督~
前田 取締役会の仕事の2つ目が,取締役の職務執行の監督です。第2回講義でも勉強しましたが,1人の取締役による独断専行を防止するため,経営者である取締役を複数人選任し,それら取締役で構成する取締役会という合議制の機関を設置して,取締役の職務執行に対する監督をさせることとしているということでしたね。
吉田 監督といっても,スクイズやヒットエンドランを指示したりはしないがね。
具体的には,代表取締役が樹立した方針について,法令に違反しないかどうか(違法性監査),もうかるかどうか(妥当性監査)を議論して,やっぱりやめようと結論づけたり,あるいは,違法行為を是正しない代表取締役や業務担当取締役に対し,注意や警告を発したり,究極的には解職決議をすることが取締役会による監督ということだ。
前田 ところで,362条2項1号をみると「業務執行の決定」とあり,2号をみると「職務の執行の監督」とあって,業務や職務が使い分けられているようにも見受けられますが……。
吉田 う~ん。
業務というのは363条1項に出てくる会社の「業務」と同じで,代表取締役がする契約の締結というような会社の行為となる場合をいう言葉で,職務というのはそのような意味の業務を執行する任に当たらないもの,たとえば,平取締役が取締役会で議論をする行為なども広く含むということだ。
◇取締役の監視義務
吉田 ところで,取締役会が監督権限を有するということから重要なことが派生してくる。鈴木取締役は,鼻毛地蔵を立てている場合じゃないんだ。
前田 鼻毛地蔵は監査役です。鈴木さんは,眠狂四郎らしいですけどね。
吉田 眠っている間に眠る場所もなくなるくらいつらい責任を負わされるかもしれない。つまり,取締役の監視義務だ。
取締役の監視義務というのは,取締役の職務として代表取締役の職務執行を監視して,職務違反行為を防止すべき義務をいいます。
取締役会は代表取締役に対する監督権を有しているから(362条2項2号),その機能の適正な遂行を期するために,法(判例)は,取締役会の構成員である取締役に監視義務を求めるのです。
この監視義務の範囲についても議論がありますが,一般に非常に広く解釈されています。すなわち,取締役は,会社に対し,取締役会に上程された事項についてだけ監視するにとどまらず,代表取締役の業務執行一般について監視し,取締役会を通じて業務執行が適正に行われるようにする職務を有するとされるのです(最判昭48・5・22民集27-5-655)。
すなわち,取締役会に議題として上程されてきた事項をチェックする「受動的監視義務」のみならず,取締役会に上程されない事項についての監視義務(能動的監視義務)も負っていると考えるのです。
要は,取締役は,会社の業務執行の状況を把握し,会社の業務執行が違法または不当となる危険性があるときは,取締役会を招集して,これを是正する措置を執らなければならないのです。
前田 この監視義務を疎かにすると,どうなるんでしょう。
吉田 それによって会社に損害が生じた場合には,会社から損害賠償を請求されるということになるし,また,平取締役が代表取締役の放漫経営に何らチェックを入れず,結果として会社が倒産したという場合には,会社債権者から損害賠償請求を受ける可能性も出てくるね。
前者が423条1項,後者が429条の問題だね。
前田 さて,そうなると,取締役会でギラギラ目を光らせているだけでは足りず,取締役は会社の中をうろついてクンクンと怪しい臭いがしないかどうかをかぎ回っていなければならないわけですか。
吉田 犬じゃないんだから,そういうことじゃなくて。結局は,内部統制の体制をきっちりと構築しておくということが大事なんだろうね。
前田 取締役になるというのは,危険なことですね。吉田さんが起業して取締役として招聘されたりしたらどうしようかしらと,虫のいいことを考えたりしていましたが,やめておきます。
吉田 声をかけないから,大丈夫。
◇取締役会の仕事③
~代表取締役の選定・解職~
前田 もう1つの大事な仕事が代表取締役の選定・解職ですね(362条2項3号)。
吉田 代表取締役は,取締役の中から互選することになっている(362条3項)。ところで,代表取締役の選定・解職をすることができない取締役会がある。さて,それは何でしょう。
前田 委員会設置会社ですね。
吉田 ファイナルアンサー?
前田 ファイナルアンサー。はい,正解っ。委員会設置会社において会社を代表するのは執行役だから,代表取締役はいないのです。
吉田 そうだね。416条1項で,委員会設置会社の取締役会については,「362条の規定にかかわらず」として,別個に書き下ろしていて,その中に代表取締役の選定・解職は書き込まれていないよね。
そして,取締役会の仕事については業務執行の決定(416条1項1号)と,執行役等(執行役および取締役。404条2項1号)の職務執行の監督(同項2号)となっているね。
前田 条文にも,きちんと手当てがしてあるんですね。
吉田 では,次回は取締役会の運営等についてみていくことにしよう。
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