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ネコでも分かる会社法 「取締役会」 太田雅幸

取締役会の招集

(弁護士) 太田雅幸

 前田 うちの監査役は,しょっちゅう取締役会を招集しますよね。

 吉田 あぁ,会議机の上に鼻毛地蔵をお祀りしている名物監査役は,アイスコーヒーが飲みたくなると,役員を集めているねぇ。

 前田 鼻毛さんは,自分が取締役会を招集するための要件を分かっているんですか。

取締役会の招集

 ~招集権者~

 吉田 取締役会は,本当は,だれが招集すべきなんだっけ?

 前田 会社法上は,各取締役に招集権があります(366条1項本文)。しかし,定款または取締役会で招集権者を定めることができるとしています。

 吉田 多くの会社では,代表取締役を招集権者と定めているねぇ。うちでいうと,はげ頭にしみのあるお茶の水さんだ。ゴルバチョフとも陰口をたたかれている。
 でも,会社法では,ほかの取締役が取締役会を招集することができるという仕組みがあるね。

 前田 招集権者以外の取締役,うちでいうと,マラソンが趣味の小出取締役や政治家を夢見ている西国原さんが,お茶の水社長に議題を示して取締役会を招集しなさいと請求することができます(366条2項)。

 小出さんが招集したのに,お茶の水さんが,小出さんから請求があった日から5日以内に,請求日から2週間以内の日を期日とする取締役会の招集の通知を発しない場合には,小出さんは自分で取締役会を招集することができます(366条3項)。

 吉田 うん。それは,なぜだろうね。


 前田 取締役は,取締役会の一員として取締役の職務執行に対する監視義務を負っています(第9回の「取締役の監視義務」の部分を参照)。

 あんなに走ってばかりいる小出さんも会社法上,大変な義務を負っているのです。その義務をきちんと果たそうとするならば,お茶の水博士,いや,お茶の水社長がおかしなことをやろうとしていることを知ったときには,取締役会を開いて,やめさせなければならないからです。

 吉田 そうだね。そのほかにも,取締役会を招集することができる人がいるね。

 前田 鼻毛監査役です。鼻毛さんは,お茶の水さんや小出さんが不正の行為をし,もしくはそのおそれがあると認める場合,または法令・定款に違反する事実もしくは著しく不当な事実があると認める場合において,必要があると認めるときは,取締役会の招集権者に対し,取締役会の招集を請求することができるし,お茶の水さんがそれに応えないときは,さっきの小出さんの場合と同様の要件で,自ら招集することができます(383条2項・3項)。

 吉田 それは,監査役が取締役の職務の執行を監査する職責をもっているから,その職責を全うするために認められている権限ということだね。ところで,もう1人,招集権者がいるねぇ。

 前田 株主です。株主は,取締役が法令・定款違反の行為をし,またはその行為をするおそれがあると認めるときは,招集権者に対し,議題を示して取締役会の招集を請求することができます(367条1項)。

 吉田 ただし,監査役設置会社や委員会設置会社においては,株主にこの権限は認められていないね(367条1項かっこ書)。
 すなわち,取締役の職務執行を監査する監査役または監査委員がいる会社においては,基本的には彼らにまかせておけばいいということだね。


取締役会の招集


 ②~招集通知~

 前田 会社法368条1項をみると,取締役会の場合も,株主総会と同じで招集通知を発して招集することになっていますね……。ん~。

 吉田 どうした? 親知らずでも痛むか?

 前田 いえ。鼻毛監査役は,いつも電話で集まろうって,気軽に取締役会を招集していますけど,招集通知といえるのかしらと思って。

 吉田 いいところに気がついたね。株主総会の招集通知の形式について書いた,299条2項・3項と,368条1項を比べてみたまえ。


 第5回講義で勉強したが,取締役会設置会社では,株主総会の招集には,書面通知または電磁的方法による通知が必要だった。
 ところが,取締役会の招集通知は,どんな形式を用いようと会社法上,適法だ。

 すなわち,鼻毛さんは,鼻毛を抜きながらも,実は会社法を熟知したうえで電話で招集をかけていたというわけだ。

 前田 でも,監査役なんだから,まずは招集権者に招集を請求するというところからスタートしないといけないという根本が抜けています。抜くのは鼻毛だけにすべきですね。


 吉田 まぁ,鼻毛さんだからねぇ。ところで,招集通知は,全取締役に発出しなければならない。また,監査役設置会社においては,監査役全員にも発出することが必要だ(368条1項)。


 前田 取締役会では,取締役全員の同意があれば招集手続をとることなく開催することができるのですが,監査役設置会社では,取締役・監査役全員の同意がなければ招集手続を省略することができないというのと符合していますね(368条2項)。


 吉田 取締役会に出席して意見を言うことができる人の知らない間に,取締役会を開催されるのは困るということだ。


 また,一定の時間的ゆとりを持って通知してくれなかったために,日程調整ができず,出席ができないという事態は困るということだね。


テレビ会議方式

 吉田 さて。会社法施行規則101条3項1号をごらん。


 前田 取締役会議事録の記載事項ですね。
 「取締役会が開催された日時及び場所」を明記することが必要で……,あっ,当該場所に存しない取締役が,取締役会に出席した場合における当該出席の方法も書けということになっています。


 吉田 そうだね。これは何だろう。


 前田 テレビ会議方式や電話会議方式が可能であることを前提とした規定です。


 吉田 そうだね。取締役会は経営の専門家である取締役等が鳩首合議して,妥当な結論を得ようとするものだから,一堂に会して侃々諤々の議論をするのが理念型だ。
 しかし,IT技術の進歩を踏まえ,法務省は,「取締役間の協議と意見の交換が自由にでき,相手方の反応がよく分かるようになっている場合,

 すなわち,各取締役の音声と画像が瞬時に他の取締役に伝わり,適時的確な意見表明が互いにできる仕組みになっていれば,テレビを利用して取締役会議を開くことも可能」としてテレビ会議を認め,

 また,「電話会議システムにより,出席者の音声が瞬時に他の出席者に伝わり,他の出席者が一堂に会するのと同等に適時的確な意見表明が互いにできる状態になっている」場合には,電話会議を適法と認めているのだね。


決議要件

 吉田 では,取締役会議の決議の要件は,どのようになっているかな。


 前田 議決に加わることができる取締役の過半数が出席し(定足数要件),その過半数で行うことになっています(決議要件)。定足数要件も決議要件も,ともに定款で加重することができます(369条1項)。


 吉田 決議の要件について株主総会と違うところがあるね。それはどこだろう。


 前田 株主総会の場合には定足数を排除することができますが(第3回講義),取締役会の場合には加重することができるだけです。


 吉田 株主総会の場合には定足数要件を排除しておかなければ,決議そのものが成立しないおそれがあるので,ほとんどの会社が定款で排除して,出席した株主の議決権の過半数で決議を成立させることができるようにしている。

 これに対し,取締役会の場合には,経営の専門家として委任された取締役ができるだけ多く出席して議論すべきであるから,法で最低ライン(頭数の過半数)を定め,定款ではそれを加重することだけを認めているのだね。


 前田 ところで,取締役会に飲み物を届けた喫茶店のお姉さんが,決議のときに鼻毛監査役も手を挙げていたらしいですよ。


 吉田 あぁ。鼻毛抜きに疲れて,伸びをしていたということにしておこう。ところで,この間,小出さんから聞いたのだけどね,西国原さんといっしょにクーデターを起こそうと,もくろんだそうだね。


 前田 えっ?


 吉田 会社経営の考え方の基本的違いが原因らしい。そのとき聞かれたのだが,代表取締役解任の動議を出した場合に,お茶の水さんに議決権があるかどうか。


 前田 その場合,お茶の水社長は会社法369条2項の「特別利害関係」を有する者として,議決権がなくなります。

 最高裁判例(昭和44年3月28日民集23・3・645)が,代表取締役の解職に関する取締役会の決議については,当該代表取締役は,特別利害関係を有する者に該当すると解すべきであるとしています。


 吉田 小出さんは,解職賛成が自分と西国原,解職反対がお茶の水と鼻毛監査役で過半数に届かないから,クーデターはやめておこうと考えていたらしい。


 前田 小出さんはどうも何重にも見当違いしていますね。教えてあげなかったんですか。


 田 だれが代表取締役になっても大差ないからねぇ。放っておいたよ。


取締役会議事録

 吉田 取締役会の議事については,議事録を作成し,出席した取締役および監査役は,署名または記名押印しなければならないとされているよね(369条3項)。

 そして,本店に10年間備え置かなければならないとされている(371条1項)。会社の経営に関する重要な意思決定を証明する文書だから,保管義務を課しているのだね。


 前田 371条2項・3項では,株主に取締役会議事録の閲覧謄写請求権を与えていますね。

 株主は,その権利を行使するため必要があるときは,会社の営業時間内はいつでも閲覧謄写請求をすることができるというのが原則で,監査役設置会社または委員会設置会社の場合には,「営業時間内はいつでも」というのはダメで,「裁判所の許可を得て」というのが要件となっています。
 ところで,権利を行使するため必要があるときというのは,どんな場合でしょうか。


 吉田 たとえば,取締役解任決議を成立させるべく,少数株主による株主総会招集請求権を行使するために(第5回講義参照),取締役会でどんな議論がされたか,議事録を調査したいという場合だろうね。


取締役会決議の瑕疵

 吉田 ところで,お茶の水さんが小出取締役に取締役会招集通知を発しないまま取締役会を開いて,取締役会決議を採択した場合に,その効力はどうなるかな。取締役会決議の瑕疵の問題だ。


 前田 株主総会の場合と違って,取締役会の決議に手続上または内容上の瑕疵がある場合について,株主総会決議取消しの訴えのような特別の訴えを用意していません。

 したがって,一般原則によって,決議は,当然に無効になります。


 吉田 そうだね。取締役会のような少人数で構成する合議体においては,欠席した者が出席し,討議に参加していたら,他の取締役の議決権の行使にどのような影響を与えたか分からないし,

 また,一部の取締役に出席の機会を与えないまま開催された取締役会における決議の瑕疵の治癒を認めることは,取締役の知識と経験とを結集するという取締役会の制度趣旨を損なうこととなるからという説明がされているよね。


 前田 小出さんが出席しなかったからといって,どうということもないですけどねぇ。


 吉田 同感だね。うちの取締役会は,じいさんたちのティーブレイクだからどうってことないが,経営者内部で分裂が生じて,取締役会決議が有効か無効か争われる場合もある。

 そういうときに限って,一部の取締役に取締役会の招集通知を出し忘れていたりする。“好事魔多し”というやつだね。

 判例(最判昭44・12・2民集23-12-2396)は,取締役会の開催に当たり,取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことにより,その招集手続に瑕疵があるときは,「特段の事情」のない限り,その瑕疵のある招集手続に基づいて開かれた取締役会の決議は無効になると解すべきであるが,

 この場合においても,その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき「特段の事情」があるときは,その瑕疵は決議の効力に影響がないものとして,決議は有効になると解するのが相当である,としているのだ。


 前田 特段の事情というのは,どういう場合なのでしょうか。


 吉田 判例で特段の事情が認められたものとしては,少数派に属する取締役に対し通知を出し漏らしたが,その取締役が従来から言動をともにしていた取締役が出席しており,かつ,当該取締役会における決議は圧倒的多数をもって可決されていたという場合などがある。


 前田 でも,その1人の取締役が出席していたら,議論の流れがどうなっていたかは分からないのではないでしょうか。


 吉田 意外とそういうこともあるからね。だから,その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと言い切れないとか,「特段の事情」理論は,取締役会制度の趣旨を没却するなどとして反対する学説が多いようだね。