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はじめての民事訴訟法 最終回 安部一郎

住宅新報社講師
   安部一郎

①当事者が複数いる場合の訴訟
②訴訟物が複数ある場合の訴訟

 皆さん,こんにちは。はじめての民事訴訟法の最終回を始めます。


 1 はじめに

 前回までで,訴えの提起から判決まで,そして,判決が下されたのちの不服申立ての手続と訴訟の始まりから終わりまで一通りは終わりました。

 ただ,これは1人の原告が,1人の被告に対して1つの訴訟物で訴えを提起した場合の基本形の場合の話なのです。

 今回からは,ここを修正していきます。つまり,

①当事者が複数いる場合の訴訟
②訴訟物が複数ある場合の訴訟

 について学んでいきます。


 今回は②について掲載します。
 学問上は複数請求訴訟と呼ばれるものです。これには,いろいろな種類があります。
 
 
 ●訴え提起から訴訟物が複数
 →訴えの客観的併合
 ●訴え提起後に訴訟物を複数にする


①原告が訴訟物を増やす
 →訴えの変更


②被告が訴訟物を増やす
 →反訴

 このように3種類あるのですが,出題の中心は訴えの変更と反訴です。特に,反訴に関する出題が多いことは認識しましょう。


 

2 訴えの客観的併合

 訴えの客観的併合とは,1人の原告が1人の被告に対し,訴え提起の時から数個の訴訟物の請求をする場合をいいます。


 たとえば,AがBに対して2つの貸金債権を有していて,その2つとも債務不履行になっている場合を考えてください。訴訟物として訴えを起こすことができるのは2つの貸金債権です。

 ですが,これを1個1個ばらばらにやるのは面倒と思う場合もあります。そのような場合,Aは2つの貸金債権を訴訟物にして訴えを提起することができるのです。


 この訴えの併合をするための要件は,以下のとおりです。

①数個の請求が同種の訴訟手続によって審理されうるものであること(136条)
→通常訴訟手続と人事訴訟手続(家族関係ををめぐる訴訟だと思ってください)・行政訴訟手続とは別個の手続なので,訴えの併合はできません。たとえば,AがBに対して貸金返還請求訴訟と認知の訴えをしたいと思ってもこれは別個の訴訟にするしかありません。

②特に併合が禁止されていないこと

③各請求について受訴裁判所に管轄権があること


 3 訴えの変更

 (1)意義
 訴えの変更とは,訴訟係属後に,原告が訴訟物を追加したり,訴訟物をまったく別個のものに変更することをいいます。

 事例をいくつか挙げましょう。

 ①甲の土地を乙が不法に占有しているので,甲が乙に対して「A土地の所有権確認」の訴えを提起していました。その訴訟の審理で所有権が認められそうな甲がその後に,「A土地の所有権侵害による損害賠償請求訴訟」を提起するのです。

 これは,もともと「所有権」だけだった訴訟物を「所有権と損害賠償請求権」にするといった訴訟物の追加となります。このように旧請求を維持しつつ,新請求を加えるという変更を追加的変更といいます。


 ②甲の土地を乙が不法に占有している。そこで,甲が乙に対して「A土地の所有権に基づく返還請求」の訴えを提起していました。

 その訴訟の審理で所有権が認められそうもないと察知した甲がその後に,「占有権の侵害に基づく占有回収の訴え」を提起するのです。

 これは,もともと「所有権に基づく返還請求権」だった訴訟物を「占有権」にするといった訴訟物の交換となります。このように旧請求と交換して新請求を提起するという変更を交換的変更と呼びます。


 この交換的変更には訴えの取下げの性質があります。上記の例であれば,所有権に基づく返還請求をやめているので,訴えの取下げなのです。そのため,この交換的変更をするには訴えの取下げの要件を満たさなければなりません。


③甲が乙に対して貸金債権1,000万円を有していましたが,乙が返済しません。そこで,甲は乙に対して「債権1,000万円のうち100万円返せ」という訴訟を提起しました。

 その後,債権が認定されていると思った甲が「債権1,000万円全額返せ」と訴えの内容を変える場合も訴えの変更になります。


 ちなみに,なぜこのようなことをするのかというと,印紙の問題なのです。訴訟には費用がかかります。これは訴訟物の額によって変わります。

 勝てるかどうかも分からない状態で1,000万円全額に対応する印紙代を負担するのは辛い,といった方は上記のように「一部請求」(お試し訴訟)をしておいて,勝てそうになったら「全部請求」に切り替えるのです。


 (2)要件
 訴えの変更も結果としては訴えの併合のような状態になります。そのため,訴えの併合の要件を満たす必要があります。それ以外に以下の要件が必要です。

①請求の基礎に変更がないこと(143条1項本文)

 請求という言葉は「訴訟物」と置き換えましょう。基礎という言葉は「情報」と置き換えましょう。すると,この要件は「訴訟物の情報に変更がないこと」ということになります。

 もっと噛み砕いていえば「調べる内容がほぼ変わらないこと」といってもいいでしょう。(1)の事例でいえば,③あたりを読んでいただければ,この要件はイメージできると思います。


 この要件は,別のいい方をすれば「まったく無関係な訴訟物を追加するな。まったく無関係な訴訟物にするな」ということを述べているのです。

 たとえば,今までは貸金請求訴訟をしていたのが,原告がまったく無関係な代金請求訴訟に変更したらどうでしょうか。貸金訴訟だと思っていた被告は,びっくりしてしまいます。

 つまり,この要件は被告の保護を目的にしているのです。そのため,被告が訴えの変更に同意し,または,異議なく変更後の訴えに応訴した場合には,請求の基礎に変更があっても許されることになります(大判昭11・3・13,最判昭29・6・8)。


②訴訟係属後,第1審・控訴審の口頭弁論終結前であること(143条1項本文)

 訴訟係属前ではどうでしょうか。訴状送達前は,被告には何らの利害関係がないので,訴状を訂正するだけで,自由に請求を追加することが可能です。そのため,訴えの変更として被告の利益を考えるべきなのは訴訟係属後の話に限定されます。

 また,訴えの変更により新たな訴訟物について事実認定をする必要があるので,訴えの変更は事実審(第1審・控訴審)に限定されることになります。


③著しく訴訟手続を遅延させないこと(143条1項ただし書)

 請求の基礎に変更がない場合でも,旧請求の審理が完結に近く,しかも新請求の審判に,なお相当の審理を必要とするときは,訴えの変更は認められません。

 その場合は,今の訴訟物については訴訟を最後までやり,別の訴訟物については訴訟を改めて行うことになります。

 そして,この規定は訴訟遅延を防ぐという公益の目的から作られているので,被告の同意を得ても,訴訟手続を遅滞させる訴えの変更は許されないことになります。①の要件と比較をしてください(相手の同意があれば許されるかどうか,という点は試験で頻繁に問われています)。


 (3)方式
 訴えの変更は,原則として書面を提出して行わなければならず(143条2項),この書面が被告に送達されます(143条3項)。

 訴えの変更は,新しい訴訟物での訴えの提起の実質を有するので,訴え提起の手続と同じような手続になるのです。


 4 反訴


 (1)意義
 反訴とは,訴訟係属中に,被告がその訴訟手続を利用して原告に対して提起する訴えのことをいいます。簡単にいえば,訴えられた被告が原告に対して訴え返すのです。

 これは,原告に訴えの変更という形で訴訟物を追加できるのであれば,被告にだって訴訟物の追加する権限を認めるべきであろうという公平の観点から認められています。

 たとえば,甲の土地に乙が住み着いているので甲が乙に対して「所有権に基づく返還請求訴訟」を提起しているとします。

 この訴訟で乙が甲に対して「自分は賃借権を有している」と主張したとしましょう。

 もし,この訴訟で乙の賃借権が認められて乙の勝訴になったとしても,この乙の賃借権には既判力は及びません。なぜなら,この訴訟の訴訟物は「所有権に基づく返還請求権」のみだからです。

 これでは乙も面白くありません。そこで,このような場合,乙は「賃借権確認訴訟」を甲に対して反訴の形式で起こすのです。これにより,訴訟物は「所有権に基づく返還請求権」と「賃借権」になります。

 このような反訴が行われた場合,もとの「所有権に基づく返還請求権」の訴訟は本訴と呼ばれます。
 そして,本訴と反訴は同一の訴訟手続で一緒に審理されることになるのです。


 (2)要件
①本訴が係属中であり,かつ,事実審の口頭弁論終結前であること(146条1項本文)
 上記の要件だけを見れば,控訴審で反訴を起こすことは可能となります。しかし,その場合は別途要件がもう1つ加わります。

①-1 控訴審における反訴については,原則として反訴被告(本訴原告)の同意を要する。

 これは,反訴請求についての相手方の審級の利益の保護のためといわれています。


 先ほどの例でいえば「賃借権確認訴訟」を控訴審で行われれば,不服があってもあとは上告審しかないので,「三審制」とならないことになります。

 そこで,控訴審で反訴を起こしたい被告は原告から「2回の審理しかできませんが,それで結構です」という同意をもらう必要があるのです。


 ちなみに,原告が異議を述べないで反訴の本案について弁論したときは同意したものとみなされます(300条2項)。黙示の同意と考えると分かりやすいでしょう。


②反訴請求が本訴請求またはこれに対する防御方法と関連すること(146条1項本文)

 訴えの変更の場合の「請求の基礎の同一性」の要件に対応する要件です。

 このような関連がなければ,本訴手続を利用できないので,むしろ別訴によるのが適当だからです。ただ,条文が「関連」といっている点に注意してください(訴えの変更では「同一性」が要求されます)。訴えの変更ではほぼ完全な同一性が要求されますが,反訴ではそこまで厳格な同一性を要求しません。


③反訴の提起により著しく訴訟手続を遅滞させるものでないこと(146条1項ただし書)

 本訴の請求に関する審理の終結間際に反訴が提起されると,その審理により,著しく訴訟手続が遅滞してしまいます。

 そこで,本訴について早期に判決を受けるという原告の利益が害されることを防止するために,この要件が規定されています。


④訴えの併合の要件を満たすこと

 (3)手続
 反訴については本訴に関する規定が準用されます(146条2項)から,原則として書面を提出して行います(133条1項)。反訴も,訴訟提起の実質を有しているからです。

 (4)反訴の取下げ 反訴には,本訴に関する規定が準用されています(146条2項)。そのため,反訴の取下げには,反訴被告(本訴原告)の同意が必要になります(261条2項本文)。


 ただ例外があります。本訴の取下げがあったあとに反訴を取り下げる場合です。この場合には同意なしで反訴を取り下げることが認められています(261条2項ただし書)。下図をご覧ください。

 
    所有権に基づく返還請求訴訟(本訴)
    ---------------→
原告 ←--------------- 被告

     賃借権確認訴訟(反訴)


 まず原告が本訴を取り下げました。ここで訴えの取下げとなるので相手方(被告)の同意を得ています(261条2項本文)。


 気をつけていただきたいのは,本訴が取り下げられても,反訴が残っていれば,訴訟は続行されるという点です。本訴がなくなれば,反訴もなくなるというわけではないのです。

 その後,被告が反訴を取り下げようとしています。ここで相手方(原告)の同意が必要としたら,「自分が取り下げる場合には同意をもらっておいて,相手が反訴を取り下げる場面では同意しない」という少々卑怯な事態が生じる可能性があります。


 そこで,本訴の取下げがあった場合には,反訴被告の同意を得ずに反訴を取り下げられることにしているのです(261条2項)。

 理解度チェック


①旧請求と新請求との間に請求の基礎の同一性がない場合には,被告が同意したときであっても,請求又は請求の原因の変更をすることはできない。

→ × 被告の防御の困難が生じないようにするため請求の起訴の同一性が要求されています。そのため被告が同意すれば訴えの変更は許されます。


②訴えの変更が著しく訴訟手続を遅滞させる場合であっても,相手方が同意し,又は異議を述べなければ,訴えの変更は許される。

→ × 「著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき」は公益的理由に基づいて設けられたものですから,被告の同意があっても許されません。

③控訴審における訴えの変更は,相手方の同意がない限り許されない。

→ × 控訴審における訴えの変更であっても,相手方の同意を要しません。反訴の場合と比較してください。

④反訴の提起後に本訴の取下げがあったときは,反訴は,初めから係属しなかったものとみなされる。

→ × 本訴がなくなっても反訴までなくなるわけではありません。


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