はじめての民事訴訟法No.12 「上訴」 安部一郎
(住宅新報社講師) 安部一郎
1はじめに
皆さん,こんにちは。はじめての民事訴訟法の第12回を始めます。
前回までで,判決の成立するまでの流れ・そして成立した判決の効力までをみました。いわば第一審の審理についてみたということになります。
しかし,第一審の判決に不服があれば,再度の審理を求めることができます。それが上訴です。
第一審の裁判に不服があれば,上級の裁判所に対して再審理を求めることができるのです(東京地裁で下された判決に対して,東京高裁での審理を求めるということです)。
〈民訴の基本〉上訴
上級裁判所への不服申立てのこと。 (上に上げるというイメージです)
2上訴の種類
上訴という上級の裁判所に上げる手続にも控訴・上告,そして抗告・再抗告があります。
これは,どのような裁判に対する不服なのか,そして何回目の不服なのかによって分かれているのです。
たとえば,控訴というのは「判決」に対して1回目の不服をいう手続のことを指します。
種 類 控 訴 上告 抗告 再抗告
不服の対象 判決 判決 決定・命令 決定・命令
回 数 1回目 2回目 1回目 2回目
少々わき道にそれますが,決定・命令とは何でしょうか。
裁判という用語があります。これは「裁判所の法的判断」のことです。簡単にいえば,「裁判所等が何かを決めること」でいいでしょう。
1回の訴訟の中で,裁判所はいろいろなことを決めます。「証拠調べをやります」とか,「その主張は,時期に遅れているから却下します」とか,「被告は原告に対して金○○円支払え」といろいろなことを決めます。
ですが,これらのすべてが判決と呼ばれるわけではありません。
回りくどくなりましたが,裁判所が決めるといっても形式があるということなのです。判決という形式で決めることや,決定という形式で決めることや,命令という形式で決めることがあるんだということです。
話をもとに戻しますと,先ほどの表のとおり「判決」という形式で決めたものに対しては「控訴・上告」という形で不服を述べる,「決定・命令」という形式で決めたものに対しては「抗告・再抗告」という形で不服を述べるのです。
さて表の部分の回数をみてほしいのですが,上限が分かると思います。民事訴訟では不服を言えるのは2回までなのです。
これは裏返せば,審理は最高で何回やることになるのでしょう。
そうです,第一審で1回,そして2回不服を述べ審理するので,合計で3回となります。これが三審制ということです。
試験では,このなかでも「控訴」の出題が圧倒的に多いので,今回はこの控訴に絞ってお話します。
3控訴ができる場合
学問的な表現でいえば,「控訴の利益」があるときに控訴できる権利「控訴権」が発生し,当事者はそれを行使できるということになります。
では,「控訴の利益」があるとき,つまり控訴できる場合とは一体どういうときでしょうか。
(1)形式的不服説
控訴の利益は,第一審における申立ての全部または一部が排斥されている場合に認められます(形式的不服説)。つまり,当事者が第一審で欲しかった判決(要望していた結論)より,実際の判決のほうが小さい場合に認めるのです。
〈民訴の基本〉控訴の利益
当事者が欲しかった判決>実際の判決
たとえば,原告Xが被告Yに対して「100万円を支払え」という訴訟を提起したところ,第一審の判決では「被告は原告に対して60万円支払え」という判決がでた場合を想定しましょう。
原告が欲しかった判決は「被告は原告に対して100万円支払え」というものだったはずです。ですが,実際には60万円だけです。
欲しかった判決より実際の判決のほうが小さいので,原告に控訴の利益が認められます。
また,被告が欲しかった判決は「原告の請求を棄却する」(支払わなくてよい)というものだったはずです。ですが,実際には60万円も支払うことを命じられています。
そのため,これも実際の判決のほうが小さいといえるでしょう。
結局,この事例の場合には,原告にも被告にも控訴の利益が認められるのです。
ちなみに,上記の訴訟で「被告は原告に対して100万円支払え」という判決が出た場合はどうでしょうか。
被告には控訴の利益が認められますが,原告には控訴の利益はありません(原告は,第一審における申立てが全部認容されていれば控訴の利益はない)。
(2)訴え却下判決に対する不服申立て
訴え却下判決という言葉,覚えているでしょうか。これは,簡単にいえば門前払いということでした。
実質的審理をせずに,訴訟要件を欠いているような訴訟には訴え却下判決を出して追い返してしまうのでした。
たとえば,原告Xが被告Yに対して「100万円を支払え」という訴訟を提起したところ,第一審の判決では「訴訟要件を欠いているので,原告の請求を却下とする」との判決がでた場合を想定します。
この場合,原告には控訴の利益があります。「被告は原告に対して100万円支払え」という判決がでていないからです。
問題は被告です。被告としては勝訴したのだから控訴する必要はないとも思えます。しかし,問題は既判力です。
この判決が確定したとしても,訴訟物について判断されないので訴訟物については既判力が生じません。つまり,被告は「債権がない」ことに既判力を求めていたはずが,それがもらえないのです。
そのため,訴え却下の訴訟判決に対しては,請求棄却の本案判決を申し立てた被告も控訴の利益があるとされています。
(3)控訴の利益の対象
控訴の利益は,どの部分に認められるのでしょうか。つまり,第一審でいろいろな裁判がされますが,どの部分について不服がいえるのでしょうか。
控訴の利益は,「判決の効力の及ぶ事項についてだけ認められる」とされています。つまり,既判力が生じる可能性がある部分については不服がいえるのです。つまり,原則として訴訟物についてです。
事例1
①原告Xが被告Yに対して「100万円を支払え」という訴訟を提起
②被告は,弁済の主張をする。
③弁済の主張が認められないので,被告は消滅時効の主張をする(被告としては「弁済したつもりだが,それが認められないとしても弁済期から10年以上経っているから,時効消滅しているはずだ」といいたいのです)。
④判決が下される。
主文「原告の請求を棄却する」
理由「弁済の事実はない。しかし,訴訟物の債権は時効消滅している」
この場合に,「被告」が「真実は弁済があったから,控訴したい」という控訴の申立ては認められるのでしょうか。
これはできません。弁済については,理由中の判断ですので既判力が生じません。後々になって弁済があったことを主張することは可能です。
そのため,弁済という事実を主張するために控訴をすることは認めないのです。
事例2
①原告Xが被告Yに対して「100万円を支払え」という訴訟を提起
②被告は,弁済の主張をする。
③弁済の主張が認められないので,相殺の主張をする(被告としては「弁済したつもりだが,それが認められないのなら,自分が原告に対して有している債権と相殺する」といいたいのです)。
④判決が下される。
主文「原告の請求を棄却する」
理由「弁済の事実はない。しかし,訴訟物である債権は相殺により消滅している」
この場合に,「被告」が「真実は弁済があったから,控訴したい」という控訴の申立ては認められるのでしょうか。
これは可能です。相殺という部分は理由中の判断ですが,相殺の抗弁の判断には既判力を生ずるので(114条2項),相殺によらずに勝訴するために,控訴の利益を認めるのです。
4控訴権の消滅・放棄
控訴権は,第一審判決の言渡しによって発生しますが,その後の放棄または喪失によって消滅することがあります。
(1)控訴権の放棄
控訴権発生後は,控訴権を放棄することができます(284条)。もちろん,この人はもう控訴することができません。
(2)控訴権の消滅
控訴権は控訴期間を経過すると消滅します。つまり,一定期間控訴をしないで放置すると控訴権は消滅し,もう控訴することができなくなるのです。
この控訴期間は,判決書等の送達を受けた日から2週間となるのが原則です(285条)。
5控訴提起の方法
(1)控訴状の提出
控訴の提起は,控訴状を第一審裁判所に提出してしなければなりません(286条1項)。
少々意識をしてください。実際控訴で審理するのは控訴裁判所です(東京地裁が第一審であれば,控訴の審理をするのは東京高裁です)が,控訴状という書面を提出する先は,第一審裁判所なのです。
なぜ,第一審裁判所に提出するのかといいますと,第一審裁判所がチェックをするためなのです。
控訴状の提出を受けた第一審裁判所は控訴の適法性について審査し,控訴が不適法でその不備を補正することができないことが明らかである場合,決定で控訴を却下します(287条1項)。
このようなチェックをするために,控訴状は第一審裁判所に提出するのです。
この控訴却下の決定がされないときは,原裁判所の裁判所書記官は,控訴裁判所の裁判所書記官に訴訟記録を送付し(規174条),控訴審がスタートします。
6控訴提起の効力
(1)確定防止の効力
控訴期間内に控訴の提起をすれば,第一審の判決の確定を防ぐことができます(116条2項)。裏返せば,第一審判決がでて控訴期間内に控訴をしなければ,その第一審の判決は確定して既判力が生じてしまうのです。
控訴の提起は,判決の確定を止める,既判力を止める力があります。
(2)移審の効力
第一審の判決で裁判された事項の係属は,第一審を離脱して控訴裁判所へ移ります。
7控訴審の審理
控訴審では,第一審の審理の結果を土台にして,これに新資料を追加し,第一審の判決が今なお維持できるかどうかを検討します。
つまり,控訴審の口頭弁論は,第一審の口頭弁論の続きなのです。
これを続審制といいます。
〈民訴の基本〉続審制
控訴審は,第一審の続きである。
そのため,第一審における訴訟行為は,そのまま控訴審でも効力が持続します(298条1項)。たとえば,第一審でした自白した事実については控訴裁判所でも覆すことはできません。
また,一定の場合を除いて,控訴審でも必ず口頭弁論を開いて審理しなければなりません(297条,87条1項)。
8控訴審での判決
第一審の判決との違いがありますが,特に特徴的なのは,利益変更禁止・不利益変更禁止というものです。
これは,控訴人が不服を主張しない敗訴の部分は,原判決が不当であっても,原判決より有利な判決はできず(利益変更の禁止),控訴人は最悪の場合控訴を棄却されるだけで,原判決以上の不利益な判決は受けない(不利益変更の禁止)ことをいいます。
事例3
①原告Xが被告Yに対して「100万円を支払え」という訴訟を提起
②第一審の判決では「被告は原告に対して60万円支払え」という判決がでた。
③原告が「少なくとも80万円の債権はあるはずだ」として控訴を提起
この場合に,控訴裁判所はどの範囲で判決を下すことができるのでしょうか。
金額面でいえば,「60万円から80万円」の間です。90万円の支払を命じてしまうと,それは利益変更禁止にひっかかります(求めているものより多くを与えてはいけないのです)。
また,50万円の支払を命じてしまうと,それは不利益変更禁止にひっかかります。
ただ,この結論では被告は面白くありません。どんなに控訴審で頑張って主張しても最低60万円の支払を命じられてしまうからです。
そこでこういった場合には被告も控訴します。それによって,判決の範囲は「0万円~100万円」と変わるのです。
理解度チェック
①被告は,訴えを却下した判決に対しては,請求棄却の申立てをしている場合でも,控訴を提起することはできない。
× これは可能です。ただ,もともと「訴えの却下を求めている場合」には控訴の提起はできません。求めている判決と同じ内容の判決をもらっているからです。
②控訴の提起は,控訴状を控訴裁判所に提出しなければならない。
× 控訴状は第一審裁判所に提出します。それにより第一審裁判所でチェックさせるのです。控訴の審理をするのは控訴裁判所,控訴状を提出するのは第一審裁判所と違いますので,区別しましょう。




