記述式対策 不動産登記 解答と解説 田中利和
今回は、前2回に分けて出題しました小問1・小問2の答と解説をまとめて掲載いたします。
エントリーアーカイブ頁をプリントアウトして、再度小問1.2をチェックされることをお勧め致します。
答案用紙
第1欄
申請書に記載すべき申請情報のうち,登記権利者,登記義務者,申請人,変更後の事項・更正後の事項に記載する住所及び不動産所在事項,代理人の表示,申請年月日,登記所の表示,課税価格を除いた事項
第2欄
申請書に記載すべき申請情報のうち,登記権利者,登記義務者,申請人,変更後の事項・更正後の事項に記載する住所及び不動産所在事項,代理人の表示,申請年月日,登記所の表示,課税価格を除いた事項
第3欄
申請書に記載すべき申請情報のうち,登記権利者,登記義務者,申請人,変更後の事項・更正後の事項に記載する住所及び不動産所在事項,代理人の表示,申請年月日,登記所の表示,課税価格を除いた事項
第4欄
申請書に記載すべき申請情報のうち,登記権利者,登記義務者,申請人,変更後の事項・更正後の事項に記載する住所及び不動産所在事項,代理人の表示,申請年月日,登記所の表示,課税価格を除いた事項
第5欄 申請書に記載すべき申請情報のうち,登記権利者,登記義務者,申請人,変更後の事項・更正後の事項に記載する住所及び不動産所在事項,代理人の表示,申請年月日,登記所の表示,課税価格を除いた事項
第6欄
申請書に記載すべき申請情報のうち,登記権利者,登記義務者,申請人,変更後の事項・更正後の事項に記載する住所及び不動産所在事項,代理人の表示,申請年月日,登記所の表示,課税価格を除いた事項
第7欄
解 説
本問の論点は,次のとおりです。
①相続による所有権移転登記
②所有権登記名義人氏名変更登記
③根抵当権の債務者の相続による変更登記
④根抵当権設定登記
⑤根抵当権の元本確定前後の債務者の変更登記
⑥根抵当権の抹消登記
⑦法定地上権の成立
小問1の概要
本問の事実関係の概要を確認しましょう。
まず,乙建物所有者である加藤一郎が死亡しています。
加藤一郎は甲土地(以下「土地」といいます)と乙建物(以下「建物」といいます)の1番根抵当権の債務者でもありますから,建物の相続による所有権移転登記と土地と建物の根抵当権の債務者の相続による変更登記が必要となりそうです。
次に,土地および建物に設定された根抵当権について山本花子らは,根抵当権者株式会社太陽銀行との間において,当該根抵当権の債務者を山本勝男とする変更契約を締結し,山本花子は,株式会社北風銀行と根抵当権設定契約を締結していますので,根抵当権変更登記,根抵当権設定登記が必要となりそうです。
ただし,加藤花子は復氏していますので,その前提として,所有権登記名義人氏名変更登記が必要です。
そして,最後に,土地および建物に設定された株式会社太陽銀行の根抵当権の被担保債権が弁済により消滅したとありますので,根抵当権の抹消登記を申請することになりそうです。
さて,ここまでが,小問1に関する概要です。
小問2は,これらの登記が完了後,土地の根抵当権者株式会社北風銀行が競売を申し立てた場合,当該地上の建物のために法定地上権が成立するかどうかの判断をするというものです。
それでは,事実関係(1)から順に確認していきましょう。
1 相続による所有権移転登記
相続は,死亡によって開始します(民法882条)。事実関係(1)によると,加藤一郎が死亡し,その配偶者加藤花子とその子である加藤次郎および加藤良子が共同相続人であること,加藤良子は,加藤一郎から生前に相続分の価額に等しい贈与を受けていたことが分かります。
共同相続人中に,被相続人から遺贈を受け,または婚姻もしくは養子縁組のためもしくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは,被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に,その贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし,
民法第900条~第902条の規定により算定した相続分の中から,その遺贈または贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とされ(903条1項),遺贈または贈与の価額が,相続分の価額に等しく,またはこれを超えるときは,受遺者または受贈者は,その相続分を受けることができないとされています(903条2項)。
事実関係(1)の加藤良子は,加藤一郎から生前に相続分の価額に等しい贈与を受けていたと記載があることから,民法第903条第2項の規定により,その相続分を受けることができないということになります。
■特別受益者がいる場合の相続分の計算方法
加藤良子の相続分は,他の相続人にその相続分に応じて帰属することになります。
まず,本来の法定相続分を計算すると,次のとおりになります。
配偶者・山本花子 4分の2
子・加藤次郎 4分の1
子・加藤良子 4分の1
次に,その中から特別受益者加藤良子を除く他の相続人の法定相続分の分子の合計(2+1)を分母とし,法定相続分の分子をその者の分子として計算します。
その結果,次の持分割合になります。
配偶者・山本花子 3分の2
子・加藤次郎 3分の1
※『事例式不動産登記申請マニュアル1』新日本法規参照
以上のとおり,事実関係(1)の事実に基づき申請すべき登記は,建物について,山本花子持分3分の2,加藤次郎持分3分の1の相続による所有権移転登記ということになります。
2 所有権登記名義人氏名変更登記
事実関係(2)を見てみましょう。加藤一郎の配偶者加藤花子は,加藤一郎の死亡に伴い,氏を旧姓に変更したとあります。
これは,夫婦の一方が死亡したときは,生存配偶者は,婚姻前の氏に復することができるとされていることから(民法751条1項),加藤花子は婚姻前の“山本”の氏に復したのです。
登記された土地や建物の所有者の住所が移転した場合や,婚姻・離婚・養子縁組等によって,氏名に変更があった場合には,登記記録上の所有者の住所・氏名が現在の住所・氏名と一致していないことになります。
そこで,土地や建物の所有者は登記名義人の表示(住所・氏名)の変更登記を申請して,現在の正しい表示に変更することができますが,登記名義人の住所や氏名の変更登記は,これ自体を単独で登記申請することは,実務上も,まず,ありません。
登記名義人が登記義務者となり登記権利者と共同により,なんらかの登記申請をする前提として行うことがほとんどです。
■ポイント
登記名義人の住所・氏名の変更登記は,単独で,その登記を申請することは,皆無といってよい。ただし,なんらかの登記を申請する前提として,登記名義人の住所・氏名の変更登記を申請しなければならない場合があるので,登記記録上の登記名義人の住所・氏名と現在の住所・氏名が一致しているかどうかを必ずチェックする。
なお,登記名義人の氏名もしくは名称または住所についての変更の登記または更正の登記は,登記名義人が単独で申請することができます(不登法64条)。
ちなみに,ここでいう登記名義人とは,登記記録の権利部に,不動産登記法第3条各号に掲げる権利について権利者として記録されている者をいいます(2条11号)。
以上のとおり,事実関係(2)の事実に基づき申請すべき登記は,土地について所有権登記名義人氏名変更登記ということになりそうです。
なお,建物の相続による所有権移転登記は,当該移転登記申請時点においては,加藤花子は復氏しており,復氏後の氏名,つまり,“山本花子”で登記申請をすることになります。
3 根抵当権の債務者の相続による変更登記
事実関係(1)によると,建物所有者である加藤一郎が死亡しています。加藤一郎は土地と建物の1番根抵当権の債務者でもあります。
債務者に相続が開始したときは,根抵当権は,相続開始の時に存在する債務者加藤一郎が生前に負担した債務を担保します。
したがって,その債務は相続人に承継されるので,債務者加藤一郎の相続人山本花子・加藤次郎・加藤良子の3名を債務者とする変更登記を申請することになります。
なお,本問において,当該根抵当権の債務者の相続による変更登記については,特に注意すべき論点はありません。
4 根抵当権設定登記
先に事実関係(4)を確認しましょう。株式会社北風銀行と山本花子が土地について,根抵当権設定契約を締結しています。当該根抵当権の登記事項についても,特に問題になりそうな点は見受けられません。
ただし,上記の「根抵当権の債務者の相続による変更登記」「根抵当権設定登記」の前提として,土地については,加藤花子の所有権登記名義人氏名変更登記を忘れずに申請する必要があります。この点は注意してください。
5 根抵当権の元本確定前後の債務者の変更登記
次に,事実関係(3)を確認しましょう。株式会社太陽銀行と土地建物の所有者との間において,乙区1番根抵当権の債務者を山本勝男とする変更契約を締結したとあります。
根抵当権の債務者の変更は,元本確定前においては,根抵当権者と根抵当権設定者(第三取得者等も含む)との契約によって変更することができます(民法398条の8)。
そこで,本問の土地および建物に設定された乙区1番根抵当権が元本確定前であるかどうかを検討する必要があります。
結論から申し上げますと,根抵当権の元本は確定しているとも確定していないとも,どちらともいえません。
根抵当権の債務者加藤一郎が死亡し,相続が開始しました。元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは,根抵当権は,相続開始の時に存する債務のほか,根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保するとされています(398条の8第2項)。
そして,相続開始後も根抵当取引を継続するには,相続開始後6カ月以内に根抵当権者と根抵当権設定者との間において指定債務者の合意による変更登記を申請しなければなりません。
この合意の登記をしないと,当該根抵当権によって担保する元本は,相続開始の時に確定したものとみなされるからです(398条の8第4項)。
つまり,債務者が死亡してから指定債務者の合意の登記がなされるまで,または,相続開始後6カ月が経過するまでは,根抵当権は元本が確定しているのか,未確定のままなのか,不明な状態にあるといえます。
本問の事実関係には,変更契約を締結した時点において,そもそも根抵当権者と根抵当権設定者との間には指定債務者の合意はなされていません。
変更契約後の債務者山本勝男との根抵当取引を継続するのであれば,まず,指定債務者の合意をしたうえで,6カ月以内に当該合意の登記を経由したうえで,債務者を山本勝男とする変更登記を申請しなければなりません。
また,本問の登記申請時点においては,加藤一郎の相続開始後6カ月を経過していることから,相続開始時において当該根抵当権の元本は確定しています。
したがって,債務者を山本勝男とする変更登記は申請することはできません。
根抵当権が確定すると,担保すべき債権が具体的に特定し,根抵当権は被担保債権に随伴するので,債務引受等により債務者が変更することはありますが,根抵当権自体の変更としての一般的な債務者の変更登記は認められないからです。
6 根抵当権の抹消登記
事実関係(5)を確認しましょう。平成20年8月20日,甲土地および乙建物の1番根抵当権の被担保債権が債務者の弁済により消滅したとあります。
元本確定前の根抵当権は抵当権と異なり,弁済や免除等の被担保債権が消滅しただけでは根抵当権は消滅しません。しかし,元本確定後の根抵当権は,附従性により,被担保債権の消滅等により消滅することになります。
そこで,本問における甲土地および乙建物の1番根抵当権の元本は確定しているのか確認しましょう。債務者加藤一郎の相続が開始していますが,上述のとおり,指定債務者の合意もなされておらず,当該合意の登記も申請されていないことから,また,相続開始後6カ月を経過しているので,実体上,当該根抵当権の元本は確定していることになります。
したがって,当該根抵当権の被担保債権は弁済により消滅し,附従性により根抵当権も消滅することになります。
次に,弁済による根抵当権の抹消登記を申請するには,登記記録上も元本が確定している必要がありますが,債務者加藤一郎の相続による根抵当権の変更登記を申請することにより,登記記録上も元本が確定していることが明らかになるので,元本確定の登記を経由することなく,弁済による根抵当権の抹消の登記申請は受理されることになります(登研488P147)。
7 小問1のまとめ
事実関係(1)~(5)までの,申請すべき登記は,以下のとおりです。
①建物の相続による所有権移転登記
②土地の所有権登記名義人氏名変更登記
③土地および建物の根抵当権の債務者加藤一郎の相続による根抵当権変更登記
④土地の根抵当権設定
⑤土地および建物の弁済による根抵当権抹消登記
8 小問2について
小問1の事実関係に基づいて登記申請された後,法定地上権が成立するかどうかという問題です。
結論から申し上げますと,このケースでは,法定地上権は成立します。
その根拠となったのは,最高裁平成19年7月6日第二小法廷判決です。以下は判決要旨です。
■判決要旨
土地を目的とする先順位の甲抵当権と後順位の乙抵当権が設定された後,甲抵当権が設定契約の解除により消滅し,その後,乙抵当権の実行により土地と地上建物の所有者を異にするに至った場合において,当該土地と建物が,甲抵当権の設定時には同一人の所有者に属していなかったとしても,乙抵当権の設定時に同一の所有者に属していたときは,法定地上権が成立する。
なお,登記原因の日付は,競落代金を納付した日です(民執法79条,『事例式不動産登記申請マニュアル2』新日本法規)。
法定地上権とは,土地およびその上に存在する建物が同一の所有者に属する場合において,その土地または建物につき抵当権が設定され,その実行により所有者を異にするに至ったときは,その建物について,地上権が設定されたものとみなされる制度です(民法388条)。法定地上権の成立要件を確認しましょう。
①抵当権設定時に土地の上に建物が存在すること
②その土地と建物とが同一の所有者に属すること
③土地または建物に抵当権が設定されること
④競売の結果,土地と建物とが異なる所有者に属するに至ったこと
これらの要件は,競売される不動産における最先順位の抵当権を基準に判断されることになりますが(最高裁平成2年1月22日第二小法廷判決),本判決は,
①甲抵当権が被担保債権の弁済,設定契約の解除等により消滅することもあることは抵当権の性質上当然のことであるから,乙抵当権者としては,そのことを予測したうえ,その場合における順位上昇の利益と法定地上権成立の不利益とを考慮して担保余力を把握すべき
②甲抵当権は競売前にすでに消滅しているのであるから,競売による法定地上権の成否を判断するにあたり,甲抵当権者の利益を考慮する必要がないことは明らかである。
そうすると,民法第388条が規定する「土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する」旨の要件(以下「同一所有者要件」という)の充足性を,甲抵当権の設定時にさかのぼって判断すべき理由はないというべき
③民法第388条は,土地およびその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において,その土地または建物につき抵当権が設定され,その抵当権の実行により所有者を異にするに至ったときに法定地上権が設定されたものとみなす旨を定めており,競売前に消滅していた甲抵当権ではなく,競売により消滅する最先順位の抵当権である乙抵当権の設定時において同一所有者要件が充足していることを法定地上権の成立要件としているものと理解することができる
④平成2年1月22日第二小法廷判決は,競売により消滅する抵当権が複数存在する場合に,その中の最先順位の抵当権の設定時を基準として同一所有者要件の充足性を判断すべきことをいうものであり,競売前に消滅した抵当権をこれと同列に考えることはできないとしている。
また,同一所有者要件の充足性の判断は,本件2番抵当権の設定時を基準とすべきであり,この時点では,本件建物の共有者の1人(本問においては山本花子)である上告人が本件土地を単独で所有していたのであるから,本件では法定地上権の要件を充足している(最高裁昭和46年12月21日第三小法廷判決)。
よって,本件建物のために法定地上権が成立しているというべきである,としています。
解答例
第1欄
登記の目的 所有権移転
登記原因 平成20年2月1日相続
相続人 (被相続人 加藤一郎)
持分3分の2 山本花子
3分の1 加藤次郎
添付書面 登記原因証明情報
住所証明情報
代理権限証明情報
登録免許税 金40,000円
第2欄
登記の目的 所有権登記 名義人氏名変更
登記原因 平成20年4月22日氏名変更
変更後の事項 氏名 山本花子
申請人 山本花子
添付書面 登記原因証明情報
代理権限証明情報
登録免許税 金1,000円
第3欄
登記の目的 1番根抵当権変更
登記原因 平成20年2月1日相続
変更後の事項(債務者 被相続人加藤一郎)
債務者 山本花子
加藤次郎
権 利 者 株式会社太陽銀行
義 務 者 山本花子
加藤次郎
添付書面 登記原因証明情報
登記済証,登記識別情報
印鑑証明書
資格証明情報
代理権限証明情報
登録免許税 金2,000円
第4欄
登記の目的 根抵当権設定
登記原因 平成20年8月3日設定
極度額 金3,000万円
債権の範囲 銀行取引 手形債権 小切手債権
債務者 中村三郎
根抵当権者 株式会社北風銀行
設定者 山本花子
添付書面 登記原因証明情報
登記済証
印鑑証明書
代理権限証明情報
資格証明情報
登録免許税 金120,000円
第5欄
登記の目的 1番根抵当権抹消
登記原因 平成20年8月20日弁済
権利者 山本花子
加藤次郎@根抵当権者 株式会社太陽銀行
添付書面 登記原因証明情報
登記済証
代理権限証明情報
資格証明情報
登録免許税 金2,000円
第6欄
なし
第7欄
目的 法定地上権設定
原因 代金納付日
(参考文献)
『事例式不動産登記申請マニュアル1』『事例式不動産登記申請マニュアル2』新日本法規
『新訂不動産登記実務総覧「上」法務省民事局法務研究会編』きんざい
『ケースブック根抵当権の実務 根抵当権実務研究会編』六法出版社
『担保物権法第3版(現代民法Ⅲ)』株式会社有斐閣
『金融法務事情№1820号 判決速報』社団法人金融財政事情研究会
『金融法務事情№1827号 金融判例研究会報告』社団法人金融財政事情研究会
『金融法務事情№1838号 関西金融判例・実務研究会報告』社団法人金融財政事情研究会
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