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民法判例 「法定地上権」 山本有司

民法判例最終回「法定地上権」

事件屋司法書士
弁護士 山本有司

 こんにちは,山本有司です。事件屋司法書士民法判例最終回へようこそ。
 今日は法定地上権に関する事件を勉強してみたいと思います。

 事 件

 昭和45年の話です。
 A所有の土地(以下「本件土地」といいます)上に,Aの子であるBが建物(以下「旧建物」といいます)を所有していました。


 
 昭和45年4月,AおよびBは,C会社がD銀行に対して負担する債務を担保するため,それぞれ本件土地および旧建物を共同担保の目的として元本極度額を300万円とする順位1番の本件根抵当権を設定し,同年5月には,その旨の登記を経由しました。


 

 Aは,この年の6月に死亡しました。本件土地の所有権は相続を原因としてBに移転し,同年10月には,その旨の登記がなされました。
 
 
 Bは,昭和49年3月,本件根抵当権の被担保債権の範囲を変更するとともに,本件根抵当権の極度額を1,500万円に増額し,昭和50年1月には,さらに2,400万円に増額し,それぞれその旨の登記がなされました。


 
 
 話は昔に戻りますが,Bは,A生存中である昭和45年に,本件土地上に,旧建物とは別の平屋建て建物を建築していました。


 
 昭和50年6月,Bは旧建物を取り壊し,平屋建て建物を増築して2階建て事務所兼倉庫としました。


  
 その後Bは,本件土地につき,昭和52年4月に2番抵当権を,昭和53年4月に3番抵当権を,同年9月に4番抵当権をそれぞれ設定して,その旨の登記を経由しました。

 ここからは,日付に気をつけて読んでください。
 昭和57年10月,X(原告・被控訴人・上告人)は本件土地を競売手続において競落し,同年11月に代金を納付して所有権を取得しました。


  
 ところが,上記競売手続中である昭和54年10月29日,本件事務所兼倉庫が火事で一部焼失してしまいました。そのため,Bは本件事務所兼倉庫の建物をすべて取り壊し,本件土地を昭和55年1月にY1(被告・控訴人・被上告人)に賃貸していたのです。


  
 Y1は,同年6月に本件土地上に建物(以下「本件建物」といいます)を建築し,その一部をY2(被告・控訴人・被上告人)に利用させていました。

 このような状況の下,土地の所有者となった競落人Xは,本件土地の所有権に基づき,Y1に対し,建物収去土地明渡請求および本件土地の不法占有に基づく損害金請求を,Y2に対し,建物退去土地明渡請求を,それぞれ求めました。

 これが,今回の事件です。


 事案の整理

 本件で問題とされたのは,土地を目的とする1番根抵当権が設定された当時は土地と地上建物の所有者が異なっていたが,後順位抵当権設定当時には土地と地上建物の所有者が同一人に帰していた場合に,法定地上権が成立するかという点でした。


 原審は,次のように判断しました。
 
 1番根抵当権設定当時,土地と地上建物が同一人の所有でなかった以上,土地と地上建物を同一人が所有するに至って後に1番根抵当権の極度額が増額され,その後に土地が競売されたとしても,法定地上権は成立しない

          ↓ しかし

 土地の1番根抵当権設定当時,土地と地上建物が同一人の所有でなかったとしても,土地と地上建物を同一人が所有するに至って後に土地に2番抵当権が設定され,2番抵当権を標準とすると,法定地上権成立の要件が充足されている場合には,右1番根抵当権に基づいて土地が競売されたときであっても法定地上権が成立するものと解すべきである。

 
 原審は,このように判断して,Xが本件土地を競落したことにより,本件土地に法定地上権が成立することを認め,XのY1,Y2に対する明渡請求全部とY1に対する損害金請求の一部を認容した1審判決を取り消し,XのY1,Y2に対する請求をいずれも棄却しました。


関連条文

 本件で問題となった法定地上権については,民法388条が定めています。
 
 388条

 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において,その土地又は建物につき抵当権が設定され,その実行により所有者を異にするに至ったときは,その建物について,地上権が設定されたものとみなす。この場合において,地代は,当事者の請求により,裁判所が定める。


 裁判所の見解

 最高裁判所平成2年1月22日第2小法廷判決の主文は,次のとおりです。

 原判決を破棄する。
 被上告人Y1に対する損害金請求部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
 被上告人Y1のその余の控訴及び被上告人Y2の控訴を棄却する。
 前項の部分に関する原審及び当審の訴訟費用は被上告人らの負担とする。


 逆転です。最高裁は,原審の判断を否定しました。

 最高裁は,原審の上記判断のうち,前半部分の判断は正当であるとしたものの,後半部分の判断は認められないとして,原審とは逆の結論を導いたのです。

 その理由を見てみましょう。長文なので切りながら……。

--------------------------------------
 土地について1番根抵当権が設定された当時土地と地上建物の所有者が異なり,法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合には,土地と地上建物を同一人が所有するに至った後に後順位抵当権が設定されたとしても,その後に抵当権が実行され,土地が競落されたことにより1番根抵当権が消滅するときには,地上建物のための法定地上権は成立しないものと解するのが相当である。
--------------------------------------

 388条によれば,法定地上権の成立のためには,土地の所有者と,その土地上の建物の所有者が,抵当権設定時において,同一であることが必要です。

 この要件が満たされない限り,後日,土地と建物の所有者が同一人に帰したとしても法定地上権は成立しないというのです。なぜでしょう?

--------------------------------------
 けだし,民法388条は,同一人の所有に属する土地及びその地上建物のいずれか又は双方に設定された抵当権が実行され,土地と建物の所有者を異にするに至った場合,土地について建物のための用益権がないことにより建物の維持存続が不可能となることによる社会経済上の損失を防止するため,地上建物のために地上権が設定されたものとみなすことにより地上建物の存続を図ろうとするものであるが,
--------------------------------------

 388条の趣旨は,「建物を壊すのはもったいない」という点にあります。

 抵当権設定当時,土地と建物の所有者が異なっていれば,土地には建物所有のために何らかの土地利用権が設定されているはずです。

 そして,この土地利用権は建物に従たる権利として,建物とともに移転しますから,建物が利用権を失うことはありません。

 しかし,自分の土地の所有者はその土地上の建物について,自分のために利用権を設定することができません。
 なぜなら,仮に設定したとしても混同で消滅するからです。そのため,同一人の所有する土地と建物が,後日競売によって所有者を異にすると,建物は,土地の不法占拠物となってしまいます。

 この状況を回避して建物を救うために,民法は法定地上権という土地利用権を認めているのです。

--------------------------------------
 土地について1番根抵当権が設定された当時,土地と地上建物の所有者が異なり,法定地上権成立の要件が充足されていない場合には,1番根抵当権者は,法定地上権の負担のないものとして,土地の担保価値を把握するのであるから,後に土地と地上建物が同一人に帰属し,後順位抵当権が設定されたことによって法定地上権が成立するものとすると,1番根抵当権者が把握した担保価値を損なわせることになるからである。
--------------------------------------

 ところで,法定地上権の成立を認めることは,土地の所有者の当該土地の使用を否定することを意味します。したがって,土地の経済的価値(競落価格)は下落します。

 1番根抵当権設定当時,土地と土地上の建物の所有者が異なっていれば,1番根抵当権者は法定地上権の成立を予想せず,法定地上権の負担のない土地として担保価値を算定するでしょう。

 それなのに,後日たまたま土地と建物の所有者が同一人となり,その後に高順位抵当権が設定された場合に法定地上権が成立するとなると,1番根抵当権者は不測の損害を蒙るおそれがあります。

 この不測の損害の危険を回避しようというのが,最高裁が原審の判断を否定した理由です。

--------------------------------------
 したがって,本件土地に法定地上権が成立するとした原判決には,民法388条の解釈適用を誤った違法があり,被上告人らにおいて他に上告人に対抗し得る土地の用益権の主張立証をしていない本件において,この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,この点に関する論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。
--------------------------------------

 このようにして,最高裁は,Xの請求のうち,
 Y1に対し建物収去土地明渡を求める部分および
 Y2に対し建物退去土地明渡を求める部分は,
 いずれも理由があるとして,これを認容した1審判決を正当とし,

 右部分に関するY1・Y2の控訴をいずれも棄却すべきとし,Y2に対して損害金の支払を求める部分については,さらに審理をつくさせるため,原審に差し戻しました。


 最高裁は,法定地上権制度の目的が建物の収去という社会経済的損失の防止という点にあることを認めつつ,この要請も1番根抵当権者が把握した担保価値が損なわれる場合には一歩後退せざるを得ないという判断を示したものといえましょう。


 時間が過ぎてしまいました。長い間お読みくださりありがとうございました。


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