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ネコでも分かる会社法 「代表取締役」 太田雅幸

ネコでも分かる会社法・第11回「代表取締役」

(弁護士) 太田雅幸

吉田 今回は,うちで言えばお茶の水さん,つまり,代表取締役について勉強することとしよう。

前田 代表取締役というのは,世襲ですよね。


吉田 うちの会社は,お茶の水家が支配しているからねぇ。ところで,代表取締役の権限について説明してくれたまえ。


業務執行権・包括的代表権

前田 代表取締役は,業務執行行為および代表行為をする権限を有します(363条1項,349条4項)。


吉田 業務執行は,人事,予算の策定,株主総会の招集,重要財産の処分,資金調達等,多岐にわたるわけだ。じゃあ,代表行為というのは。


前田 会社を代表して契約を締結するというのが典型的なものです。


吉田 代表取締役は,1人で,裁判上でも裁判外でも,会社を代表して何でもできるという包括的代表権をもっているのだね。裁判上ということは,会社を代表して訴訟行為をすることができる。

 つまり,会社がだれかを訴えたり,またはだれかから訴えられたりする場合に,法廷で会社を代表して主張したり,立証したりすることができるということだ。

 でも,裁判になった場合には,通常,弁護士に委任するから,代表取締役の代表権が最も活用されるのは,裁判外の行為ということになる。きみの言うように,契約締結行為がその中心だね。


前田 349条5項の「前項の権限に加えた制限は,善意の第三者に対抗することができない」というのは,どういうことですか。


吉田 これが,代表取締役の代表権の不可制限性というやつだね。代表取締役の包括的代表権を内部的に制限する場合がある。

 たとえば,お茶の水さん,福田さん,小沢さんという3人の代表取締役がいるとしよう。お茶の水さんは鉄道部門,福田さんはホテル部門,小沢さんは百貨店部門について,それぞれ代表権を行使することとしようなどと内部的に役割分担を決めておいたとする。

 この場合,お茶の水さんがホテル部門に関する契約を締結することは内部的には逸脱行為だけれど,外部からは逸脱かどうか分からない。そのような制限をしても,それを知らない者に対しては通用しない,すなわち,有効な契約となるよというのが,この規定の趣旨だ。

 代表取締役は包括的代表権を有するという建前があるのだから,仕方がないね。

代表取締役の専断的行為

前田 包括的代表権といっても,オールマイティーではないですよね。取締役会で決議をもらわないといけない事項もあります。


吉田 そう。いい点に気がついたね。まず,取締役会設置会社は,経営の合理化の観点から所有と経営の分離を徹底するため,株主総会の権限を限定し(295条2項),業務執行機関の権限を拡大している。

 そこで,業務執行機関の権限ができるだけ慎重かつ適正に行使されることを確保されるようにするために,機関の分化を図っているわけだ。

 取締役会という合議制の機関を設けたのは,取締役相互の公正な協議によって,真に妥当な結論に到達すべきことを期待しているのだね。

 そして代表取締役の権限だが,さっきも出てきたように,業務執行行為および代表行為をするのだが,重要でない業務執行の意思決定は取締役会自らが行う必要はなく,代表取締役に委任することができ,また,日常の業務の意思決定は黙示的に代表取締役に委任されている。

 でも,重要な事項については,会社法362条4項各号のほか,個々の規定において取締役会の決議を要求し,会社の利益を守っている。代表取締役の独断専行を排除しているのだね。


前田 362条4項1号に「重要な財産の処分及び譲受け」が取締役会決議事項とされています。もし,うちのお茶の水社長が会社の重要財産を取締役会の決議がないのに,勝手に処分したらどうなるのでしょう。


吉田 後で発覚して,取締役会で西国原取締役らがそれに文句を付けた場合にどうなるか,ということだね。


前田 代表取締役が会社法に違反して業務執行をしたのですから……。


吉田 そんな文句を付けてきた西国原取締役の首がとぶだろうねぇ。うちの会社の財産は,お茶の水家の財産で,お茶の水家の当主はうちの社長なんだから,どうとでもなる。

 まぁ,それはそれとして,会社法の建前に戻ることとしよう。きみのいう,取締役会決議を欠く重要財産の処分がされてしまった場合の,その取引行為の有効性の問題は,「代表取締役の専断的行為の効力」の問題といわれる重要問題だね。

 この場合,だれとだれの利益が問題となるのかな。


前田 うちの会社と,うちから重要財産を買った相手の会社です。


吉田 相手の会社を豪徳寺商事としよう。そうすると,お茶の水対豪徳寺だ。


前田 会社法は,お茶の水社長が勝手に重要財産を処分して会社に損をさせることがないように取締役会決議を求めています。

 豪徳寺さんとしては,お茶の水社長が契約をしているのだから,それを信頼して当然です。どっちを保護するかということが問題となります。


吉田 そうだね。外部の第三者は,代表取締役の行為を代表行為として有効なものと信頼するのも無理からぬことだ。

 外部の人にとっては,取締役会の決議は会社の内部の意思決定であって,それが適法になされたかどうかを判断するのは難しいからねぇ。

 そこで,取締役会の決議を要する行為を,決議なしに代表取締役が独断で行った場合の行為の効力については,個々の規定において決議を要求して守ろうとする会社の利益と,行為が代表者によってなされたことを信頼した第三者の利益との比較衡量により具体的に決すべきだということになる。

 たとえば,取締役会決議(201条1項,199条2項)を経ないで,新株を発行することは違法行為なのだが,新株発行というのは多数の利害関係者を生ずるので,いったんしてしまった以上,取引の安全を図るため,できる限りその効力を維持すべきだということになる(この点は,資金調達の部分で勉強することとしよう)。

 しかし,今回の事例のように,重要財産の処分という場合は,一対一の相対取引だから,もう少し緻密に考えることができる。この点に関する判例があるね。


前田 はい。判例は,心裡留保の規定(民法93条)を類推適用するという見解です。つまり,原則として,その処分行為は有効であるが,相手方が取締役会の決議のないことを知り,または注意をすれば知り得たという場合は,無効であるとするのです。


吉田 心裡留保というのは?


前田 心裡留保というのは,簡単に言えば,冗談でものを言うということですね。冗談で言っても,口に出した以上は,取引の安全を図るため,その意思表示を有効なものと扱うというのが民法の建前です。

 しかし,相手方が,それが真意でない,冗談だということについて,悪意または有過失の場合には,その意思表示を無効とするとしています。

 たとえば,ティファニーで,ジョークのつもりで「この300万円の指輪をちょうだい」と言うと,売買契約が成立してしまいます。

 でも,店員さんが,このお客さんはジョークを言っているだけだということを分かっていたり,注意すれば,それが分かったはずだという場合には,売買契約は成立しないことになるのです。


吉田 なるほど。取締役会の決議という会社の意思決定(会社の真意)がないにもかかわらず,代表取締役が会社としての意思表示をしたということは,心裡留保に似たものがあるので,豪徳寺さんからみて,取締役会決議がないことが分かっていたか,あるいは注意すればないことが分かったはずだという場合には,重要財産の処分が無効になるというわけだね。

 でも,この判例の考え方には批判もあるね。


前田 はい。まず,理論的な面からの問題点ですが,お茶の水社長は重要財産を売却するつもりで売却の意思表示をしたのだから,心裡留保を類推することはできないのではないかということです。


吉田 うむ。ただ,その点については,判例は,心裡留保の規定に表現されている価値観,すなわち,悪意または過失のある相手方を保護する必要はないという考え方をもってきているだけという見方もできるからねぇ。

 心裡留保に似ている,似ていないというのは本質的な議論ではないかもしれない。


前田 次に,実質的にみて,判例の考え方がもたらす結論は不当ではないかということです。

 つまり,この理論構成によると,代表取締役が取締役会の決議を得ているかどうかについて知るべきであったのに知らなかったのは注意不足だという場合には,過失があることになって,そのような相手方が保護されないことになるが,本当にそれでよいのかということです。

 そもそも,一番悪いのはお茶の水社長です。次に悪いのは,そのような者を代表取締役に選任したうち(お茶の水株式会社)です。

 そして,きっちりと調査しなかった豪徳寺さんにも,うっかりしていたというミスはありますが,うちが豪徳寺さんに,「おまえがきちんと調査しなかったのが悪いという」と言えた筋合いではないということです。結局,判例の考え方によれば,取引の相手方に調査義務を課することとなって取引の安全を害することになると学説は批判しています。


吉田 よく調べたね。では,判例と異なる考え方はどのようなものかな。


前田 取締役会の決議は内部的意思決定手続にすぎないから,その手続を欠いても代表行為は有効だけれど,手続の欠缺を知りながら取引に入った相手方が,その行為の効力を主張することは信義則(民法1条2項)に反し許されないと考えます。

 すなわち,会社は,手続の欠缺につき悪意の者に対しては(ほんの少し注意すれば,取締役会の決議を経ていないことを知り得たような重過失者も,やはり,取引の効力を主張することは信義則に反するといえるので,重過失者に対しても),代表取締役の専断的行為の無効を主張できるという考え方です。


吉田 結論は正当だけれど,根拠を信義則という一般条項に求めるところが,弱いんだよねぇ。といって,スマートな理屈付けがあるわけではないのだけれど。では,次回は,代表取締役の権限濫用について考えることとしよう。

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