ネコでも分かる民事訴訟法 福田隆光
(行政書士) 福田隆光
1 はじめに
これまで説明してきた訴訟手続は,いわばフル・サイズの訴訟手続です。
これに対して,その基本的な審理原則は維持しつつ,より簡略化された訴訟手続もあります。
今回はこのような簡易手続について学習します。
2 簡易裁判所の訴訟手続
簡易手続とは,一般に,地方裁判所における通常の民事訴訟手続よりも簡易・迅速な手続により民事紛争を処理し法的救済を形成するための訴訟手続をいいます。
略式手続とも呼ばれます。これには,簡易裁判所の訴訟手続(少額訴訟手続も含む),督促手続および手形・小切手訴訟手続があります。
簡易裁判所は,少額軽微な民事紛争を簡易・迅速に処理することを目的として創設されたもので(270条),その手続は,第一審(地方裁判所)の訴訟手続の特則として規定されています。
特則の主なものは,次のとおりです。
①口頭による提訴が認められ(271条,273条),口頭弁論も書面によって準備する必要はありません(276条)。実際には司法書士などの関与により,書面で訴えが提起され,準備書面も提出されることが多いようですが,規定上は書面による必要はありません。
②訴えの提起においては,請求原因に代えて紛争の要点を明らかにすれば足ります(272条)。
③当事者が期日に出頭しない場合には,第1回期日に限らず,続行期日でも,準備書面の陳述が擬制されます(277条)。また,証拠調べについても,証人や鑑定人の尋問に代えて,書面の提出ですませることができます(278条,規則171条)。
④口頭弁論調書の記載の省略(規則170条1項)や判決書の簡略化(280条)も可能です。
⑤金銭請求訴訟で,被告が被告の主張を争わない場合には,裁判所は,被告の資力等の事情を考慮して,5年以内の期限猶予または分割払を命じる決定をすることができます(275条の2)。この決定は,和解に代わる決定と呼ばれます。
当事者は決定の告知から2週間以内に異議を述べることができ,異議申立てにより決定は失効します。異議がないときは,決定は裁判上の和解と同一の効力を有します。
⑥裁判所は,和解の補助または事件に関する意見の聴取のため,司法委員を審理に関与させることができます(279条,規則172条)。
司法委員は,毎年あらかじめ地方裁判所が「司法委員となるべき者」として選任している人の中から,個別の事件ごとに簡易裁判所が指定することによってその身分を取得します(279条3項)。
選任されるために特別な資格などは必要なく,社会人としての健全な良識のある人の中から選任されます。弁護士や大学法学部教授などが選任されることもありますが,法律知識の有無とは関係なく,地域の事情に詳しい人や,医学的知識や不動産の鑑定に関する知識を持っている人なども選任されていて,平成17年で全国に約6,000人の司法委員となるべき人がいます。
なお,司法委員は個別の事件ごとに指定されるものであり,非常勤の裁判所職員です。実際に司法委員に指定されて事件に関与した場合には,必要な旅費や日当が支給されることになっています(279条5項)。
3 民事訴訟
それでは,個別の手続についてみていくことにしましょう(一部前の記述と重なる部分があります)。まず民事訴訟です。
民事訴訟は,個人の間の法的な紛争,主として財産権に関する紛争を,裁判官が当事者双方の言い分を聴いたり,証拠を調べたりした後に,判決をすることによって紛争の解決を図る手続です。
たとえば,貸金の返還,不動産の明渡し,交通事故等に基づく損害に対する賠償を求める訴えなどがあります。
簡易裁判所では訴額が140万円以下の事件を扱います。訴額が140万円を超える事件は,地方裁判所が取り扱います。
簡易裁判所の訴訟手続においては,一般の方々の意見を反映した適切で合理的な解決を図ることができるように,良識ある一般市民から選任された司法委員を審理に立ち会わせ,その意見を聴いて判決を言い渡すことができますし,和解に協力させることもできます。
もし,指定された期日に訴えられた方が出頭できない場合でも,答弁書の中に訴えたほうの主張を争わない旨および分割弁済を希望する旨の記載があれば,訴えられたほうの資力を考慮し,5年を超えない範囲での分割払を命じることもあります(これを「和解に代わる決定」といいます)。
【簡易裁判所における民事訴訟のポイント】
●裁判官が,法廷で,双方の言い分を聴いたり,証拠を調べたりして,最終的に判決によって紛争の解決を図る手続です。
●紛争の対象が金額にして140万円以下の事件について,利用することができます(140万円を超える事件は,地方裁判所で取り扱われます)。
●訴訟の途中で話合いにより解決することもできます(これを「和解」といいます)。
●判決書または和解の内容が記載された和解調書に基づき,強制執行を申し立てることができます。
4 少額訴訟
少額訴訟制度は,小規模な紛争について,一般市民が安価な負担で,迅速かつ効果的な解決を裁判所において求めることができるようにすることを目的として創設されたものです。
①対象事件
少額訴訟の対象となる事件は,訴額が60万円以下の金銭支払請求に関する訴えです(368条1項本文)。ただ,同一の簡易裁判所において同一の年に,少額訴訟による審判を求めることができるのは,合計10回に制限されています(381条ただし書,規則223条)。
②通常手続への移行
少額訴訟による審判は,原告がそれを求めた場合にのみなされ(368条1項),その旨の申述は訴え提起の際にされなければなりません(368条2項)。
他方,被告は,最初の口頭弁論期日において応訴行為をするまでは,訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができます(373条,規則228条)。
その申述があった場合には,訴訟は自動的に通常手続に移行します(373条2項)。これは,被告にも手続選択権を認めて,当事者間のバランスを図ったものです。
③審理
少額訴訟は,少額事件について特に簡易・迅速な手続を用意し,それにより少額事件の実効的な解決を図るための制度ですから,審理の場面における特則が重要な意味を持ちます。
まず,証拠調べは即時に取り調べることができる証拠に限定されます(371条)。
また,証人尋問についても,宣誓を不要とし(372条1項),尋問順序を裁判官の裁量に委ね(372条2項),尋問事項書(規則225条)や尋問調書(規則227条)を不要とし,さらに電話会議システムによる尋問も認めています(372条3項,規則226条)。
これにより証人の出廷が不要となり,遠隔地に住む証人も即時に取調べができ,迅速かつ充実した審理が可能となります。
このような手続の簡易化を基礎にして,少額訴訟は,特別の事情がある場合を除き,第1回の口頭弁論期日において,審理を完了しなければならないという一期日審理の原則が定められています(370条1項)。
そのため,当事者は,原則として,第1回期日または第1回期日中に,すべての攻撃防御方法を提出するものとされています(370条2項)。
④判決
少額訴訟における判決は,相当でないと認める場合を除き,口頭弁論の終結後直ちに言い渡されます(374条1項)。これにより,一期日審理の原則と合わせて,審理・判決が1回の期日で全部なされることになります。
また,口頭弁論終結後直ちに言い渡されるため,判決書を作成する時間はないので,判決言渡しは,例外的に,判決書の原本に基づかないですることができます(374条2項)。
なお,その執行についても簡易化を図るため,少額訴訟判決をした簡易裁判所の裁判所書記官に対し少額訴訟債権執行の申立てができることになっています(民事執行法167条の2以下)。
請求認容判決について,裁判所は,被告の資力その他の事情を考慮して特に必要があると認めるときは,弁済の猶予または分割払を命じることができます(375条1項)。この弁済の猶予・分割は判決言渡しの日から3年を超えることはできません。
⑤不服申立て
少額訴訟の終局判決に対しては,控訴をすることはできず(377条),その判決をした裁判所に異議を申し立てることができるだけです(378条1項)。支払猶予などの定めに関しては,不服申立てはできません(375条3項)。
【少額訴訟のポイント】
●1回の期日で審理を終えて判決をすることを原則とする,特別な訴訟手続です。
●60万円以下の金銭の支払を求める場合に限り,利用することができます。
●原告の言い分が認められる場合でも,分割払,支払猶予,遅延損害金免除の判決がされることがあります。
●訴訟の途中で話合いにより解決することもできます(これを「和解」といいます)。
●判決書または和解の内容が記載された和解調書に基づき,強制執行を申し立てることができます(少額訴訟の判決や和解調書等については,判決等をした簡易裁判所においても金銭債権(給料,預金等)に対する強制執行(少額訴訟債権執行)を申し立てることができます)。
●少額訴訟判決に対する不服申立ては,異議の申立てに限られます(控訴はできません)。
5 督促手続
金銭その他の代替物または有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について,債務者がその請求権の存在を争わないことが予想される場合に,債権者が簡易・迅速な手続で債務名義を取得できるための制度が,督促手続です(382条以下)。
たとえば,クレジット業者やサラ金業者が,比較的少額の債権を効率的に取り立てるために,頻繁に利用しています。
①管轄および対象となる請求
督促手続は,請求の価額にかかわらず,債務者の普通裁判籍所在地の簡易裁判所の裁判所書記官に対して申立てをするのが原則です(383条)。合意管轄は認められません。
督促手続の対象は,請求が金銭その他の代替物または有価証券の一定数量の給付を目的とするものであり,債務者に対して,支払督促を日本国内で,公示送達によらずに送達できることが要件です(382条)。
②支払督促
支払督促申立てについては,原則として訴えに関する規定が準用されますが(384条),債務者を審尋しないで(386条1項),裁判所書記官が発します。382条の要件を欠いていたり,申立ての趣旨だけからも請求の不当なことが明らかな場合などには,申立ては却下されます(385条1項)。
これに不服のある債権者は告知から1週間以内に異議を申し立てることができます(385条3項)。却下事由がないときは,請求の内容的な当否については審理せずに,支払督促を発し,債務者に送達します(388条1項)。支払督促の効力は,債務者に送達されたときに生じます(388条2項)。
③督促異議
督促異議は支払督促に対する債務者の唯一の不服申立て方法で,請求の当否について,通常訴訟による審判を求める申立てです。
これには,仮執行宣言前の異議と宣言後の異議とがあります。督促異議申立ては,支払督促の発令後いつでもできますが,仮執行宣言があったときは,仮執行宣言付支払督促の送達から2週間以内にしなければなりません(393条)。
督促異議は,支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所に申し立てます(386条2項)。
裁判所は,不適法な異議を却下し(394条),異議が適法であるときは,訴訟額に応じて,支払督促申立て時に簡易裁判所または管轄地方裁判所に訴え提起があったものとみなされます。
【督促手続のポイント】
●金銭の支払または有価証券もしくは代替物の引渡しを求める場合に限ります。
●相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます。
●書類審査のみなので,訴訟の場合のように審理のために裁判所に来る必要はありません。
●手数料は,訴訟の場合の半額です。
●債務者が支払督促に対し異議を申し立てると,請求額に応じ,地方裁判所または簡易裁判所の民事訴訟の手続に移行します。
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