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「不法占拠者に対する明渡請求」 山本有司

民法判例 第26回

「事件屋司法書士」
(弁護士) 山本有司

 こんにちは,山本有司です。事件屋司法書士民法判例第26回へようこそ。
 今日は抵当権に基づく不法占拠者に対する明渡請求に関する事件を勉強しましょう。

 例によって,事案は必要に応じて簡略化しました。

 事 件
 X(原告・被上告人)は,平成元年11月10日,Aとの間で,同人所有の土地(以下,「本件不動産」といいます)について,債務者をA,極度額を3,500万円,被担保債権の範囲を金銭消費貸借取引等とする根抵当権(以下「本件根抵当権」といいます)の設定契約を締結しました。


 
 Xは,平成元年11月17日,Aに対し,2,800万円を,平成2年2月以降毎月15日に元金11万7,000円を当月分の利息と共に支払うなどの約定により貸し付けました(以下,これによる債権を「本件貸金債権」といいます)。

 Y(被告・上告人)は,Aから本件土地・建物を賃借したBより同建物を転借したと主張して,平成5年5月ころから,本件建物を占有していました。

 しかし,AB間の賃貸借契約はBが書類を偽造した無効なものでした。


  
 Xは,Yが約定どおりの返済を行わなかったことから,期限の利益が失われた本件貸金債権の残額について,平成5年9月8日,裁判所に対し,本件不動産につき本件根抵当権の実行としての競売を申し立て,裁判所は,同日,不動産競売の開始決定をしました。


 右事件の開札期日は平成7年5月17日と指定されましたが,Yが本件不動産を占有しているために,買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょし,その結果,入札がなく,競売手続は進行しませんでした。


 そこでⅩは,本件貸金債権を保全するため,Aが所有権に基づいてYに対して有する妨害排除請求権を代位行使し,本件不動産をⅩに明け渡すよう求めました。

 事案の整理
 本件の事実は,それほど複雑ではありません。問題は法的側面に存します。どのような問題点があるのかを,原審の判断を見ながら考えてみましょう。


 1審・2審とも,Ⅹの請求を認容しました。原審がXの請求を認容した理由は,次のとおりでした。
 本件不動産についての不動産競売手続が進行しないのは,Yの本件建物の占有により,買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたためである。

 この結果,Xは本件貸金債権の満足を受けることができなくなった。

 したがってXには,本件貸金債権を保全するため,Aの本件建物の所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使する必要がある。


 そして
 Xが請求することができるのは,本件建物の所有者であるAへの明渡しに限定されるものではなく,Xは,保全のために必要な行為として,Yに対し,本件建物をXに明け渡すことを求めることができる。


関連条文
 念のために2つの条文を確認しておきましょう。抵当権と債権者代位権に関する,おなじみの条文です。

 
 369条1項
 抵当権者は,債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について,他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

 
 423条1項
 債権者は,自己の債権を保全するため,債務者に属する権利を行使することができる。ただし,債務者の一身に専属する権利は,この限りでない。


 裁判所の見解
 最高裁判所平成11年11月24日大法廷判決は,次のように述べて原審の結論を支持し,上告を棄却しました。


 抵当権は,競売手続において実現される抵当不動産の交換価値から他の債権者に優先して被担保債権の弁済を受けることを内容とする物権であり,不動産の占有を抵当権者に移すことなく設定され,抵当権者は,原則として,抵当不動産の所有者が行う抵当不動産の使用又は収益について干渉することはできない。


 抵当権は,質権と異なり,担保目的物の占有を抵当権設定者の下にとどめるという特徴を有します。したがって,抵当権者は抵当目的物の使用収益に関し,干渉できないのが原則です。最高裁は,まずこの原則を確認しています。


 しかしながら,第三者が抵当不動産を不法占有することにより,競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,これを抵当権に対する侵害と評価することを妨げるものではない。


 しかし,抵当権者がいくら使用収益権を有しないからといって,担保目的物がどのような状況に置かれても,それを我慢しなければならないものではありません。


抵当権が担保目的物の交換価値を把握する担保物権である以上,抵当目的物の交換価値の実現(=競売)が妨げられ,その結果,優先弁済権の行使が困難となった場合には,抵当権侵害があったものと評価できるとしました。


 そして,抵当不動産の所有者は,抵当権に対する侵害が生じないよう抵当不動産を適切に維持管理することが予定されているものということができる。


したがって,右状態があるときは,抵当権の効力として,抵当権者は,抵当不動産の所有者に対し,その有する権利を適切に行使するなどして右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を有するというべきである。


 抵当不動産の所有者には,抵当権侵害が生じないようにして抵当目的物の担保価値を維持管理する義務が認められ,したがって,抵当権者には,これを求める請求権(担保価値維持請求権)があると判示しました。


 そうすると,抵当権者は,右請求権を保全する必要があるときは,民法423条の法意に従い,所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができると解するのが相当である。


 ここが,この判例のポイントです。最高裁が妨害排除請求権の代位行使を認めるにあたり,被保全債権としたのは,本件貸金債権そのものではなく,抵当不動産の担保価値維持請求権なのです。

 本判例には,奥田裁判官の補足意見が付されています。補足意見の被保全債権に関する部分をぜひ読んでください。


 抵当権設定者又は抵当不動産の譲受人は,担保権(抵当権)の目的物を実際に管理する立場にある者として,第三者の行為等によりその交換価値が減少し,又は交換価値の実現が困難となることのないように,これを適切に維持又は保存することが,法の要請するところであると考えられる。


 その反面として,抵当権者は,抵当不動産の所有者に対し,抵当不動産の担保価値を維持又は保存するよう求める請求権(担保価値維持請求権)を有するものというべきである。


 そして,この担保価値維持請求権は,抵当権設定時よりその実行(換価)に至るまでの間,恒常的に存続する権利であり,第三者が抵当不動産を毀損したり抵当不動産を不法占有したりすることにより,抵当不動産の交換価値の実現が妨げられるような状態が生じているにもかかわらず,所有者が適切な措置を執らない場合には,この請求権の存続,実現が困難となるような事態を生じさせることとなるから,抵当権者において,抵当不動産の所有者に対する担保価値維持請求権を保全するために,抵当不動産の所有者が侵害者に対して有する妨害停止又は妨害排除請求権を代位行使することが認められるべきである。

 さらに最高裁は,

 なお,第三者が抵当不動産を不法占有することにより抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権に基づく妨害排除請求として,抵当権者が右状態の排除を求めることも許されるものというべきである。

として,

 最高裁平成3年3月22日第2小法廷判決は,以上と抵触する限度において,これを変更すべきである。

 といいました。

 平成3年判決は,

 抵当権者は,短期賃貸借が解除された後,賃借人等が抵当不動産の占有を継続していても,抵当権に基づく妨害排除請求として,その占有の排除を求め得るものでないことはもちろん,賃借人等の占有それ自体が抵当不動産の担保価値を減少させるものでない以上,抵当権者が,これによって担保価値が減少するものとしてその被担保債権を保全するため,債務者たる所有者の所有権に基づく返還請求権を代位行使して,その明渡しを求めることも,その前提を欠くのであって,これを是認することができない。

 と判示していましたから,これが変更されたのです。


 そして本件においては,事実について,

 本件根抵当権の被担保債権である本件貸金債権の弁済期が到来し,被上告人が本件不動産につき抵当権の実行を申し立てているところ,上告人らが占有すべき権原を有することなく本件建物を占有していることにより,本件不動産の競売手続の進行が害され,その交換価値の実現が妨げられているというのであるから,被上告人の優先弁済請求権の行使が困難となっていることも容易に推認することができる。

 と認定し,

 (上記)事実関係の下においては,Xは,所有者であるAに対して本件不動産の交換価値の実現を妨げXの優先弁済請求権の行使を困難とさせている状態を是正するよう求める請求権を有するから,右請求権を保全するため,AのYらに対する妨害排除請求権を代位行使し,Aのために本件建物を管理することを目的として,Yに対し,直接Xに本件建物を明け渡すよう求めることができるものというべきである。

 と結論づけました。


 本判例は,不法占有によって抵当権侵害が生じることを認めた点において,また代位行使の際の被保全債権を明らかにした点において,さらには今日は触れませんでしたが,代位請求だけでなく,Ⅹの主張していない物権的請求権をも,傍論として肯定した点で重要な意義を有する判決と評価されています。


 時間です。では,また。