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はじめて建物区分所有法入門12 植杉 伸介

3 管理者の代理権

(1)代理とは

 代理とは、契約などの行為を本人以外の者が、本人に代わって行うことをいいます。

 たとえば、エレベーターの修繕契約を締結する場合、本来は区分所有者全員がそろって契約する必要があります。

 しかし、そのような方法は非現実的ですし、不便です。

 この点、代理という方法によれば、区分所有者全員の代わりに、代理人1人で契約ができます。
 代理人が行った契約でも、区分所有者全員が行った契約と同じ効果が生じるのです。


(2)代理権およびその制限

 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する権限を有します。

 この代理権は、管理者に就任することによって、法律上当然に生じます。規約や集会の決議で、代理権を与える必要はありません。


 代理権の範囲は、管理者の職務上の権限全般に及びますが、規約または集会の決議によって、代理権を制限することができます。

 たとえば、一定の金額以上の契約については代理権を認めないこととしたり、ある共用部分についてだけ代理権を有しないこととする場合です。

 このような代理権の制限が行われているにもかかわらず、これに違反して代理行為が行われた場合は、無権限の代理行為として無効となります。

 しかし、管理者は、職務上の権限全般について代理権を有するのが原則なので、相手方は、そのような代理権の制限を知らずに契約してしまうことがあります。


 そこで、管理者の代理権に制限を加えた場合でも、そのことについて善意の第三者に対しては、代理権の制限を主張できないこととされています。

4 管理所有

(1)管理所有とは

 共用部分の管理の便宜のため、規約の定めにより、共用部分を形式上、管理者の単独所有にすることが認められています。これを「管理所有」と呼びます。

 管理所有は、あくまで管理の便宜のために認められるものです。実質的な所有権まで管理者に帰属させるわけではありません。実質的な所有権は、これまでどおり区分所有者全員に帰属しています。

 なお、管理所有は、管理者以外の者が行うこともできます。ただし、管理者以外の者を管理所有者とする場合は、必ず区分所有者の中から選ばなければなりません。


(2)管理所有者の権利義務

 管理所有者は、管理に必要な範囲で、共用部分を自己の所有物として契約等の行為を行うことができます。

 ただ、管理に必要な行為といっても、共用部分の重大変更を管理所有者の独断で行うことはできません。

 共用部分の重大変更は、区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で決定することになっています。

 このような慎重な手続きで決定すべき問題を、管理所有を認めたからといって単独で判断させるのは不適当だからです。

 なお、管理所有者は、共用部分の狭義の管理および保存行為は、集会の決議によらなくても行うことができます。


 管理所有者は、管理のために所有者とされたのですから、区分所有者全員のためにその共用部分を管理する義務を負います。

 また、実質的な所有権は区分所有者全員に帰属したままですから、区分所有者は今までどおり、共用部分を利用し、管理に必要な費用の負担等をしていきます。

5 管理者の民法上の権利義務

(1)管理者への就任契約の法的性質

 管理者に就任する契約は、民法に定める委任または準委任契約(契約等の法律行為を依頼するのを「委任」、法律行為以外の事務処理を依頼するのを「準委任」という)の性質を有します。

 管理者になることは、共用部分等の管理という事務処理を受託する内容の契約だからです。

 そのため、管理者の権利義務については、区分所有法および規約で定めるもののほか、民法の委任に関する規定が適用されることになっています。

 その主な内容は、以下のとおりです。

(2)善管注意義務

 管理者は、その職務を行うについて、善良な管理者としての注意義務(略して「善管注意義務」という)を負います。


 善管注意義務とは、事務処理等を行う場合の注意義務の程度をあらわす概念ですが、その人の職業や社会的地位等から考えてふつうに要求される程度の注意義務を指します。

 比較的高いレベルの注意義務といってよいでしょう。

 管理者が報酬をもらう場合だけでなく、無報酬で事務処理を行う場合も、管理者には善管注意義務が課されます。

(3)報告義務

 管理者は、区分所有者から要求があれば、いつでもその職務処理の状況を報告しなければならず、また、職務が終了した後は、遅滞なく、その経過および結果を報告しなければなりません。

 これは、区分所有法によって定められた集会において毎年1回一定の時期に事務報告する義務とは、別個の報告義務ということになります。

(4)受取物引渡し義務

 管理者は、その職務上受け取った金銭その他の物を区分所有者に引き渡す義務を負い、また、管理者が区分所有者のために自己の名義で取得した権利を区分所有者に移転する義務を負います。

 管理のために職務上受け取った物は、本来、区分所有者全員に帰属すべきものですから、当然の規定といえます。

(5)報酬支払請求権

 管理者は、規約による別段の定め、または区分所有者との合意がない限り、区分所有者に対して報酬を請求することはできません。

 委任契約では、無報酬が原則とされているのです。


ただし、管理会社等の会社を管理者としている場合は、商法の規定が適用される関係上、報酬を請求できるのが原則とされています。

(6)費用前払請求権

 管理者が職務を行うに当たって費用がかかる場合は、管理者は、区分所有者に対して、前払いでその費用を請求することができます。


(7)委任契約の解除

 管理者の就任契約(委任・準委任契約)は、区分所有者・管理者のいずれからでも、いつでも解除することができます。

 したがって、解任決議または規約の変更決議があれば、区分所有者の側から一方的に管理者を解任することができます。また、管理者の側も、いつでも自由に契約を解除して管理者を辞任することができます。


 ただし、やむを得ない事由により解除した場合を除いて、相手方が不利な時期に解任または辞任した場合は、損害賠償をする必要があります。


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