ネコでも分かる供託法No.14 田中利和
司法書士 田中利和
(1) 仮差押えのされた債権について供託がなされ,その供託金還付請求権に対して差押えがされた場合の供託官の事情届
教授「前回は,みなし解放金について学習したところで終わってしまったね。今回は,『仮差押えのされた債権について供託がなされ,その供託金還付請求権に対して差押えがされた場合の供託官の事情届』を学習して,その後は,担保(保証)供託に入っていこう」
司法「分かりました」
教授「民事保全法50条3項においては,『第三債務者が仮差押えの執行がされた金銭債権の額に相当する金銭を供託したときは,仮差押債務者が仮差押解放金の金額に相当する金額を供託したものとみなされている』と規定されているとおり,これが“みなし解放金”ということだったよね」
司法「はい。そして,その仮差押え執行の効力は,仮差押債務者の有する供託金の還付請求権に及ぶ,つまり,供託金還付請求権の上に,仮差押えの執行の効力が移行するということでした(平2・11・13民四第5002号通達)」
教授「そうだね。だから,仮差押債務者の有するこの供託金還付請求権に対して,他の債権者からの強制執行または担保権の実行もしくは行使による差押えがされると(債権の一部の仮差押えのあった場合は,その残余の部分を超えて差押えがなされた場合に限る),当該仮差押えの執行の効力と競合することになり,裁判所が配当の実施として,供託所に対する支払委託に基づいて差押債権者等に払渡しをする必要がある(民執法166条1項1号)」
司法「そうすると,供託所は第三債務者としてその債権の額に相当する金銭を供託する義務が生ずることになりますね(民保法50条5項で準用する民執法156条2項)」
教授「そうだね。しかし,
すでに供託されている金銭に対する供託金還付請求権について,さらに供託することは無意味なので,供託官が改めて供託する必要はない。しかし,他の債権者の差押命令の送達を受けた際に,供託官が直ちに差押命令を発した執行裁判所に事情届をする必要が生じることとなる(平2・11・13民四第5002号通達)」
司法「なるほど。よく分かりました」
教授「試験対策としては,この程度の知識を頭に入れておけば問題ないと思うよ」
(2) 担保(保証)供託
教授「それでは,担保(保証)供託に入っていこう。担保(保証)供託には,『営業保証供託』『裁判上の供託』『税法上の供託』などがある。本試験において,平成15年,16年,そして,昨年の19年に,それぞれ,まるまる1問が出題されているよね」
司法「そうですね。それら以外の出題については,問題の内の肢として出題されている程度だと思います」
教授「そうだね。平成15年,16年ともに営業保証供託に関する論点が出題されたけれど,今後の出題の可能性としてはそれほど高くないと思うよ。むしろ,昨年出題された『民事保全法の保全命令に係る担保供託』などの『裁判上の供託』に関する論点が出題される可能性のほうが高いと思うね」
司法「なぜ,そのように思われるのですか。何か理由があるのでしょうか?」
教授「そうだね。あえて理由をあげるとすれば,それは司法書士法の改正がその理由だね。司法書士は一定の制限はあるものの,民事訴訟法や民事保全法等の訴訟行為を代理することができるようになったよね。それが理由だよ。余談はこれぐらいにして本論に話を戻そう。過去に出題された営業保証供託の論点も確認して,裁判上の保証供託の論点を確認していこう」
司法「なるほど,司法書士の試験は実務家登用試験ですよね。試験の出題傾向は実務に即した試験の内容であるべきですよね。試験に合格すれば,一定の研修制度はあるようですが,開業することができますからね」
教授「また話がそれたけれど,開業に関することは,富田太郎先生の独立開業ナビゲーターで勉強してね」
司法「はい……」
(3) 営業保証供託
教授「それでは,営業保証供託から学習していこう。出題の可能性の低いところは思い切ってカットするよ。しかし,営業保証供託の制度・趣旨は押さえておこう。営業保証供託とは,宅地建物取引業,旅行業等を営業する者が,その営業活動によって生じる損害等を担保するためにする供託のことなんだ」
司法「はい」
教授「これらの営業は,取引の相手方が不特定多数で,その取引活動も広範で頻繁に行われることから,その取引の相手方に対して,その取引によって損害を与えるおそれが高いので,その営業活動によって生じた損害や債務を担保させるためや,営業主として社会的に信用が保証される必要性から,一定の金銭等の供託が義務づけられているんだ」
司法「なるほど。営業保証供託の趣旨としては,その営業主と取引する相手方の保護ということになりますね」
教授「次の問題を見てくれるかい」
旅行業者の営業保証金の取戻請求権を滞納処分により差し押さえた税務署の徴収職員は,その旅行業者が営業継続中であっても供託金の払渡しを請求することができる。(昭和60年 問14肢4)
司法「営業保証金の趣旨からすると,営業継続中は滞納処分による差押えであったとしても,供託金の払渡しは認められないのでしょうか?」
教授「そういうこと。結論からいうと,本肢は誤りなんだ。供託した営業保証金を簡単には取り戻したりすることはできないんだよ。営業を廃止した場合,事業の許可・免許等が取り消された場合等,営業保証金を供託しておく必要がなくなった場合等の事由がないと取り戻すことはできないんだ。
ちなみに,旅行業者の場合,営業主が営業保証金を取り戻す場合には,営業保証金について権利を有する者に対して,債権の額等を記載した書面等を登録行政庁に提出するように公告をしなければならないとされている(旅行業法20条4項,9条8項,旅行業者営業保証金規則9条2項)」
司法「株式会社が解散した場合の手続と似ていますね。ところで,営業保証供託の管轄はどこですか?」
教授「それぞれの関係法令の規定によることになるね。そもそも営業保証供託が,取引によって生じる不特定多数の相手方の損害等を担保するものであるので,それらの相手方の権利行使の利便性などを考慮して『営業を行う者の主たる営業所の最寄りの供託所』と規定している場合が多いね。
次の問題を見てくれるかい」
宅地建物取引業の営業保証供託は,宅地建物取引業が複数の営業所を有するときは,いずれかの営業所の所在地の最寄りの供託所にすることができる。(昭和60年 問11肢5)
司法「そうすると,この肢は誤りでしょうか」
教授「そのとおり。宅地建物取引業者は,営業保証金を主たる事務所の最寄りの供託所に供託しなければならないとされているんだ(宅建業法25条1項)。したがって,誤りの肢だね。同じ趣旨の問題が平成3年,問11肢5にも出題されているね。ちなみに,旅行業者のする営業保証金の供託は,旅行業者の主たる営業所の最寄りの供託所にしなければならないとされている(旅行業法8条7項)」
(4) 裁判上の担保供託
教授「さて,それでは,裁判上の保証供託について学習していこう。
民事訴訟法,民事執行法および民事保全法においては,訴訟行為または裁判上の処分がなされる場合には,担保の提供やその方法について規定しており,これらの担保提供が供託によってなされる場合があるんだ。これを『裁判上の担保供託』というんだよ。
裁判上の担保の提供の方法については,必ずしも供託によらなければならないというわけではないんだ(民訴法76条参照)。しかし,一般的には供託によることがほとんどだろう」
司法「なるほど。営業保証供託の趣旨は,その営業主と取引する相手方の保護でしたが,この裁判上の担保供託の趣旨は何ですか?」
教授「これも先ほどの営業保証供託と趣旨は同様だ。
こちらは特定の相手方が被る損害を担保するためだとされているね。それでは具体的に論点を確認していこう。裁判上の担保(保証)供託についても頻出論点ではないけれど,昨年に引き続き連続して今年の本試験に出題される可能性があるかもしれないので,昨年の問題を中心に学習していこう」
司法「昨年の本試験においては,『民事保全法の保全命令に係る担保供託』が出題されました」
教授「保全命令とは,仮差押命令および仮処分命令の総称なんだ。仮差押えは,金銭の支払を目的とする債権についての将来の強制執行を保全するためのものであり(民保法20条),係争物に関する仮処分は,特定物の引渡請求権等につき,当該特定物の現状を維持して将来の強制執行による権利の実行等を保全するためのものであるとされ(民保法23条1項),
また,仮の地位を定める仮処分は,争いのある権利関係につき,債権者に生ずる著しい損害または急迫の危険を避けるために行われるものであるとされている(23条2項)」
司法「そもそも仮差押えや仮処分は,民事訴訟の本案の権利を実現させるための,いわば暫定的な措置として行われるものですよね(民保法1条参照)」
教授「そうだね。保全命令の申立てを受理した裁判所は,担保を立てさせて,もしくは相当と認める一定の期間内に担保を立てることを保全執行の実施の条件として,または担保を立てさせないで保全命令を発することができるとされているんだ(民保法14条1項)」
司法「いよいよ,供託をする場面が出てきましたね」
教授「どこの管轄に供託することができるかな? 次の問題を見てみよう」
保全命令に係る担保供託は,債務者の住所地の供託所に供託しなければならない。(平成19年 問11肢ア)
教授「結論としては誤りの肢だ。民事保全法に基づく担保供託は,担保を立てるべきことを命じた裁判所または保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託しなければならないとされている(民保法4条1項)。
ただし,保全命令に係る担保供託の場合は,手続上,迅速性を要する場合が多いことから,遅滞なく民事保全法4条1項の供託所に供託することが困難な事由があるときは,裁判所の許可を得て,債権者の住所地又は事務所の所在地その他裁判所が相当と認める地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができるとされているんだ」
司法「なるほど。本肢は,いずれにしても誤りの肢ということですね」
教授「そういうこと。それでは次の問題を見てみよう」
保全命令に係る担保供託は,第三者が当事者に代わってすることができない。(平成19年 問11肢ウ)
司法「保全命令に係る担保供託は,あくまでも保全命令によって被る損害を担保させるため,ということが裁判上の担保供託の趣旨ですから,その趣旨から考えると認められてもよさそうですが……」
教授「第三者の供託が認められているんだ。たとえば,裁判所から担保の提供を命じられた仮差押債権者であり,被供託者は仮差押債務者となるんだけれども,第三者が裁判上の担保供託をする場合,当該供託書に第三者が供託する旨を明記させることによって供託することができるとされているんだ(昭18・8・13民甲第511号)。
この先例は,実務上,担保提供義務者である当事者に資力がないなどの理由で,その親族や代理人等の第三者がこれに代わって供託を希望する場合の取扱いで,特に,第三者が供託するには相手方の同意がなければ受理できないかどうかが問題となったケースだけれども,結論として『同意は要しない』とされたんだ」
司法「なるほど。それでは,営業保証供託は第三者が供託することは認められているのでしょうか?」
教授「裁判上の保証供託と同様に,第三者が供託することも認められるとの見解もあるけれども,営業保証供託の場合は,営業主の社会的信用力を確認する目的もあるから,第三者が営業保証供託金を供託することはできないとされているんだ(昭38・5・27民甲第1569号)。
それでは,第三者が供託することができるかどうか,各場合に分けて整理しておこう」
供託の種類別第三者供託の可否
供託の種類 第三者供託の可否
①弁済供託 ○
②裁判上の供託 ○
③営業保証供託 ×
④仮差押・仮処分解放金の供託 ×
⑤執行供託 ×
⑥没収供託,保管供託 ×
(日本加除出版『供託の知識167問』617頁より抜粋)
(参考書籍)
●『供託の知識167問』日本加除出版
●『雑供託の実例雛形集』日本加除出版
●『民事保全法と登記及び供託実務』テイハン
●『執行供託の理論と実務 申立手続から配当まで』社団法人民事法情報センター
●『別冊ジュリスト供託先例判例百選』有斐閣


