請求異議の訴え
問題 請求異議の訴えに関する次のアからオまでの記述のうち,正しいものの組合せは,後記1から5までのうちどれか。(平成14年第6問)
ア 公正証書を債務名義として不動産に対し強制執行がされた場合,債務者は,当該公正証書の作成後に当該公正証書に係る債務を任意に弁済したことを理由として請求異議の訴えを提起することができる。
イ 仮執行の宣言を付した判決を債務名義として不動産に対して強制執行がされた場合,債務者は,当該判決の確定前に請求異議の訴えを提起することができる。
ウ 不動産を目的とする担保権の実行としての競売がされた場合,債務者は,当該担保権の被担保債権が時効により消滅したことを理由として請求異議の訴えを提起することができる。
エ 売買代金の支払請求を認容した確定判決を債務名義として不動産に対し強制執行がされた場合,債務者は,当該売買契約を債権者の詐欺によるものとして取り消したことを理由として請求異議の訴えを提起することができる。
オ 公正証書を債務名義として不動産に対し強制執行がされた場合,債務者は,当該公正証書が無権代理人の嘱託に基づき作成されたものであることを理由として請求異議の訴えを提起することができる。
1 アウ 2 アオ 3 イエ 4 イオ 5 ウエ
1 請求異議の訴えとは
請求異議の訴えとは,債務名義によって確定された請求権の内容が実体法上変更されたことを理由として,その債務名義の執行力の排除を求める訴えをいいます(35条)。
たとえば,債務名義に表示されている債務を,事後的に債務者が弁済したにもかかわらず,当該債務名義に基づく執行が始まってしまったときに,その執行をやめさせるために訴えを提起するような場合が該当します。
本問のアは,まさにこの例のとおりですから,正しい記述です。
2 請求異議の事由(35条1項)
請求異議の事由が存在しなければ,請求異議の訴えを提起することはできません。請求異議の事由には,次のようなものがあります。
(1)請求権の存在についての異議事由
債務名義に掲げられた請求権の存在を実体法上否定する事由です。虚偽表示,錯誤,無権代理など請求権の発生自体を否定する事由と,弁済,相殺,詐欺・強迫による取消し,契約の解除など請求権を消滅させる事由とがあります。
(2)請求権の内容についての異議事由
請求権の存在は否定されないけれど,請求権の効力や責任が制限等される事由です。たとえば,弁済期限が猶予されているのに,執行が開始されたような場合や,債務者の相続人が相続の限定承認をしたような場合が該当します。
(3)債務名義の成立に関する異議事由
執行証書や和解調書など裁判以外の債務名義について,その成立過程に瑕疵があったことを主張して,債務名義の成立自体を否定する異議事由です。たとえば,執行証書が無権代理人の嘱託によって作成されたり,裁判上の和解が錯誤に基づいて成立したような場合です。
本問のオは,この異議事由に該当しますから,正しい記述です。
(4)その他の異議事由
民事執行法の条文には書かれていませんが,以上の異議事由のほか,債務名義の執行力が一般的根拠から排除されることもあります。たとえば,請求権の行使が信義則に反し,または権利の濫用として許されない場合です。
3 請求異議の訴えを提起できない債務名義
下記の3つの債務名義については,請求異議の訴えを提起することができません(35条1項カッコ書)。
1 確定前の仮執行宣言付き判決
2 確定前の仮執行宣言付き損害賠償命令
3 確定前の仮執行宣言付き支払督促
これらの債務名義は,判決等が確定前なので,執行をやめさせたければ,通常の上訴や異議によって不服を申立て,その訴訟において争えばよいからです。「確定前の仮執行宣言付き」というキーワードを覚えておきましょう。
本問のイは,1 の確定前の仮執行宣言付き判決に該当しますから,「請求異議の訴えを提起することができる」とする記述は,誤りとなります。
4 担保権の実行による競売等
請求異議の訴えの制度は,債務名義に基づく執行に対してのみ認められるものです。債務名義に基づかない競売等に対しては,請求異議の訴えを提起することはできません。
担保権の実行による競売等は,担保権の効力として認められるものであり,債務名義を根拠にするものではありません。したがって,担保権の実行による競売等に対して,請求異議の訴えを提起することはできません。
この点,本問のウは,担保権の実行としての競売において,請求異議の訴えを提起することができるとしているので,誤りとなります。
5 異議事由の時的制限
確定判決についての異議の事由は,口頭弁論の終結後に生じたものに限られます(35条2項)。口頭弁論終結前の事由に基づく異議を認めることは,前訴の既判力に抵触することになるからです。
たとえば,売買代金の支払請求を認容した確定判決を債務名義として執行がされた場合に,債務者が,そもそも当該契約は債権者の詐欺によるものであったとして,その取消しを主張したうえで,請求異議の訴えを提起することはできません。
詐欺を理由とする取消しの主張は,前訴の口頭弁論終結前に前訴において主張すべき事項であるのに,これを請求異議という別の手続で主張するのは,紛争の蒸し返しとなり,前訴の既判力に反することになるのです。
したがって,確定判決後に,詐欺によるものとして売買契約を取り消したことを理由として請求異議の訴えを提起することができるとする本問エの記述は,誤りです。
以上,ア~オのうち正しい記述はアとオですから,本問は肢2が正解となります。

