国試記述式対策 「商業登記法」 齋藤隆行
(司法書士) 齋藤隆行
問題
司法書士法務一郎は,平成20年7月5日に事務所を訪れたA運送株式会社の代表取締役甲子太郎から,別紙1から別紙3までの書類のほか,必要書類の交付を受け,別紙4のとおり事情を聴取した。
司法書士法務一郎が,登記すべき事項や登記のための要件などを説明したところ,甲子太郎は,これらの説明を了解し,必要な登記申請書の作成及び登記申請の代理を依頼した。
司法書士法務一郎が,この依頼に基づき同日付で登記を申請する場合において,同社の本店の所在地を管轄する登記所に登記を申請すべき事項について,答案用紙第1欄のアからエまでの項目に分けて,それぞれ同欄の該当部分に記載しなさい。
第2欄には,登記の申請を代理すべきでない事項(会社法上登記すべき事項とされていない事項を除く)があるときは,その事項及びその理由を簡潔に記載しなさい。
(答案作成上の注意事項)
1 別紙中,(以下省略)又は(省略)と記載されている部分は,適法かつ有効な記載があるものとする。なお,その部分には,登記すべき事項に関する記載はないものとする。
2 登記すべき事項は,「別紙のとおり」とせず,具体的に記載するものとする。ただし,代表取締役の住所の記載は省略するものとする。
3 申請書に添付すべき書面は,すべて調えられており,議事録には所要の署名押印がされているものとする。なお,平成20年5月28日付の取締役会議事録に押印された代表取締役甲子太郎の印鑑は,登記所へ提出している印鑑である。
4 申請書の添付書面について,他の書面を援用することができることが明らかなときは,必ず援用すること。
5 登録免許税額については,内訳の記載を要しない。
別紙1
登記事項証明書の概要
商 号 A運送株式会社
本 店 東京都南北区中の丸一丁目2番3号
発行可能株式総数 8万株
発行済株式の総数 2万株
資本金の額 金10億円
株式の譲渡制限に関する規定
当会社の株式の譲渡による取得については,取締役会の承認を要する。
役員に関する事項
取 締 役 甲子太郎 平成19年5月30日重任
取 締 役 乙野次郎 平成19年5月30日重任
取 締 役 丙野花子 平成19年5月30日重任
取 締 役 丁山三郎 平成19年5月30日重任
取 締 役 戊原鳥子 平成19年5月30日重任
取 締 役 己田四郎 平成19年5月30日重任
代表取締役 甲子太郎 平成19年5月30日重任
代表取締役 乙野次郎 平成19年5月30日重任
監 査 役 庚川月子 平成19年5月30日就任(社外監査役)
監 査 役 辛沢五郎 平成19年5月30日就任
(社外監査役)
監 査 役 壬井風子 平成19年5月30日就任
会計監査人 庚藤六郎 平成19年5月30日重任
会社状態に関する事項
取締役会設置会社
監査役設置会社
監査役会設置会社
会計監査人設置会社
別紙2
平成20年5月28日定時株主総会議事概要
議決権のある株式の株主,全員出席
(省略)
第1号議案(決算関係・省略)
第2号議案 定款一部変更の件
議長より,監査役会を廃止し,社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定を設定するため,下記のとおり定款の一部変更について説明が行われ,満場異議なく原案のとおり承認可決した。
第4条の2(機関設計)
当会社には,取締役及び株主総会の他,取締役会監査役及び会計監査人を設置する。
第22条(役員の員数)
当会社には,取締役3名以上,代表取締役1名以上,監査役1名以上を置く。
第24条(社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定)
当会社は,会社法第427条の規定により,社外取締役との間に,同法第423条の行為による賠償責任を限定する契約を締結することができる。
ただし,当該契約に基づく賠償責任の限度額は,1,000万円以上であらかじめ定めた金額又は法令が規定する額のいずれか高い額とする。
第3号議案 取締役8名選任の件
議長は,取締役の全員が本定時株主総会の終結時をもって任期満了し退任することとなるので,後任者を選任する必要がある旨の説明を行い,招集通知記載のとおり下記候補者を取締役に選任したい旨を議場に諮ったところ,満場異議なく次のとおり選任可決した。なお,被選任者は,それぞれその就任を承諾した。
取締役甲子太郎,同乙野次郎,同丙野花子,同丁山三郎,同戊原鳥子,同己田四郎,同春山弥生,同夏目葉月
第4号議案 監査役1名選任の件
議長は,監査役辛沢五郎が辞任することとなるので,後任者を選任する必要がある旨の説明を行い,招集通知記載のとおり下記候補者を監査役に選任したい旨を議場に諮ったところ,満場異議なく次のとおり選任可決した。なお,被選任者は,その就任を承諾した。
監査役 秋野霜月
(以下省略)
別紙3
平成20年5月28日取締役会議事概要
取締役及び監査役,全員出席
議案 代表取締役選定の件
議長より,代表取締役の選定について説明が行われ,満場異議なく次のとおり選定可決した。なお,被選定者は,それぞれその就任を承諾した。
代表取締役 甲子太郎,同 乙野次郎
(以下省略)
別紙4
司法書士の聴取記録
1 別紙1の当社取締役,監査役及び会計監査人は,いずれも平成19年5月30日開催の定時株主総会において選任され,席上直ちに,それぞれその就任を承諾している。
2 平成20年5月1日,監査役辛沢五郎から,平成20年5月28日開催の定時株主総会において,監査役会設置会社に関する定款の定めが廃止されることを条件に辞任したい旨の辞任届が会社に提出されている。
3 平成20年5月28日開催の定時株主総会においては,第1号議案から第4号議案までが審議され,これ以外に審議された議案はない。
4 取締役春山弥生及び同夏目葉月は,社外取締役として選任されており,平成20年5月28日付で,会社法第427条の規定により,当社と同人等との間に,同法第423条の行為による賠償責任を,定款で定められた1,000万円又は法令が規定する額のいずれか高い額に限定する旨の契約が締結されている。
5 監査役に選任された秋野霜月は,当社の子会社である株式会社A倉庫運輸の経理部長であり,引き続きその職を務める意向であり,現在,その職を辞するつもりはない。
6 定款には,「取締役の任期を選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとし,監査役の任期を選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする」「当会社の事業年度は,毎年4月1日から翌年3月31日までとする」「当会社の定時株主総会は,毎事業年度の末日の翌日から2か月以内に開催する」旨の定めがある。
答案用紙
第1欄
ア 登記の事由
イ 登記すべき事項
ウ 登録免許税額(内訳の記載を要しない)
エ 添付書面
第2欄
登記の申請を代理すべきでない事項
その理由
解説
〈本問の出題の趣旨〉
取締役,代表取締役および監査役の変更,会計監査人の変更,監査役会設置会社の定めの廃止,社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定の設定の手続およびこれらの登記手続に関する知識および能力を試すための出題である。
1 取締役会設置会社(委員会設置会社を除く)における取締役,代表取締役および監査役の変更
(1)取締役会設置会社における取締役,代表取締役および監査役の変更の実体上の手続
①取締役の就任と任期満了による退任
取締役は,株主総会において選任される。そして,被選任者がその就任を承諾することにより,取締役就任の効力が生ずる。
取締役の任期は,原則として,選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までである(会社法332条1項本文・3項)。ただし,定款または株主総会の決議によって,その任期を短縮することができる(332条1項ただし書・3項)。
この任期の起算点は,旧商法と異なり,「就任」の時ではなく,「選任」の時である(平18・3・31民商782号通達)。そして,取締役は,この任期が満了したことにより,当然に退任する。
取締役会設置会社(2条7号)における取締役の員数は,3人以上でなければならない(331条4項)。
②社外取締役の意義および登記
社外取締役とは,株式会社の取締役であって,当該株式会社またはその子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人でなく,かつ,過去に当該株式会社または子会社の業務執行取締役もしくは執行役または支配人その他の使用人となったことがないものをいう(2条15号)。
社外取締役の要件として,業務執行に関与する取締役等でないことを定めることによって,会社経営者に対する監視機能を果たすことが期待されている。
そして,取締役が社外取締役である場合において,
①会社法373条1項の規定による特別取締役の議決の定めがある場合,
②委員会設置会社である場合,または
③社外取締役が負う責任の限度に関する契約の締結についての定款の定めがある場合においてのみ,社外取締役である旨の登記を申請しなければならない(911条3項21号ハ・22号イ・25号)。
社外取締役が存在することにより格別の効果が生じないような場合についてまで,その公示をする合理性はないからである(相澤『一問一答新・会社法』P129参照)。
③代表取締役の就任と資格喪失による退任
取締役会設置会社(委員会設置会社を除く)においては,取締役会の決議をもって取締役の中から代表取締役を選定しなければならない(362条2項3号・3項)。
この選定決議のほか,被選任者がその就任を承諾することにより,代表取締役就任の効力が生ずる(旬刊『商事法務・1778』P4,7参照)。
ここでいう「就任の承諾」とは,代表取締役として株式会社との委任契約に基づく就任承諾ではなく,代表取締役への就任拒否権を行使しないことの確認としての承諾を意味する(同P4,8参照)。
代表取締役は取締役であることを前提とするので(362条3項),取締役を退任したときは,当然に代表取締役の資格を喪失して退任する。
④監査役の就任と辞任
会社法では,監査役は,必置機関ではないが(326条2項),取締役会設置会社(委員会設置会社を除く)は,原則として監査役を置かなければならない(327条2項本文)。
監査役設置会社(2条9号)においては,監査役は1人以上を置けば足りる。
監査役は,取締役と同様に,株主総会において選任される。そして,被選任者がその就任を承諾することにより,監査役就任の効力が生ずる。
監査役の任期は,原則として選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までである(336条1項)。
そして,監査役は,この任期中であればいつでも監査役の辞任の意思表示をすることができる。
辞任の意思表示は,原則として,会社に到達した時にその効力が生じる。
⑤社外監査役の意義および登記
社外監査役とは,株式会社の監査役であって,過去に当該株式会社またはその子会社の取締役,会計参与(会計参与が法人であるときは,その職務を行うべき社員)もしくは執行役または支配人その他の使用人となったことがないものをいう(2条16号)。
監査の実効性を確保するために,社外監査役による異なる視点からの客観的な監査を導入したものである。
株式会社が監査役会設置会社(2条10号)であるときは,その旨および監査役のうち社外監査役であるものについては社外監査役である旨の登記を申請しなければならない(911条3項18号)。
また,社外監査役が負う責任の限度に関する契約の締結についての定款の定め(427条1項)があるときは,その定め(911条3項24号)および監査役のうち社外監査役であるものについて,社外監査役である旨の登記を申請しなければならない(911条3項26号)。
(2)本問の検討
取締役甲子太郎,同乙野次郎,同丙野花子,同丁山三郎,同戊原鳥子,同己田四郎は,いずれも平成19年5月30日開催の定時株主総会において選任されているので(別紙1,4の1),その任期は,定款の規定により,選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のもの(自平成19年4月1日至平成20年3月31日)に関する平成20年5月28日開催の定時株主総会の終結の時までとなるが,
同人等は,同総会において,取締役として再選され(別紙2),それぞれその就任を承諾している(同別紙)。したがって,同日付で就任(重任)する。
春山弥生,夏目葉月は,平成20年5月28日開催の定時株主総会において,取締役として選任され,それぞれその就任を承諾している(別紙2)。したがって,同日付で取締役に就任する。
また,同人等は社外取締役として選任されており(別紙4の4),同総会において社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定を設けるための定款変更決議がなされ(別紙2),
かつ,同日付で社外取締役が負う責任の限度に関する契約が締結されているので(別紙4の4),社外取締役である旨の登記を申請する。
代表取締役甲子太郎,同乙野次郎は,平成20年5月28日付で,代表取締役の前提資格である取締役の地位を喪失するが,同日開催の定時株主総会において,取締役として再選され(別紙2),それぞれその就任を承諾している(同別紙)。
そして,同日開催の取締役会において代表取締役に選定され(別紙3),それぞれその就任を承諾している(同別紙)。したがって,同人等は,平成20年5月28日付で就任(重任)する。
監査役(社外監査役)辛沢五郎は,平成20年5月28日開催の定時株主総会において,監査役会設置会社に関する定款の定めが廃止されることを条件に辞任したい旨の辞任届を会社に提出している(別紙4の2)。
A運送株式会社は,監査役会設置会社であったため(別紙1),監査役を3人以上置かなければならなかったが,同総会において,監査役会を置く旨の定めを廃止している(別紙2)。
したがって,同日付で条件が成就し,同人の辞任の効力が生じる。
監査役庚川月子は,社外監査役であり,A運送株式会社は,監査役会設置会社であったため(別紙1),同人については,社外監査役の旨の登記がなされていたが(同別紙),平成20年5月28日開催の定時株主総会において,監査役会を置く旨の定めを廃止している(別紙2)。
したがって,もはや社外監査役の旨の登記をしておく必要がなくなったため,同日付で社外監査役の旨の登記の抹消(変更)登記を申請する。
(3)取締役,代表取締役および監査役の変更登記手続(申請書作成上のポイント)
ア 登記の事由
「取締役,代表取締役及び監査役の変更」と記載する。
イ 登記すべき事項
取締役,代表取締役および監査役の氏名(代表取締役の就任についてはその住所も登記事項であるが本問では問われていない),退任または就任(重任)した旨およびその年月日を解答例のように記載する。
ウ 登録免許税
資本金が1億円を超える会社においては,役員変更分として,申請件数1件につき3万円を納付する(登免別表第一24(1)カ)。
エ 添付書面
(ア) 辞任届(商登法54条4項)
監査役(社外監査役)辛沢五郎の辞任を証するために添付する。
(イ) 株主総会議事録(商登法46条2項,54条4項)
取締役の退任時期,選任決議を証するために,平成20年5月28日付の定時株主総会議事録(別紙2)を添付する。
(ウ) 取締役の就任承諾を証する書面(商登法54条1項)
平成20年5月28日開催の定時株主総会で取締役が選任され,その議事録に被選任者が席上就任を承諾している旨が記載されているので,就任承諾を証する書面として,議事録の記載を援用することができる。本問では必ず援用しなければならないことに注意する(答案作成上の注意事項4)。
(エ) 取締役会議事録(商登法46条2項)
代表取締役の選定決議を証するため,平成20年5月28日開催の取締役会議事録(別紙3)を添付する。
(オ) 代表取締役の就任承諾を証する書面(商登法54条1項)
(イ)と同様である。本問では必ず援用しなければならないことに注意する(答案作成上の注意事項
4)。
(カ) 委任状(商登法18条)
代表取締役から司法書士へ宛てた委任状を添付する。
印鑑証明書の添付の要否(商登規則61条3 項・2項後段・4項ただし書)
本問では,平成20年5月28日開催の取締役会において,代表取締役として甲子太郎および乙野次郎を選定している(別紙3)。
そして,甲子太郎および乙野次郎は,いずれも再任であるので(別紙1),両名の就任承諾を証する書面として援用する平成20年5月28日付の取締役会議事録に押印されている印鑑については,商業登記規則61条3項で読み替えて適用する同条2項後段に規定する市区町村長の作成した証明書を添付することを要しない(商登規則61条3項・2項後段参照)。
また,当該取締役会議事録に押印された代表取締役甲子太郎の印鑑は,登記所へ提出している印鑑であり(答案作成上の注意事項3),商業登記規則61条4項ただし書の適用により,平成20年5月28日付の取締役会議事録に押印された出席取締役および監査役の印鑑につき市区町村長の作成した証明書の添付を要しない。
2 監査役会設置会社の定めの廃止
(1)監査役会設置会社の定めの廃止の実体上の手続
①監査役会設置会社の意義
「監査役会設置会社」とは,定款の定めにより監査役会を置く株式会社(会社法326条2項),または会社法の規定により監査役会を置かなければならない株式会社(公開会社である大会社,328条1項)をいう(2条10号)。公開会社でない大会社は,会計監査人を置かなければならないが(328条2項),監査役会を置かなくてもよい(328条1項かっこ書)。
②監査役会設置会社である旨の定款の定めの廃止
「監査役会設置会社」のうち,定款の定めにより監査役会を置く株式会社(326条2項)については,株主総会において定款変更決議を行い,監査役会設置会社である旨の定款の定めを廃止することができる(466条)。この決議は,原則として,当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない(特別決議,309条2項前段・11号,466条)。
(2)本問の検討
平成20年5月28日開催の定時株主総会において,監査役会を置く旨の定款の定めを廃止する旨の定款変更決議を行っている(別紙2)。この決議は,当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数が出席し(全員出席),出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数(満場異議なく)によりなされており,有効に成立している(同別紙)。
(3)監査役会設置会社の定めの廃止の変更登記手続(申請書作成上のポイント)
ア 登記の事由
「監査役会設置会社の定めの廃止」と記載する。
イ 登記すべき事項
監査役会設置会社の定めを廃止した場合には,その旨のほか,監査役会設置会社の定めの廃止により社外監査役の登記を抹消する旨およびその変更年月日を解答例のように記載する。ただし,社外監査役が負う責任の限度に関する契約の締結についての定款の定めの登記があるとき(会社法911条3項26号)は,社外監査役の登記の抹消を要しない(平18・3・31民商782号通達)。
ウ 登録免許税
監査役会に関する事項の変更分として,申請件数1件につき3万円を納付する(登免別表第一24(1)ワ)。
エ 添付書面
(ア) 株主総会議事録(商登法46条2項,54条4項)
監査役会設置会社の定めの廃止決議を証するために,平成20年5月28日付の定時株主総会議事録(別紙2)を添付する。
(イ) 委任状(商登法18条)
代表取締役から司法書士へ宛てた委任状を添付する。
3 会計監査人の変更
(1)会計監査人の変更の実体上の手続
①会計監査人の意義および資格
会計監査人とは,株式会社の計算書類およびその附属明細書,臨時計算書類並びに連結計算書類を監査し,法務省令(会施規則110条)で定めるところにより,会計監査報告を作成しなければならない者をいう(会社法396条1項)。会計監査人は,公認会計士または監査法人でなければならない(337条1項)。
②会計監査人と会社との関係並びに選任
会計監査人と会社との関係は,民法の委任に関する規定に従う(330条,民法643条~656条)。会計監査人は,株主総会の決議によって選任される(会社法329条1項)。そして,株主総会の決議のほか,被選任者の就任承諾により,会計監査人の就任の効力が生じる(330条,民法643条)。
③会計監査人の任期
会計監査人の任期は,選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までであり(会社法338条1項),その定時株主総会において別段の決議がされなかったときは,会計監査人は,当該定時株主総会において再任されたものとみなされるが(同条2項),再任されたものとみなされた場合であっても,新たに会計監査人への就任承諾は要しない(平18・3・31民商782号通達)。
(2)本問の検討
会計監査人庚藤六郎は,A運送株式会社の会計監査人であるが(別紙1),その任期が満了する平成20年5月28日開催の定時株主総会において,別段の決議がされていない(別紙2,4の3)。したがって,同総会の終結の時に就任(重任)する。
(3)会計監査人の変更の登記手続(申請書作成上のポイント)
ア 登記の事由
「会計監査人の変更」と記載する。
イ 登記すべき事項
会計監査人の氏名,就任(重任)した旨およびその年月日を解答例のように記載する。
ウ 登録免許税
資本金が1億円を超える会社においては,会計監査人の変更分として,申請件数1件につき3万円を納付する(登免別表第一24(1)カ)。
エ 添付書面
(ア) 株主総会議事録(商登法54条4項)
会計監査人の退任および就任の時期を証するために,平成20年5月28日付の定時株主総会議事録(別紙2)を添付する。
(イ) 会計監査人の資格を証する書面(商登法54条2項3号)
会計監査人に再任されたものとみなされた公認会計士の資格を証するため添付する(平18・3・31民商782号通達参照)。具体的には,会計監査人が法人でないときは,日本公認会計士協会が発行した公認会計士の会計監査人資格証明書(平18・3・31民商782号通達)を添付する。
(ウ) 委任状(商登法18条)
代表取締役から司法書士へ宛てた委任状を添付する。
会計監査人の任期満了の際の定時株主総会において別段の決議がされなかったことにより,会計監査人が再任されたものとみなされる場合(会社法338条2項)の重任の登記の申請書には,会計監査人が就任を承諾したことを証する書面を添付することを要しない(平18・3・31民商782号通達)。
4 社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定の設定
(1)社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定の設定の実体上の手続
株式会社は,社外取締役,会計参与,社外監査役または会計監査人(社外取締役等)の責任(会社法423条1項)について,当該社外取締役等が職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がないときは,定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額(425条1項1号)とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を社外取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができる(427条)。
(2)本問の検討
平成20年5月28日開催の定時株主総会において,社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定を設ける旨の定款変更決議を行っている(別紙2)。
この決議は,当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数が出席し(全員出席),出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数(満場異議なく)によりなされており,有効に成立している(同別紙)。
(3)社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定の設定の登記手続(申請書作成上のポイント)
ア 登記の事由
「社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定の設定」と記載する。
イ 登記すべき事項
社外取締役等の会社に対する責任の制限に関する規定を設けた旨,取締役または監査役のうち社外取締役または社外監査役であるものについてその旨,および変更年月日を解答例のように記載する(会社法911条3項24号~26号)。ただし,社外取締役または社外監査役についての登記は,すでにその登記があるときは,重ねてすることを要しない(平18・3・31民商782号通達)。
ウ 登録免許税
登記事項の変更分として,申請件数1件につき3万円を納付する(登免別表第一24(1)ネ)。
エ 添付書面
(ア) 株主総会議事録(商登法46条2項)
社外取締役等の会社に対する責任の制限に関する規定を設ける旨の定款変更決議が有効になされたことを証するために,平成20年5月28日付の定時株主総会議事録(別紙2)を添付する。
(イ) 委任状(商登法18条)
代表取締役から司法書士へ宛てた委任状を添付する。
第2欄 登記の申請を代理すべきでない事項
1 親会社の監査役が子会社の使用人を兼任することの可否
(1)親会社の監査役が子会社の使用人を兼任することの可否
監査役は,株式会社もしくはその子会社の取締役もしくは支配人その他の使用人または当該子会社の会計参与(会計参与が法人であるときは,その職務を行うべき社員)もしくは執行役を兼ねることができない(会社法335条2項)。
親会社の監査役が子会社の取締役等を兼任した場合には,子会社の取締役が親会社の取締役に従属する立場にあることから,職務の独立性を害され,親会社の監査の公正が害されるおそれがあるからである。
さらに,親会社の監査役は子会社調査権を有することから(381条3項),親会社の監査役が子会社の取締役等を兼任した場合には,当該権限の適正な行使が期待できないからである。
ここでいう「使用人」とは,会社と雇用関係にある総務部長,人事部長,経理部長,出納係等の使用人(『実務相談株式会社法』4P4,8,12参照)等である(『実務相談株式会社法』4P15参照)。
なお,取締役の地位にある者を監査役として選任する決議は,当然には無効とはならない(最判平元・9・19参照)。監査役の兼任禁止規定は,監査役の欠格事由を定めたものではないと解されており,
また,監査役の就任は,監査役の選任決議のみで当然に効力が生ずるものではなく,被選任者が就任を承諾することによって効力が生じるものであり,この時までに取締役等の地位を辞任していれば,監査役の兼任禁止規定に反するわけではないからである。
(2)本問の検討
平成20年5月28日開催の定時株主総会で,A運送株式会社の子会社である株式会社A倉庫運輸の経理部長(使用人)である秋野霜月を監査役に選任する旨の決議がなされている(別紙2,4の5)。
そして,秋野霜月は,当該総会において席上その就任を承諾しているが,引き続きその職を務める意向であり,現在,その職を辞するつもりはない(別紙4の5)。
したがって,監査役の兼任禁止規定に抵触することとなるため,同人はA運送株式会社の監査役に就任することはできず,同人の監査役の就任による変更の登記は,登記の申請を代理すべきでない事項となる。
解答例
第1欄
ア 登記の事由
取締役,代表取締役及び監査役の変更
会計監査人の変更
監査役会設置会社の定めの廃止
社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定の設定
イ 登記すべき事項
監査役(社外監査役)辛沢五郎は,平成20年5月28日辞任
同日監査役会設置会社の定めの廃止
同日社外監査役庚川月子の登記を監査役会の定め廃止により次のとおり変更
監査役庚川月子
同日次の者重任
取締役甲子太郎,同乙野次郎,同丙野花子,同丁山三郎,同戊原鳥子,同己田四郎
代表取締役甲子太郎,同乙野次郎
会計監査人庚藤六郎は,同日重任
同日次の者就任
取締役(社外取締役)春山弥生,同夏目葉月
同日次のとおり設定
社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定
当会社は,会社法第427条の規定により,社外取締役との間に,同法第423条の行為による賠償責任を限定する契約を締結することができる。
ただし,当該契約に基づく賠償責任の限度額は,1,000万円以上であらかじめ定めた金額又は法令が規定する額のいずれか高い額とする。
ウ 登録免許税額(内訳の記載を要しない)
金9万円 ※1
エ 添付書面
辞任届 1通
株主総会議事録 1通
取締役の就任承諾を証する書面
株主総会議事録の記載を援用する
取締役会議事録 1通
代表取締役の就任承諾を証する書面
取締役会議事録の記載を援用する
会計監査人の資格を証する書面 1通
委任状 1通 ※2
第2欄
登記の申請を代理すべきでない事項
監査役秋野霜月の就任
その理由
A運送株式会社においては,平成20年5月28日開催の定時株主総会で,その子会社である株式会社A倉庫運輸の経理部長である秋野霜月を監査役に選任する旨の決議がなされている。
そして,秋野霜月は,当該総会において席上その就任を承諾しているが,引き続き子会社である株式会社A倉庫運輸の経理部長を務める意向であり,現在,その職を辞するつもりはない。
したがって,監査役の兼任禁止規定に抵触することとなるため,同人はA運送株式会社の監査役に就任することはできず,同人の監査役の就任による変更の登記は,登記の申請を代理すべきでない事項となるからである。
※1 監査役会設置会社に関する変更分(登免別表第一24(1)ワ)として金3万円,役員変更分(会計監査人を含む)として金3万円(登免別表第一24(1)カ),および社外取締役の会社に対する責任の制限に関する規定の設定分(登記事項変更分)として金3万円(登免別表第一24(1)ネ)を合計して金9万円となる。
※2 代理人に対し,複数の登記申請に関する事項を委任する旨が記載された委任状1通を添付すれば足りる。
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