合格するためのテキスト選び 田中利和
司法書士
(司法書士) 田中利和
はじめに
いよいよ『不動産受験新報』の月刊誌としては最後の号になってしまいました。寂しいですね。
しかし,読者の皆さん,寂しがってばかりはいられません! 司法書士の本試験まで,残すところ3カ月となりました。
今年の本試験まで,あと3カ月しかないというのに,「『合格するためのテキスト選び』なんていうテーマは,ちょっと遅すぎるのでは?」という疑問の声や「私は,今年の本試験に合格するから関係ない!」とお叱りの声が聞こえてきそうです。
この3カ月が大切な時期であることは重々承知しています。その大切な時期に,試験には直接関係のないテーマを読んでいる暇はないかもしれませんが,今年の本試験に合格を予定されている方,来年以降に合格を予定されている方も,ちょっと気分転換にお読みいただきたいと思います。
ただし,あらかじめお断りしておきますが,本稿は,私の独断と偏見で書いています。
「確かに,そのとおり♪」「そうそう,そうなんだよなぁ」と相槌を打ってくださる場合もあれば,ひょっとすると,「そんなことはない!」「お前の言うことは間違っている!」とおっしゃる読者の方もいるかもしれませんが,そこはひとつ,寛大なお気持ちを持ってお読みくだされば幸いです。
試験直前に活躍できるかどうかが問題だ!
司法書士の試験は,午前の試験4科目,午後の試験7科目があり,それらの科目を一日で受験しなければなりません。
合格するためには,試験直前において,試験直前まで蓄えてきた知識を,いかにブラッシュアップ(「勉強をやり直す」「磨きをかける」といった意味があります)できるか,ということがポイントとなります。
たとえば,ここに11枚の皿があるとしましょう。その1枚1枚の皿が各科目だとします。
受験生は,“皿回し”の要領で,この“皿”を回します。勉強を始めた頃は,民法の勉強を始めることになるでしょう。まずは,“民法の皿”を回します。
その次に,不動産登記法の勉強を始め,“不動産登記法の皿”を回し始めたころ,先に回した“民法の皿”の勢いが弱まってきて,落ちそうになります。
「あぁぁぁ~。ガチャ~ン」。不動産登記法の勉強が一通りすんだころには,落ちて割れた皿のように,民法の知識は跡形もなく,頭の中から抜け落ちています。
今,申し上げたことは,勉強を始めたころは誰しも経験することです。しかし,日々,勉強を積み重ねることによって,次第に皿が回ってきます。
“民法の皿”を回し,次に“不動産登記法の皿”を回し,“民法の皿”の勢いが弱まってきたところで,もう一度,“民法の皿”を回す。そして,“民法,不動産登記法の皿”が回ってきたところで,“会社法の皿”を回す。そして,また,“民法や不動産登記法の皿”の勢いがなくなって落ち,“会社法の皿”だけが回っている。
こういったことを繰り返しながら,試験直前には,11枚の“皿”が勢い良く回っているようにしなければならないのです!
そのためには,試験直前に,蓄えた知識を一気にブラッシュアップさせられるようなテキスト,つまり,試験直前に“活躍できるテキスト”が必要なのです!
本試験合格のために必要不可欠な道具を揃えよう!
“活躍できるテキスト”,それはまさに,本試験合格のために必要不可欠な道具なのです !
たとえば,“腕のいい料理人”の前のまな板に鯛がのっているとしましょう。その料理人に対して,「切れ味の悪い包丁でも,いい腕があれば,その鯛を美味しく料理ができますか?」と問いかけたらどうでしょう。おそらく,その返事は「ノー」です。
いくら,いい腕を持っていたとしても,切れ味の悪い包丁では,「美味しい料理はできない」と言うでしょう。いくら,腕のいい料理人であっても,いい道具がなければ,美味しい料理はできないのです。
これを私たちの場合に置き換えてみましょう。
私たちの“美味しい料理”とは“本試験の合格”です。“まな板の鯛”は,本試験当日にご自身の席に置かれた“本試験の問題”です。合格するために解答するには,いい道具,つまり,“活躍できるテキスト”が必要なのです!
「これがベストだ!」というテキストは存在するのか?
「これがベストだ!」といえるものがあるかどうかは正直なところ私も分かりませんが,良書と呼ばれるものはあります。
そこで,テキストの良し悪しはどういった点で判断すればよいのか考えてみましょう。一般的には,有名な予備校が出版しているテキストならば,比較的安心して選んでよさそうです。予備校は長年にわたり蓄積したノウハウや情報量をもとにテキストを作成しているものと思われますので,“合格のために必要なテキスト”に近いものがあるかもしれません。
ただし,同じ予備校のテキストであったとしても,科目ごとに,内容の充実度にバラツキがあることも確かです。
たとえば,不動産登記法のテキストの内容は充実しているが,商業登記法のテキストの内容は“いまひとつ”といったこともあります。これは,おそらく,科目ごとに著者が異なるため,内容にバラツキがあるのかもしれません。
テキストにできそうな書籍はこれだけある!
それでは,良いテキストを選ぶにはどうすればよいでしょうか? 使用できそうなものを,ざっと並べただけでも,これだけあります。
①専門書
●立法担当者が書いたもの
●学者が書いたもの
②予備校が市販しているテキスト
③予備校の講義で使用されているテキスト
④各出版社が発刊しているテキスト
(1) 専門書
立法担当者や学者が書いたものは“専門書”と呼ばれ,受験のテキストとしては不向きです。
もちろん,その法律の立法背景・制度趣旨といったことも踏み込んで書かれているので,理解のために役に立つことは間違いありません。参考書として役には立ちます。もちろん,実務には必要だけれども試験に不要なことも書かれています。要は,余計なことも書かれているということです。
勉強に時間を多く割けない受験生や働きながら勉強をしている社会人の受験生にとっては,専門書を熟読している暇はありません。したがって,参考書として使用することはかまわないと思いますが,専門書をテキストにすることは勧めません。
(2) 予備校が市販しているテキスト
当然のことながら,予備校が市販しているテキストは本試験を意識して書かれていますので,予備校が市販しているテキストを使用するのが無難かもしれません。
しかし,書店に並ぶ各予備校が出版している書籍を見ると,「果たして,こんなものまで読む必要があるのか?」と疑問を抱かざるを得ないものもたくさんあります。
本稿では書籍名まで出しませんが,予備校の“趣味”で書かれたとしか思えないような書籍を見ると,私の素朴な感想としては,「単なる売上げ・営業のため」に思えてほかなりません。
受験を趣味にされる方は予備校の“趣味”につき合って読んでもらってもかまいませんが,私たちが目指すものは「合格」です! なにはともあれ,まずは合格をしなければなりません!
(3) 予備校の講義で使用されているテキスト
あまり過激なことを書くと各方面から怒られますので,この辺でやめておきます(汗)。
さて,予備校に通う受験生は,予備校の講義で使用されているテキストを使用するのがベストだと思います。といっても,そのテキストが本試験に耐えられるかどうかといえば疑問です。
講義の内容は,受講生のレベルに応じたものです。つまり,各予備校は,初学者向き,中級者向き,上級者向きといった,さまざまな講座を開講しているため,受講されている講座のテキストが必ずしも本試験に耐えられるだけの内容を備えているとは限らないからです。
(4) 各出版社が発刊しているテキスト
予備校が市販しているテキストと同様に,書店に所狭しと,さまざまなテキストが並んでいます。受験生にとっては,どれを購入すべきか迷うところです。さて,いろいろ書きましたが,いずれも一長一短あり,正直なところ,「これだ!」という結論には至りません。
問題集はどれを選ぶか?
それでは,問題集の話に移りましょう。「肝心のテキストの話はどうなるの?」 慌てないでください。あと1ページ残っていますので,我慢して最後まで読んでください。
前述したテキストと同様に,予備校,各出版社から多数の問題集が発刊されています。問題集は,①「過去問」と呼ばれる過去の本試験を再現した問題集と②予備校や各出版社が出している「予想問題」に分けられます。
過去問はどれを選ぶか?
過去問については,各予備校や各出版社のいずれのものでも内容に大差はないでしょう。
選択基準としては,
①科目別か年度別か,
②解説の内容が厚いものかシンプルなものか,
③問題と解説が見開きの状態で見ることができるかどうか,といった程度だと思います。
過去問を解く重要性をいまさら申し上げるまでもありませんね。過去問を解くことによって,出題傾向を把握することができますし,何よりも,合格するためには,どの程度の勉強が必要であるかという“道標”にもなっているからです。
予想問題集は必要か?
予想問題集は必要か? 読者の皆さんはどう思いますか? いろいろな意見があるかと思いますが,よほど時間がある場合を除いては,予想問題集まで手を出す時間はないのではないでしょうか。
私は仕事をしながら受験勉強をしていましたので,正直なところ予想問題集を解く時間はありませんでした(ただし,予備校の答案練習会には参加しました)。
どれを選ぶか?
さて,いろいろ書いてきましたが,「これだ!」というテキストは見当たりません。それはなぜか? その理由は,受験生の置かれている環境がそれぞれ異なるからです。
一口に受験生といっても……,
①受験に専念できる専業受験生
②働きながら合格を目指す社会人の方
③学生の方
大別すると,これだけの違いがあります。単純に考えても,専業受験生と社会人の方とでは,勉強に充てられる時間も大きく異なり,勉強する時間が十分にとれる専業受験生は専門書を熟読することも可能でしょう。
また,初学者かベテランか,受験経験の有無や司法書士事務所の補助者経験の有無などによりテキストの選び方は異なってきます。
不動産登記法を例にとると,テキストによっては,読んだ時,全体のイメージや具体的な手続の流れのイメージのしやすさといった点は,補助者経験がある方とない方とでは異なると思います。
私があえて選択基準をつけるとするならば,「参考文献」や「出典」(出典とは,テキストに書かれた文の引用文また引用された語句などの出所である書物のこと)が記載されているかどうかです。
テキストに書いている内容が条文・判例・先例・立法担当者の見解・学者の見解等を根拠にしているのか,はたまた著者の自説なのかどうか明らかでないと,その内容を信用していいかどうか分からないからです(ただし,受験生にとっては,「書かれた内容について,間違っているのでは?」と,いちいち考えていては勉強が進みませんので信用するほかありませんが……)。
これが私が勧めるテキストだ!
最後に私が勧めるテキストを紹介したいと思います。それは,ズバリ! 過去問集です!
受験時代,社会人であった私は,テキストを熟読している暇はありませんでした。もちろん,まったく読まなかったわけではありません。最終的には科目別の過去問集がテキストになりました。
使い方は,過去問を解かずに読んでいました。もちろん根拠となっている条文は六法を引いて確認しました。
具体的な使い方としては,何度も何度も読み返しました。何度も読み返すことによって必ず知識が定着します。ただし,単に問題の正誤を確認するのではなく,問題文を読んで,自分自身が,その解説を理論立てて説明できるようになるまで,読み返さなければなりません。
新たな疑問が生じたとき,解説を読んだだけで分からない箇所や解説の内容が不足していると思われる部分が生じたときは,参考書にあたるなどして確認していきました。
さらに,参考書から拾った文章や図表を補足説明として付箋紙に書いて貼り付けて“活躍できるテキスト”として加工していきました。それ以外には,「誤りの問題文(つまり肢)」を「正しい問題文(肢)」に直しました。間違ったことを覚えないようにという私なりの作戦でした。
何度も読み返していると,理解が不足している箇所や間違える箇所が絞られてきます。つまり,その部分こそ,「自分の弱点」なのです!
弱点が分かればその部分を補強する。これの繰り返しでした。
試験直前には,この“活躍できるテキスト”で蓄えた知識をブラッシュアップして本試験に臨みました。
最後に
参考になったでしょうか?
私の独断と偏見と持論に満ちた内容で決して参考になるようなものではなかったかもしれませんね。
テキストの選び方は,人それぞれかもしれませんが,読者の方に少しでも参考になれば幸いです。


