国試改正法講座 「改正商業登記法」 田中利和
(司法書士) 田中利和
はじめに
さて,今回も改正商業登記法・法務省民商第782号通達に関する出題論点を学習していきましょう。
今回は監査役に関する出題論点を中心に学習していきます。
1 監査役に関して
まず,「監査役設置会社」の定義を押さえておきましょう。
会社法2条9号によると,監査役設置会社とは,監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く)またはこの法律の規定により監査役を置かなければならない株式会社をいうとされています。
しかしながら,当該監査役の監査の範囲が会計に関するものであったとしても,登記記録には「監査役設置会社」である旨の登記がなされます(会社法911条3項17号)。
したがって,登記記録を見ても,必ずしも当該登記記録に登記された監査役が会計監査の権限しか有していないかどうかは分かりませんので注意が必要です。さて,それでは,監査役に関する論点について確認していきましょう。次の問題はどうでしょうか?
予想問題
〔問題1〕 監査役を置いていない取締役会非設置会社が,定款を変更して監査役を置く旨及び監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを設け,併せて監査役を選任し,当該監査役が就任した場合には,監査役設置会社である旨,監査役の監査の範囲に関する旨,監査役の就任の登記を申請しなければならない。
〔解答・解説〕
誤り。
先ほど説明したとおり,会社法上,監査役設置会社とは,監査役の監査の範囲を会計に限定していない監査役を置いた会社をいいます(会社法2条9号)。
監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めの有無にかかわらず,監査役を置く会社について,監査役設置会社である旨の登記をするとされました(911条3項17号)。
しかし,監査役の監査の範囲に関する登記事項は存在しないので,監査役の監査の範囲に関する旨の登記はすることができません。
本問の場合は,監査役設置会社である旨,監査役の就任による変更登記を申請することになります。
〔問題2〕
会計監査権限しか有しない監査役が出席した取締役会の決議によって代表取締役を選定した場合の代表取締役の就任(再任を除く)による変更登記の申請書には,当該取締役会議事録に押印した出席取締役及び当該会計監査役の印鑑につき,市区町村長の作成した証明書を添付しなければならない。
〔解答・解説〕
正しい。
会計監査のみを行う監査役は取締役会への出席義務を負っていません。しかし,出席した場合は,取締役会議事録に記名・押印する義務を負います(会社法369条3項)。
したがって,会計監査のみの監査役といえども,取締役会に出席した以上は記名・押印義務があるので,当該取締役会議事録に押印した出席取締役および当該会計監査役の印鑑につき,市区町村長の作成した証明書を添付しなければなりません(商業登記規則61条4項3号)。
さて,監査役の選任は,株主総会の決議によって行われることになります(会社法329条1項)。監査役がある場合においては,取締役が監査役の選任議案を株主総会に提出するには,監査役の同意を得なければならないとされています(343条1項)。
次の問題を見てください。
〔問題3〕
取締役が株主総会に監査役の選任議案を提出して当該株主総会において監査役を選任した場合の監査役の就任による変更登記の申請書には,監査役が同意をしたことを証する書面及び株主総会議事録を添付しなければならない。
〔解答・解説〕
誤り。
監査役がある場合においては,取締役が監査役の選任議案を株主総会に提出するには,監査役の同意を得なければならないとされています(会社法343条1項)。
しかし,監査役の同意書は添付書面とはされていません。なお,本問に関連する論点として,「取締役は,監査役がある場合において,監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには,監査役の意見を聴かなければならないが,その同意を得る必要はない」と平成19年度本試験午後の部問題31肢ウにおいて出題されています。
解答は誤りです。
意見を聴く必要はありませんが,同意を得る必要があります。
2 監査役の任期に関して
会社法においては,監査役の任期を原則として選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと規定していますが(会社法336条1項),公開会社でない株式会社においては,定款によって,その任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができます(336条2項)。
また,次に掲げる定款の変更をした場合には,当該定款の変更時に在任している監査役の任期は,当該変更の効力を生じた時に満了することとされています(336条4項1号~4号)。
1号 監査役を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更
2号 委員会を置く旨の定款の変更
3号 監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する定款の変更
4号 その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを廃止する定款の変更
上記の事由のうち,3号については,監査役の権限が業務監査権限まで拡大することにより,新たに監査役を選任し直すことが相当であることを理由として,
積極的に会社法389条1項の定款の定めを廃止する定款の変更をする場合や,会計監査人を置く旨の定款変更,監査役会を置く旨の定款変更がなされる場合のように,監査役の権限を限定することができなくなり,会社法389条1項の定款の定めが効力を失うこととなる場合も含むとされています。
この論点を“真正面から聞いた”出題ではありませんが,平成18年度の本試験午後の部の問題35肢アにおいて,会社法上の公開会社でない株式会社は,大会社であっても,定款によって,監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定することができるかどうかが問われています。
この問題を解くにあたっては,まず,公開会社でない大会社は,会計監査人を置かなければならない(328条2項)ということを理解しておかなければなりません。
公開会社でない株式会社は,その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができるとされていますが,監査役会設置会社および会計監査人設置会社においては,監査役の監査の範囲を会計に限定することはできません(389条1項)。
したがって,本肢は誤りということになります。
なお,会計監査権限のみを有する監査役が1名しかいない場合,会社が公開会社となる旨の定款の変更をすると,当該監査役の任期は終了することになりますが(336条4項4号の場合),
この場合,当該会社の監査役が欠けることになるので,任期満了として退任した監査役は,会社法346条1項により,新たな監査役が就任するまでは監査役として権利義務を有することになりますので注意してください(商事法務『論点解説 新・会社法 千問の道標』399~400頁を一部引用)。
さて,以上の知識を踏まえて,以下の問題を見てください。
予想問題
〔問題4〕
監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めのある会社が,当該会社の監査役の任期中に当該定款の定めの廃止を株主総会において決議した場合には,当該監査役は退任することになるので,会社が後任の監査役を選任し,就任したときには,監査の範囲の定めの廃止による変更,監査役の退任,就任による変更登記を申請しなければならない。
〔解答・解説〕
正しい。
監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めのある会社が,その定めを廃止する定款の変更をした場合には,監査役は定款の変更の効力発生時に任期が満了します(会社法336条4項3号)。
したがって,当該定款の定めを廃止した場合は,その効力発生時をもって任期満了により退任するので,会社が後任の監査役を選任し,就任したときには,監査の範囲の定めの廃止による変更,監査役の退任,就任の変更登記を申請しなければなりません。
ただし,後任者が選任されない場合は従前の監査役は権利義務を有する監査役として会社に残ることになります。
〔問題5〕
監査役設置会社の定めのある会社が,監査役設置会社の定めを定款変更により廃止した場合には,監査役設置会社の定めの廃止の登記申請と併せて,監査役の退任登記を申請しなければならない。
〔解答・解説〕
正しい。
先ほど説明したとおり,監査役を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした場合には,監査役の任期は,当該定款の変更の効力が生じた時に満了します(会社法336条4項1号)。
したがって,監査役を置く旨の定款の定めを廃止する定款の変更をした場合には,監査役設置会社の定めの廃止の登記申請と併せて,監査役の退任登記を申請しなければならないとされています(商業登記法24条12号)
(きんざい『月刊登記情報534号会社法の施行に伴う商業・法人登記事務の取扱いに係る関係政省令の解説』法務省民事局商事課法規係長西田淳二,同法規係員吉田一作)。
3 補欠監査役に関して
予想問題
〔問題6〕
定款に監査役の補欠に関する定めのある株式会社において,当該会社の唯一の監査役が会社法施行後任期満了前に辞任により退任し,その監査役の補欠として就任した監査役の任期満了による退任の登記は,前任監査役が任期満了により退任すべき時をもって,退任の登記を申請しなければならない。
〔解答・解説〕
正しい。
会社法施行前の商法(以下,「旧商法」という)における補欠監査役の任期については,旧商法273条3項により,定款をもって任期満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役の任期を退任した監査役の任期の満了する時までと定めることができるとされていました。
この規定の趣旨は,監査役が複数名いる場合にその任期をそろえ,監査役の任期満了による改選の煩雑さを避けるためでした。
そういった趣旨から,監査役の任期を短縮しても,他の監査役と任期の終期が同一とならない場合や,監査役が1人しか置かれていない場合には監査役全員が任期満了前に辞任した場合であっても補欠監査役としての任期の短縮は認められていませんでした。
ところが,会社法においては,広く補欠の役員の予選について新たな規定が設けられており,株主総会で「役員が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなるときに備えて」補欠の役員を選任することを認めていることから(会社法329条2項,会社法施行規則96条),
監査役が1人しか置かれていない場合や監査役の就任時期が同一でない場合であっても,定款に会社法336条3項の定めがある場合には,補欠の規定を適用し前任者の任期の残存期間をその任期とすることができることとされました。
(きんざい『月刊登記情報536号 会社法施行後における商業登記実務の諸問題』法務省民事局商事課商業法人登記第一係長矢部博志一部引用,テイハン『登記研究700号質疑応答7834』参考)
4 社外監査役に関して
社外監査役の論点を確認しましょう。社外監査役とは,株式会社の監査役であって,過去に当該株式会社またはその子会社の取締役,会計参与(会計参与が法人であるときは,
その職務を行うべき社員)もしくは執行役または支配人その他の使用人となったことがないものをいう,とされています(会社法2条16号)。
また,監査役会設置会社においては,監査役は,3人以上で,そのうち半数以上は,社外監査役でなければならないとされています(335条3項)。
ところで,社外監査役が選任され就任した場合であっても,必ずしも社外監査役として登記をするわけではありません。
①株式会社が監査役会設置会社である場合(911条3項18号)と
②会社法427条1項の責任の限度に関する契約の締結についての定款の定めがある場合で当該定款の定めが社外監査役に関するものであるとき(911条3項26号)は,監査役のうち社外監査役であるものについて,社外監査役である旨を登記しなければなりません。以上を踏まえて次の問題を見てください。
予想問題
〔問題7〕
監査役会設置会社が監査役会設置会社の定めを廃止した場合,社外監査役が負う責任の限度に関する契約の締結についての定款の定めの登記がある場合を除き,監査役会設置会社の定めの廃止と社外監査役の登記の抹消登記を併せて申請しなければならない。
〔解答・解説〕
正しい。
監査役会設置会社の定めの廃止による変更登記の登記すべき事項は,監査役会設置会社の定めを廃止した旨,監査役会設置会社の定めの廃止により社外監査役の登記を抹消する旨および変更年月日ですが,
社外監査役が負う責任の限度に関する契約の締結についての定款の定めの登記があるときは(会社法911条3項26号),社外監査役の登記の抹消を要しません(法務省民商第782号通達)。
5 会計監査人に関して
予想問題
〔問題8〕
大会社は会計監査人を置かなければならないが,当該会社の会計監査人が任期満了の際の定時株主総会において別段の決議がなされなかったときは,重任による変更の登記を申請しなければならない。
〔解答・解説〕
正しい。
大会社および委員会設置会社は,会計監査人を置かなければならないとされました(会社法327条5項,328条)。会計監査人は,株主総会の決議により選任されます。
会計監査人の任期は,選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされ,会計監査人の選任決議において,会計監査人の任期を,法定の任期より伸長し,または短縮することはできません(平成19年本試験午後の部問題31肢エ)。
定時株主総会において別段の決議がされなかったときは,当該定時株主総会において再任されたものとみなされます(338条2項)。
したがって,別段の決議(解任決議や不再任決議)がなされなかったときは,重任の登記を申請しなければなりません。
なお,添付書面は定時株主総会議事録(商業登記法54条4項),会計監査人が監査法人であるときは,当該法人の登記事項証明書(54条2項2号),会計監査人が監査法人でないときには,公認会計士または外国公認会計士であることを証する書面(54条2項3号)が必要となりますが,会計監査人の就任承諾書の添付は不要です(法務省民商第782号通達)。
なお,同様の論点として,平成19年本試験午後の部問題33肢オで出題されています。
●参考書籍等
『商業登記ハンドブック』商事法務
『月刊登記情報534号』きんざい
『月刊登記情報536号』きんざい
『論点解説 新・会社法 千問の道標』商事法務
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